(1)精神科領城で行われる作業療法とは、精神障害の慢性期または回復期の患者に対し適切な作業を行うことにより、病気の回復や社会復帰の促進を図る治療法をいう。すでに紀元前、医聖として名高いヒポクラテスは精神障害の記述もしており、古くからその治療には、音楽をはじめ各種のレクリエーションや、農耕、動物飼育、園芸、手芸などの作業が有効であるといわれてきた。
現代の精神科治療は薬物療法と精神療法に2大別されるが、作業療法は20世紀に入ってからその治療理論が見直され、精神療法としての位置づけを不動のものとした。すなわち、まず患者の健康な心身の能力を作業によって賦活、強化し、病的な部分を徐々に克服しようとするが、精神科病院で病棟開放を前提として行う生活療法は、作業指導のみでなく、レクリエーション、それに社会復帰を目ざす再教育を含む生活指導を総称するもので、広義の精神療法にあたり、最終的にはリハビリテーションにつながる。一方、1965年「理学療法士及び作業療法士法」(昭和40年法律137号)が成立し、日本でも作業療法士に国家資格が与えられるようになり、医師の指示(処方箋(せん))に基づき、療法士が助手とともに個々の患者に作業活動を媒介として治療的な人間関係をつくりあげ、種々の心理的メカニズムによって患者の自立性、社会性を図るようになった。なかでも、環境を重視し、対人関係のあり方から患者の心理を分析する力動精神医学の立場で、技術や能率の向上にとらわれない創造的作業を加え、精神症状の改善、情緒的な欲求の満足を与えて葛藤(かっとう)の浄化を促し、健全な人間関係をつくりあげる考え方が重視されている。
近年、精神障害者の在宅医療が普及する傾向にあるが、これは病院の内外にわたる作業療法を中核とするリハビリテーション医療の体系が確立されることによって達成される。一般的には、病院と社会の間をつなぐホステル(共同住宅)や作業所など、いろいろな中間施設や障害者の社会復帰を促進する諸制度の充実が必要とされる。ことに慢性に経過する統合失調症(精神分裂病)の患者には、身体障害者に適用される雇用促進のための職能療法が、生産的作業療法として今後重要視されるだろう。また、病院から退院する過程としてみれば、病院外の企業に一定期間患者を委託通勤させるナイトホスピタル、逆に昼間のみ病院に一定時間とどまり夜は帰宅するデイホスピタルなども、作業療法が一つのたいせつな要素となっている。
要するに、患者のもつ諸条件を考慮しつつ、人間性の回復を図って実施する精神療法の一側面であることが重要なのである。
[竹村堅次]
(2)身体障害者のリハビリテーションの一環として行われる作業療法は、とくに上肢の有用な機能を回復し促進させるために、いろいろな作業を利用する治療法である。上肢の麻痺(まひ)などに対して、年齢、性別、障害の程度などにより、玩具(がんぐ)や刺しゅう、編物などの手工、木工、陶工、粘土細工などが行われ、また日常の生活動作の訓練が行われる。さらに職業に復帰させるために、前職業的な作業療法も行われる。
このような作業療法は、専門医師の指示に従って主として作業療法士により行われるが、理学療法士によって行われる運動療法(長期臥床(がしょう)や四肢の固定、麻痺などによって引き起こされる関節拘縮や筋萎縮(いしゅく)などの低運動性疾患に対し、運動機能低下の予防および機能維持のために行う療法)と同時に行わなければ、効果があがらないことが多い。
[永井 隆]
患者が疾病や外傷から回復するのを助けるために,医師によって処方され,作業療法士occupational therapistによって指導される活動をいう。治療手段としては,作業,仕事,日常生活動作,レクリエーションなどが用いられる。精神的あるいは身体的に患者の回復を助けるという目的のない作業は作業療法といわない。作業療法の歴史を考えるとき,身体障害作業療法と精神科作業療法とに分けることが行われる。精神科作業療法の歴史は非常に古く,作業が運動や遊戯や音楽などといっしょに精神病の治療法として用いられたのは紀元前からであるという。しかし,18世紀末にフランスのP.ピネルが精神病患者を鎖から解放して作業を課したことは画期的なことであり,近代の作業療法は彼に始まるといってよく,また,その学問的な体系づけはドイツのジーモンHerman Simon(1867-1947)が1927年に賦活療法aktive Krankenbehandlungとして体系化したのが最初である。ジーモンは,作業が患者の中に残存する健康な面を強化・増進させることによって,障害された病的な部分が克服されることに意義を認めた。一方,身体障害作業療法は,第1次および第2次大戦の障害者治療において,リハビリテーション医療の一翼を担うことになった。また肢体不自由児療育のなかでも,日常生活指導などに作業療法が実行されていた。
日本では63年の国立リハビリテーション学院の開設,65年の〈理学療法士及び作業療法士法〉の制定によって,作業療法の対象は,子どもから老人,精神障害から身体障害まで広範囲の患者を扱うことになった。97年現在,作業療法士は約8400人に達し,対象は脳卒中,手の外傷,切断,慢性関節リウマチなどの身体障害,統合失調症,躁うつ病などの精神障害,脳性麻痺などの小児,そのほか老年者の心身機能低下などがある。しかも急性期治療から前職業訓練,家庭指導までも含まれるのであるから,作業療法士は単に医学的知識のみならず患者や障害者の社会的・心理的適応に関する問題にも経験を有する必要がある。作業療法はその活動の場によって内容の変化が必要で,作業療法士は次のような仕事場にその活動が期待されている。(1)総合病院,(2)リハビリテーション・センター,(3)保護施設を伴った工場や作業所,(4)障害者の家庭,(5)肢体不自由児施設,(6)老人施設,(7)精神病院など。なお,1952年には世界作業療法士連盟World Federation of Occupational Therapistsが結成されている。
→精神療法 →リハビリテーション
執筆者:岩倉 博光+加藤 伸勝
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… 第2次大戦中,アメリカ空軍の軍医であったラスクHoward A.Rusk(1901‐89)は,軍病院に放置されていた多数の戦傷兵に回復訓練をし,独立した生活を可能にさせ,さらに労働に復帰させた。彼は多数の理学療法士,作業療法士とともに努力して医学的リハビリテーションの体系を確立していった。戦後アメリカの影響を強く受けた日本の医学面にも,こうしたリハビリテーション医学が浸透してきた。…
※「作業療法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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