医師または歯科医師が、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合に、患者または現にその看護にあたっている者に対して交付しなければならない文書(電子処方箋では「電子文書」)をいう。処方箋の交付義務は、医師法や歯科医師法に定められており、処方箋には、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間、病院もしくは診療所の名称、所在地または医師の住所を記載し、処方を行った医師の記名押印または署名が必要である。電子処方箋では、処方を行う医師一人一人に付与されたHPKI(保健医療福祉分野公開鍵基盤Healthcare Public Key Infrastructure)カードが電子署名を行うためには必須となる。なお、電子署名された電子処方箋は紙処方箋と同等の原本として扱われる。また、電子処方箋に基づき調剤を行う薬剤師もHPKIカードを取得していることが必須である。処方箋は交付日を含めた4日以内(休日祝日を含む)に調剤を受けないと無効となる。薬局開設者は、調剤済みとなった処方箋を、調剤済みとなった日から3年間保存しなければならない。
1回の処方箋で処方可能な日数は、基本的には病状を勘案して医師により任意に決められているが、誤って過量摂取すると危険な薬剤などには処方可能な日数の上限が定められている。家庭内で長期の薬剤の保存が困難な場合など薬剤師のサポートが必要と判断された場合は、「分割処方」として処方箋に記載された日数を最大3回までに分けて調剤を行うことができる。また、病状が安定しており、かつ安定的に服薬が行えていると医師が判断した場合には、「リフィル処方」として同一処方箋を3回まで反復利用可能な仕組みが2022年(令和4)から開始されている。これにより外来受診頻度の適正化や、受診に伴う患者・家族の負担軽減が期待される。
従来は紙で行われていた処方箋の発行も、電子化が進められており、2023年からは実運用が開始されている。電子処方箋の導入は、単なる処方箋のペーパーレス化にとどまらず、処方箋情報をクラウド内で一元管理化(インターネットを介して「電子処方箋管理サービス」内にデータを一括保存)をすることで、情報の共有や活用を図る医療DXの一環としてとらえるべきである。なお、DXとはデジタルトランスフォーメーションDigital Transformation(デジタル改革)の略であり、医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータについて外部化・共通化・標準化を図り、国民がより良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることである。電子処方箋を運用することで、複数医療機関からの複数年分の処方情報が一元的に集約・分析されることとなり、重複処方の防止や飲み合わせリスクなどを軽減させることが可能となる。電子処方箋の運用においては、基本的には従来の保険証にかわるマイナンバーカードによるオンライン資格確認(医療機関の受付に設置された「顔認証つきカードリーダー」による本人確認)が想定されているが、従来の保険証のみを有する場合でも医療機関受付にて登録作業を行うことで対応が可能となっている。なお、オンライン資格確認(顔認証付きカードリーダーでの受付手続き)時に、過去の処方情報や健診データの共有の可否を選択することも可能である。処方内容および履歴は患者各自でマイナポータルから確認が可能である。
処方箋を受けた薬剤師は、処方内容に疑わしい点がある際などは、処方箋を交付した医師に疑義照会を行うことが求められている。従来の紙の処方箋では、疑義照会はおもに電話により診療中の医師に直接問い合わせを行っていたため、薬剤師および医師双方の時間ロスが大きく、疑義に対する回答情報も特定の薬局での活用にとどまっていた。電子処方箋の導入により、疑義照会を電子的やりとりで完結させることが可能となり、さらに、疑義照会の記録がクラウド内に保存されることで複数機関から参照することが可能となるため、医療資源の効率化のみならず医療事故の防止にもつながることが期待される。
数々の利点を有する電子処方箋であるが、昨今顕在化したマイナンバーカードの誤登録問題は、個人情報の管理保全に対する国民の信頼低下を招くこととなり、マイナンバーカードでの資格確認を運用の基盤とする電子処方箋の普及が遅れることが懸念される。しかし、2023年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」に明記されているように、医療DXの流れは不可避であり、電子処方箋の数々の利点を国民が安心して享受できるよう、問題の早急な解決が望まれるところである。
[辻 典明 2023年9月20日]
患者の氏名・年齢,薬名・分量・用法・用量等を記載した用紙。これに記載すべき事項は,医師法施行規則21条に定められている。医師は,みずから診察しないで処方せんを交付してはならない(医師法20条)。また,医薬分業の原則のもと,医師は,患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には,患者または現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならず(22条),薬剤師は医師等の処方せんによらなければ,販売または授与の目的で調剤してはならない(薬剤師法23条)と規定されている。しかしながら,医師みずからが調剤しうる例外的な場合を多数列挙する医師法22条但書によって,法律上,処方せんの不交付が可能となっており,実際上,処方せんが交付されることは非常に少ない。
執筆者:平林 勝政
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