改訂新版 世界大百科事典 「催淫薬」の意味・わかりやすい解説
催淫薬 (さいいんやく)
aphrodisiac
催淫薬という言葉は,俗間では男女の房中に用いられる媚薬(びやく)(ほれぐすり)と同じ意味で使われ,いかがわしいものや有効成分の不明なものまで含めることが多い。しかし,ここでは催淫薬を,性欲を亢進させ,陰茎の勃起を促す薬物と定義する。つまり強精剤と同義といえるが,より直接的な呼称である。催淫薬の英名はギリシアの女神アフロディテに由来し,ヒッポクラテスがこの語を〈性的快楽〉の意味に用いたことに始まる。
催淫薬は,大別して直接陰茎の勃起を起こす薬物と,中枢の精神的抑制を解除して間接的に勃起を促す薬物とに分けられる。直接的な薬物としては,まず生薬由来のストリキニーネとヨヒンビンがあげられる。しかしストリキニーネは一般的な興奮が強すぎること,また強力な痙攣(けいれん)毒であることから,その使用はきわめて危険である。ヨヒンビンはアフリカ産アカネ科の植物ヨヒンベPausinystalia yohimbe皮中に含まれるアルカロイドで,生殖器血管の末梢性拡張をきたすとともに,腰髄の勃起中枢に作用して陰茎の勃起を起こす。大量を投与すると延髄麻痺により呼吸麻痺や心臓停止を起こす危険がある。薬理学的には交感神経の受容体遮断薬である。カンタリジンや揮発油は,内服後排出されるときに尿路で刺激性を現し,勃起を促進するが,腎臓通過の際に腎炎を起こす危険がある。間接的に作用するものとしては,大麻,モルヒネ,アルコールなどがあげられる。精神的抑制を解除することにより勃起を促すもので,麻酔薬の発揚期を利用したものとみなすこともできる。
そのほか,成分や作用機構は不明であるが,多くの民間薬が媚薬とだぶった形で用いられており,その多くは植物を乾燥させたものである。たとえばイカリソウ類の植物の茎や葉を乾燥させたものは,淫羊藿(いんようかく),千両金,仙霊脾(せんれいひ)などと呼ばれているが,この中からはイカリインという成分が分離されている。より単純な発想で,動物の睾丸製剤なども用いられる。
→媚薬
執筆者:重信 弘毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報