(1)歌舞伎や人形浄瑠璃の題名。江戸の用語で,上方では外題(げだい)(芸題)という。名題は作品の顔とでもいうべきものであったから,作者たちはそれに心を遣った。17世紀後半,縁起を重んじて字数を奇数に整える習慣を生じ,七五三の文字数が好んで用いられたが,その結果,無理な造字が行われることもあった。名題の上に添えて内容を示唆する短い対句を〈角書〉,また,看板や番付で,名題の上に,作品の概要を美文調で記したものを〈語り〉と呼ぶ。名題には,作品の趣旨を表す〈大(おお)名題〉,各幕に付ける〈小(こ)名題〉,劇中,出語りで演奏される浄瑠璃などのための〈浄瑠璃名題〉,所作事のための〈所作名題〉,二番目狂言に付ける〈二番目名題〉の別がある。
(2)名題看板の略。興行ごとに,劇場の正面に掲げられる多くの看板のうち,名題に関するものを名題看板といい,立派な枠に入れる大名題看板を始め,個々の名題に対応する看板があった。
(3)名題乗り役者の略。大名題看板には,その上部に一座の主要な役者たちの舞台姿が描かれ,その絵組みにのる役者のことを名題乗り役者といった。古く役者には立者(たてもの)と詰(つめ)(小詰)の別があり,やがてその間に中(ちゆう)役者(中通り,中女方)が発生,立者,中役者,下立役(したたちやく)(お下,稲荷町)の3階級が成立した。幕末には立者を名題と呼ぶようになり,以後,その名称が定着。現在は,名題と名題下との区分が存在し,名題試験によって,昇進の可否が決められている。
執筆者:今尾 哲也
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(1)歌舞伎(かぶき)・浄瑠璃(じょうるり)用語。狂言の題名のことで、上方(かみがた)では「外題(げだい)」(芸題とも表記)と称した。狂言全体につける題名を大(おお)名題(上方は「大外題」)、各幕の内容を暗示するものを小(こ)名題といった。大名題は縁起上、奇数(陽の数)の文字にする慣習があり、ほとんどが五字か七字である。したがって、特殊な文字をつくったり、無理な読み方をする例が多い。長くてよびにくいため、略称(通称・俗称)が一般に用いられる。『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』を「忠臣蔵」、『絵本太功記』の十段目を「太十(たいじゅう)」、『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』を「切られ与三(よさ)」などとよぶのが、その例である。これに対する正式の題名を「本(ほん)名題」ということも行われている。「浄瑠璃名題」の語も用いられた。
(2)歌舞伎用語。名題役者、名題俳優の略。江戸時代に、興行のつど劇場の正面に掲げたいろいろな看板のうち、名題に関係のあるものをとくに「名題看板」といった。それらのうち、格別に大形でりっぱにこしらえるのが、一日の狂言全体の題名である大名題を記した「大名題看板」であり、その上方に一座の主要な俳優たちの舞台姿を絵組みや人形にして飾ることが約束になっていた。ここに選ばれる、ごく限られた俳優のことを「名題役者」とよび、略して「名題」と称した。幕末には、やや概念の枠が広がり、とくに看板とはかかわりなく俳優の階級区分の最高位として、立者(たてもの)の称となっていた。現代では、さらに概念の範囲が広がり、俳優の身分上の二区分(名題と名題下(した))の上位を示す用語になった。歌舞伎俳優は原則として2年に一度行われる名題試験に合格すると「名題」に昇進できる。「名題」は一人前の歌舞伎俳優として認められたことを示す称号であり、その待遇にも差が生じる。
[服部幸雄]
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…《隅田春妓女容性(すだのはるげいしやかたぎ)》や《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》は五瓶の代表作である。彼は96年正月,一番目を《曾我大福帳》,二番目を《隅田春妓女容性》と名題を出した。これ以前の江戸では,一日の狂言は一つの大名題とし,一番目(時代)と二番目(世話)とは何らかのつながりを持たせる作劇法を伝統としていた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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