強精剤(読み)きょうせいざい

精選版 日本国語大辞典 「強精剤」の意味・読み・例文・類語

きょうせい‐ざいキャウセイ‥【強精剤】

  1. 〘 名詞 〙 心身活力や性欲を増進させるために用いられる薬剤
    1. [初出の実例]「薬が無いと仕事がちっとも、はかどらないんだよ。僕には、あれは強精剤みたいなものなんだ」(出典:人間失格(1948)〈太宰治〉第三の手記)

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改訂新版 世界大百科事典 「強精剤」の意味・わかりやすい解説

強精剤 (きょうせいざい)

狭義には催淫薬と同義語とみなされるが,広義には強壮剤や性ホルモン剤,興奮薬などを含めて指すこともある。男子の性交不能症インポテンツ)を治療するための薬物と考えることができる。性交不能症には種々の形が含まれるが,陰茎の勃起不能または不完全を改善する目的の薬物を最も直接的に強精剤と呼ぶ。生薬成分由来のヨヒンビンストリキニーネがまずあげられるが,ストリキニーネは一般的な興奮が強すぎる点,強力な毒物である点から使用はきわめて危険である。ヨヒンビンはヨヒンベ皮中に含まれるアルカロイドであるが,生殖器末梢の血管を拡張させることと,腰髄の勃起中枢へ作用することによって陰茎の勃起を促す。薬理学的には交感神経α受容体遮断薬として扱われる。これも大量投与により延髄麻痺をきたし,痙攣(けいれん)や呼吸麻痺,心臓停止に至る危険がある。刺激して勃起を促すという考えで用いられるのがカンタリジン揮発油である。これらを内服すると尿中に排出されるとき尿路で刺激性を現し,それによって勃起が促される。しかし腎臓を通過する際に腎炎を起こす危険があり現在は使用されない。以上は直接的に陰茎に働いて勃起を促すものであるが,間接的なものとしては中枢の精神的抑制を解除することによって勃起を促すものがある。大麻,モルヒネ,アルコールがこれに属する。この作用はいわば麻酔薬の発揚期を利用したものと考えることもできる。さらには性器の発育促進をはかって性ホルモン製剤を用いることがある。より単純な発想では,動物の睾丸(精巣)製剤などで生殖器の機能を高めようとするものもある。そのほか,成分や作用機構もまったく不明であるが,古来きわめて多くの民間薬が強精剤として用いられてきた。その多くは植物を乾燥させたものである。1907年ころからアマゾンのボロボロノキ科植物の木や根がムイラプアマという強精剤としてヨーロッパにもたらされ,内服の流動エキスまたは陰部浴剤として用いられた。淫羊藿(いんようかく)はイカリソウの類の植物の茎や葉を乾燥したもので,別名千両金,仙霊脾と呼ばれる。これからはイカリインという配糖体が分離されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「強精剤」の意味・わかりやすい解説

強精剤
きょうせいざい

男子の陰萎(いんい)(インポテンス)の治療に用いる薬剤で、催淫(さいいん)剤ともいう。勃起(ぼっき)中枢興奮薬としてヨヒンビンなどがあるが、副作用が強く、大量に用いると腎(じん)障害、中枢神経麻痺(まひ)などをおこし、呼吸麻痺死に至ることもある。内服すると尿中に排出されるとき尿路を強く刺激して陰茎を勃起させるものにカンタリス剤があるが、これも腎炎をおこす危険がある。また、性器の発育を促進させる性ホルモン剤、勃起維持に奏効する局所麻酔剤を含有する軟膏(なんこう)も用いられる。漢方では八味(はちみ)丸(八味地黄(じおう)丸)がもっとも有名であるが、人参(にんじん)、淫羊藿(いんようかく)、枸杞(くこ)子などもよく用いられる。

 催淫剤ではないが、男性の性機能障害である勃起不全(Erectile Dysfunction)の治療薬として、世界的話題になった「バイアグラ」(シルデナフィル)がある。シルデナフィルは陰茎海綿体サイクリックGMP特異的ホスホエステラーゼ5(PDE5)を選択的に阻害し、神経および海綿体内皮細胞由来のNO刺激により産生された陰茎海綿体内のサイクリックGMP分解を抑制することにより、陰茎海綿体平滑筋を弛緩させ、血流量が増加し、陰茎を勃起、維持させる。1998年5月アメリカで発売され、続いてヨーロッパをはじめとして世界各国で使用されるようになった。日本では1999年(平成11)3月発売された。内服薬で、25mgと50mgの錠剤があり、医師の診断によってのみ交付される「処方せん医薬品」である。血管拡張剤である硝酸剤、ニトログリセリンや硝酸イソソルビドなどとの併用は過度に血圧を下降させるので厳禁。また心血管系障害のある人にも授与してはならない。

 バイアグラに続いて、「レビトラ錠」(バルデナフィル)5mg、10mg、20mg、「シアリス錠」(タダラフィル)5mg、10mg、20mgが発売された。

[幸保文治]

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百科事典マイペディア 「強精剤」の意味・わかりやすい解説

強精剤【きょうせいざい】

狭義には催淫(さいいん)薬ともいい,脊髄勃起(ぼっき)中枢に作用,興奮させるもので,ヨヒンビンが代表。その他民間薬としてイカリソウ,ガガイモなどが当てられている。広義には種々の精神賦活薬(カフェインなど)やイミプラミンなどの抗抑鬱(よくうつ)薬などを指すことがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「強精剤」の意味・わかりやすい解説

強精剤
きょうせいざい
antex

性腺刺激剤の商品名から一般名となった。一般的な心身の衰弱老化を補う強壮剤の意味もあるが,普通は性欲,性行為能力の強化を期待する薬剤で,理論的な根拠は乏しく,ほとんど民間薬として伝えられたものである。植物では,クロマメ,黒ゴマ,ニンジン (朝鮮人参) などが賞用され,動物質のものとしては,古くから鹿茸 (ろくじょう。雄ジカの若角) などが世界各地で珍重されている。

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世界大百科事典(旧版)内の強精剤の言及

【媚薬】より

…惚薬にまつわる話は西洋にもあって,アーサー王伝説中のトリストラム(トリスタン)とイズルト(イズー,イゾルデ)の悲劇は,イズルトがマーク(マルク)王と結婚する夜に2人で飲むべき惚薬をトリストラムとイズルトが飲んでしまったことで決定的となった。 体力増進をはかる強精剤も,性的能力を高めて性欲を高進させることになるので広義の媚薬に含まれる。総じて媚薬の中には薬理的に催淫作用が肯かれるものもあるが,荒唐無稽なのも少なくない。…

※「強精剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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