個人的所有(読み)こじんてきしょゆう(英語表記)individual ownership 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「個人的所有」の意味・わかりやすい解説

個人的所有
こじんてきしょゆう
individual ownership 英語
individuelles Eigentum ドイツ語
личная собственность/lichnaya sobstvennost' ロシア語

個人による生産財消費財所有のことであるが、その内容理解は一義的ではない。資本主義もとで個人的所有という場合は、個人的私的所有という意味に用いられることが少なくないが、厳密にいうと、個人的所有と個人的私的所有とは異なる概念である。というのは、個人的私的所有は、個人が社会との共同性を欠いた排他的意思支配を行う所有であるのに対して、個人的所有概念はそのような排他性をかならずしも意味せず、共同所有との両立も可能なものと考えられているからである。

 社会主義における個人的所有の理解をめぐっては論争があるが、社会的所有は生産財に、個人的所有は消費財に関するものだという二分法的解釈が、一般的である。その場合、消費財について私的所有概念を適用しないのは、個人による消費財の所有が社会的所有と共同労働結果であるという、その源泉の共同性が考慮されるからである。現代社会主義の現実の所有制度においては、この二分法的解釈が採用されていたが、ただし、社会的所有の対象には生産財だけでなく共同利用の消費財も含まれ、個人的所有の対象には個人的消費財以外に、コルホーズ農民などの個人副業経営における生産財も含まれていた。このような通説的見解に対して、社会主義の下では同一生産財について社会的であると同時に個人的でもあるような所有が成立すべきだとする見解がある。これは、勤労者疎外克服という観点から、あるいは社会主義に限らず、広く経済民主主義の観点から、思想的に魅力ある解釈であるが、生産財の利用に関する各個人の意思決定と社会の意思決定との合致を全社会的に確保するメカニズムは、財の希少性の下での利害対立を前提とすると非現実的であり、現実的適用可能性には疑問がもたれている。

[西村可明]

『平田清明著『市民社会と社会主義』(1969・岩波書店)』『西村可明著『現代社会主義における所有と意思決定』(1986・岩波書店)』

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