供祭人(読み)くさいにん

世界大百科事典 第2版 「供祭人」の意味・わかりやすい解説

ぐさいにん【供祭人】

山城(京都府)の賀茂神社(上賀茂・下鴨両社)が各地に領有した御厨(みくりや)の住民で,漁猟に従事し,供祭物(神前への供物)としての魚類貢進とした人々。1090年(寛治4)白河上皇が賀茂両社にそれぞれ不輸田600余町を寄進するとともに,御厨を諸国に分置したが,それ以前からのものも含め,両社は琵琶湖岸や瀬戸内海周辺に多くの御厨を領有した。上社の近江安曇河(あどがわ)御厨では,寛治の寄進以後同社神人(じにん)となった52人について,人別に3町の公田を引き募って神田とし,贄(にえ)を進させたと伝え,その数年前に下社が社領とした摂津長洲御厨の場合は,以来〈海中網人を招き寄せ,河漁にたずさわるを語らい寄せて,数百家をいざないすえ,供祭人となした〉といわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「供祭人」の意味・わかりやすい解説

供祭人
くさいにん

供菜人とも書く。神社に所属する神人(じにん)の一種で、ことに供祭物(供菜物)を奉献する者をいう。菜の中心は真菜(まな)(魚)で、このため中世においては、供祭人は通常漁民の身分呼称となり、宮廷の供御人(くごにん)と並ぶ位置を占めた。彼らは、中央の諸大社、地方の一宮(いちのみや)などの有力神社に属し、諸国の漁場開拓、海産物の輸送・販売などに活躍した。とくに有名なのは賀茂社(かもしゃ)供祭人で、津々浦々の「魚付(うおつき)の要所」(漁場)に自由居住し、「櫓棹杵(ろさおかし)」の通う限りの浜に同社末社を勧請(かんじょう)して供祭所(御厨(みくりや))とする特権を主張した。諸社の伝説によれば、神人漁民にとっては、漁場に魚が回遊してくること自体が神の幸(さち)と観念されており、彼らの宗教的特権は、中世に頻々と発布された殺生禁断令においても、その例外として容認されたほどの強さを有していた。

[保立道久]

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