価値形態(読み)かちけいたい

改訂新版 世界大百科事典 「価値形態」の意味・わかりやすい解説

価値形態 (かちけいたい)

資本論》特有の用語で,商品の価値を表現する形。物が売物(商品)であることを示すところの価格は,本来は,それぞれの国で貨幣としての金の一定量を単位にとり,それに〈円〉とか〈ドル〉とかの名称をつけ,この呼称でもって,商品の価値を大小さまざまの金の量で表現したものであり,商品の価値表現の完成した形と考えられる。《資本論》では,この価値表現の萌芽から完成形態への発達を,A.単純な価値形態→B.全体的な,または拡大された価値形態→C.一般的価値形態→D.貨幣形態[価格]への展開として分析することにより,商品に価格の形を与えて商品形態を成り立たせ,また商品の運動(売買)を成り立たせるところの貨幣が,いかにして商品そのものの内から形成されざるをえないか,その必然性を明らかにしようとした。

 A.単純な価値形態は,たとえば,

2ヤールのリネン亜麻布]=1ポンドの茶

    [相対的価値形態]=[等価形態]

という,いわゆる価値等式で表される。左辺は,自己の価値を相手の商品の使用価値の量でもって表現しようとするある商品,右辺は,その使用価値の量でもってある商品の価値表現の手段となる相手方の商品の立場を表す。

 B.全体的な,または拡大された価値形態は,リネンの価値が,単一に茶だけではなく,たとえば上衣,コーヒー,小麦,鉄,その他のあらゆる商品の使用価値の量で表現される形である。

 C.一般的価値形態は,Bの左辺と右辺がひっくり返って,すべての商品の価値が,逆に,使用価値としてのリネンの量によって一般的に表現される形である。

 D.貨幣形態は,Cのリネンの代りに,使用価値としての金の大小の量でもって,すべての商品の価値を表現する形,すなわち価格である。価値を価格として表現する貨幣としての金は,社会的な選択を経た適切な一般的等価物だというのである。

 マルクスによれば,労働生産物の価値形態は,資本制生産様式を,社会的生産の特殊な,また歴史的な形態として特徴づける,最も抽象的な形であり,その分析は,資本制生産様式のこの特殊歴史的な形態規定性を明らかにしようとする《資本論》の弁証法的方法の,最初の歩みを示すものとされている。〈価値形態〉の論理は,〈労働の二重性〉のそれとともに,古典派経済学への批判点として,マルクスが独創を誇ったものであるが,両者とも難点を残している。
資本論
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「価値形態」の意味・わかりやすい解説

価値形態
かちけいたい
Wertform ドイツ語

商品は使用価値と価値という2要因を統一したものである。このうち使用価値は商品体そのものであるから感覚的にとらえることができるのに対して、抽象的人間的労働を実体とする価値は、超感覚的で純粋に社会的なものであり、他の商品との社会的関係においてのみ現象する。こうした価値の現象形態を交換価値または価値形態という。もっとも単純な価値形態は、x量のA商品=y量のB商品である。この価値等式において、A商品の価値はB商品の使用価値によって表現されている。この場合、A商品の価値表現の材料として役だっているB商品を等価形態にあるという。等価形態にたつB商品は、商品の自然的形態そのものが価値の現象形態になっており、A商品に対して直接交換可能な性質を与えられている。この単純な価値形態は発展して、社会のすべての商品の価値が等価形態にたつ唯一の商品(一般的等価形態)によって表現されるに至る。こうした一般的等価形態の役割を最終的に独占するのが金であり、商品価値を金で表現したものが貨幣形態である。

[二瓶 敏]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の価値形態の言及

【資本論】より

…第3巻は,第1編〈剰余価値の利潤への転化と,剰余価値率の利潤率への転化〉,第2編〈利潤の平均利潤への転化〉,第3編〈利潤率の傾向的低下の法則〉,第4編〈商品資本と貨幣資本の,商品取扱資本と貨幣取扱資本への転化(商人資本)〉,第5編〈利子と企業者利得とへの利潤の分裂,利子生み資本〉,第6編〈超過利潤の地代への転化〉,第7編〈収入とその源泉〉から成る。
【第1巻の構成】
 第1~2編で,商品→貨幣→資本のカテゴリーの展開を後づけ,とくに商品の章で〈労働の二重性〉に基づくマルクス特有の労働価値説と〈価値形態〉論とを提示し,やがて〈労働力の売買〉を媒介に第3編以下の生産過程の分析に入っていく。第3編では,1日の労働時間(労働日)における〈価値および剰余価値〉の形成と,剰余価値の〈不払労働の搾取〉としての取得を,第4~6編では,資本制生産方法の展開と,その結果としての賃金のカテゴリーを,第7編では,資本の蓄積が,賃金と剰余価値の運動にもたらす効果と,労働者階級の運命に与える影響を扱っている。…

※「価値形態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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