日本大百科全書(ニッポニカ) 「供祭人」の意味・わかりやすい解説
供祭人
くさいにん
供菜人とも書く。神社に所属する神人(じにん)の一種で、ことに供祭物(供菜物)を奉献する者をいう。菜の中心は真菜(まな)(魚)で、このため中世においては、供祭人は通常漁民の身分呼称となり、宮廷の供御人(くごにん)と並ぶ位置を占めた。彼らは、中央の諸大社、地方の一宮(いちのみや)などの有力神社に属し、諸国の漁場開拓、海産物の輸送・販売などに活躍した。とくに有名なのは賀茂社(かもしゃ)供祭人で、津々浦々の「魚付(うおつき)の要所」(漁場)に自由居住し、「櫓棹杵(ろさおかし)」の通う限りの浜に同社末社を勧請(かんじょう)して供祭所(御厨(みくりや))とする特権を主張した。諸社の伝説によれば、神人漁民にとっては、漁場に魚が回遊してくること自体が神の幸(さち)と観念されており、彼らの宗教的特権は、中世に頻々と発布された殺生禁断令においても、その例外として容認されたほどの強さを有していた。
[保立道久]