翻訳|erection
陰茎海綿体が血液で充満され、容積が増大して硬くなった状態をいう。視覚、聴覚、嗅(きゅう)覚、イメージのような性的刺激が脳幹部を経て脊髄(せきずい)の勃起中枢(第2~第4仙髄)に伝えられ、ここから骨盤神経(勃起神経)を経由して陰茎の血管系に伝わり、勃起がおこる。このような性的興奮を伴う勃起を色情性勃起あるいは精神性勃起とよんでいる。一方、陰茎亀頭(きとう)部や尿道に加えられた知覚刺激は陰部神経を経由し、膀胱(ぼうこう)、精嚢(せいのう)、前立腺(せん)などからの深部知覚は骨盤神経を経て脊髄勃起中枢に伝えられ、これらの刺激は遠心性に骨盤神経を経由して陰茎支配血管系に伝わり、勃起がおこる。このような反射弓によっておこるものは反射性勃起とよばれている。
従来、早朝覚醒(かくせい)時の勃起は、膀胱に尿が充満するためにその刺激で反射的におこると考えられていたが、近年の研究ではレム睡眠期にみられる勃起の名残(なごり)が続いているものと理解されるようになった。
勃起はさまざまな心理的原因によって抑制されるし、器質的な原因、たとえば脳脊髄疾患や脊髄損傷、骨盤内臓器の手術などによる末梢(まっしょう)神経損傷、あるいは内分泌疾患などによっても勃起不能に陥ることがある。また、性的興奮を伴わず長時間勃起が持続することがあり、これを持続勃起症とよび、一般に疼痛(とうつう)を伴う。原因は不明のこともあるが、最近ではインポテンスの治療の目的で血管作動薬を陰茎海綿体内に注射することによって引き起こされていることが多くなった。このほか、中枢神経疾患、海綿体の炎症、腫瘍(しゅよう)、白血病などに伴ってみられることもある。
[白井將文]
陰茎海綿体が充血し,陰茎が強直,直立する現象をいう。陰茎の勃起は,亀頭部,尿道,膀胱,前立腺などへの刺激や,大脳高位中枢の興奮によって起こる。陰部神経,骨盤神経を経て伝えられた刺激は脊髄勃起中枢に至り,中枢の興奮は同じ経路で陰茎に伝えられる。また脊髄勃起中枢は大脳高位中枢の支配をうけている。これらの神経の働きで陰茎動脈が弛緩して陰茎海綿体への流入血液量が増大し,一方,深部陰茎静脈が収縮して血液の流出を抑え,勃起が起こる。勃起が病的に持続する状態を持続陰茎勃起症という。陰茎の腫瘍,白血病浸潤,外傷,炎症,性的過剰刺激,脳脊髄疾患でみられる。一方,勃起不全はインポテンツとなる。女性恐怖症などの心因性の要因や,内分泌疾患(下垂体・睾丸の疾患,糖尿病など),神経疾患,精神疾患などで起こる。治療は,原因を十分追究したうえで,原因療法を行う。統計上,インポテンツの原因の90%は心因性であるといわれている。なお,女性の陰核でも同様なしくみで勃起が起こる。
執筆者:小磯 謙吉
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性的興奮により陰茎動脈が拡張し大量の血液が海綿体に流入すると、海綿体は拡張します。陰茎静脈は陰茎の白膜と海綿体に挟まれて収縮し、海綿体内からの血液が流出するのを妨げます。この結果、さらに海綿体内に血液が充満して勃起します。
これらの血管のメカニズムが動脈硬化などで損傷を受けるか、血管を支配する脳脊髄神経や末梢神経が障害を受けると、勃起しなくなります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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…海綿体は網状の小柱と,その空隙である海綿体洞からなり,海綿様である。海綿体洞は不規則な形の静脈腔で血液を含むが,これが充満すれば陰茎の勃起となる。海綿体小柱は疎性結合組織と平滑筋の小束からなり,表面を内皮が覆う。…
…発生学的には陰茎は雌の腟の前方にある陰核と相同のもので,いずれも内部に海綿体を備えている。交尾の際には陰茎の海綿体が充血するため陰茎が膨張・硬直(勃起)し,腟への挿入が容易になる。クジラ類の陰茎は通常は胴体内へ完全に引っ込められており,交尾の際に体外へ突出する。…
…十二指腸潰瘍患者ではレム睡眠時に胃液分泌が亢進し胃痛を訴えることがある(図6)。(6)陰茎勃起 レム睡眠に同期した勃起がみられる。幼児にもレム睡眠に同期した勃起がみられるし,老人でもレム睡眠の45%にみられる。…
…また,この細胞にはときにラインケの結晶とよばれる封入体がみられる(図3)。
[陰茎と勃起]
陰茎は,柱状の陰茎体とその先端につく亀頭から成る。陰茎体を包む薄い皮膚はメラニンが多くて色黒いが,包皮というひだをつくる亀頭では,皮膚の内面は滑らかで色素に乏しく,粘膜様である。…
※「勃起」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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