イカリソウ(英語表記)(purple)barrenwort
Epimedium grandiflorum Morr.

改訂新版 世界大百科事典 「イカリソウ」の意味・わかりやすい解説

イカリソウ
(purple)barrenwort
Epimedium grandiflorum Morr.

山地の木陰に生育するメギ科多年草花弁の基部に長い距があり,花の形が錨(いかり)に似ることから錨草の名がついた。地下茎は硬く,多数の根がある。草丈は30~50cm。花茎には1枚の葉をつける。根出葉と茎葉はともに,通常2回3出複葉をなす。小葉は縁に刺毛が多数つく。4~5月ころ,直径約2cmの紅紫色または白い花をつける。花は2数性で,萼は6枚の小さい外萼片と4枚の内萼片よりなり,花弁は4枚あり約15mmの距をつける。おしべは4本,めしべは1本ある。果実は側面の溝により2片に裂け,数個の種子を落下させる。種子はへその周囲に耳状の白い付属物(カルンクラ)があり,アリ散布をする。本州の東北地方から近畿地方までの太平洋側に分布する。全草を煎じ,あるいは酒につけて強壮薬として飲用する。強壮薬として有名な漢方薬の淫羊藿(いんようかく)も中国産のホザキノイカリソウE.sagittatum(Sieb.et Zucc.)Maxim.またはE.brevicornum Maxim.などの葉を乾燥したものである。また観賞用としても栽培され,1830年ころすでにシーボルトによりヨーロッパにもたらされている。

 イカリソウ属Epimediumは日本に約7種が自生し,地方的変異が多い。トキワイカリソウE.sempervirens Nakaiは葉が厚く越年生で,新潟県より山陰にかけて分布する。福井県以北では白花が多く,以南では紅紫色の花が多い。キバナイカリソウE.cremeum Nakai et F.Maek.は,花弁が葉緑素を含み淡黄色で,北海道,近畿以北の本州に分布し,石灰岩地や日本海側に多い。バイカイカリソウE.diphyllum(Morr.et Decne.)Lodd.は四国,九州に分布し,葉は1~2回2出複葉,小葉は円頭で刺毛はほとんどなく,小さい白い花をつける。ホザキノイカリソウは中国中部原産で,薬草としてまれに栽培され,花茎に1回3出複葉を1対と,短い距のある白い小さい花を多数つける。北アメリカ太平洋側に固有なバンクーベリア属Vancourveriaユーラシアのイカリソウ属に似るが,花は3数性である。
執筆者:

イカリソウの葉を漢方で淫羊藿,根茎および根を淫羊藿根という。生薬としてはイカリソウ属の中国産のホザキノイカリソウやE.brevicornum Maxim.などが用いられ,日本産の種も代用される。地上部にフラボノイドのイカリインicariinなどを,地下部にアルカロイドのマグノフロリンmagnoflorinを含む。淫羊藿は精液分泌促進作用があり,強精,強壮薬として陰萎,男性不妊に,脊髄炎による両足麻痺慢性関節リウマチ婦人の多産による衰弱などに用いられる。また淫羊藿根は婦人の白帯下,月経不順の治療薬にする。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イカリソウ」の意味・わかりやすい解説

イカリソウ
いかりそう / 錨草
[学] Epimedium grandiflorum Morr.

メギ科(APG分類:メギ科)の多年草。根茎は太く短く横にはい、じょうぶな細い根を出す。根出葉は長い柄があり、2~3回3出複葉になり、小葉は卵形で先はとがり、基部は心臓形または矢じり形、縁(へり)に刺毛状の鋸歯(きょし)が多い。葉の毛は両面とも多いものから、ほとんどないものまで、さまざまである。4~5月に開花。30~50センチメートルほどの花茎に根出葉とよく似た葉を1枚つけ、上には総状花序に4~7花をつける。花は下向きに開き、径3センチメートル、白ないし紅紫色。萼片(がくへん)は8枚で外側の4枚は早く落ちる。花弁は4枚で長い距(きょ)がありこれが錨(いかり)に似ているので錨草という。山地の林下に生え、北海道西南部、本州の太平洋側、四国、九州に分布し、薬用、観賞用に栽培する。変種が多く、イカリソウの他に、ヤチマタイカリソウ、ヒゴイカリソウなどがある。類似の種に花が小さく、バイカイカリソウとの中間形態を示すヒメイカリソウが四国、九州に分布する。

[鈴木和雄 2019年9月17日]

薬用

イカリソウの茎葉を漢方では淫羊藿(いんようかく)または仙霊脾(せんれいひ)と称して、強壮、強精、止痛薬として陰萎(いんい)、関節痛、腰痛、四肢麻痺(まひ)、健忘などの治療に用いる。中国四川(しせん)省北部の山中でヒツジがこの草を食べて1日に100回交合したことから淫羊藿の名が生まれたといわれているが、陰萎の治療薬としては良質ではない。なお、中国の薬酒である仙霊脾酒は腰痛、四肢麻痺の治療を目的にしたものである。中国ではホザキノイカリソウE. sagittatum Bak.が用いられる。

[長沢元夫 2019年9月17日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イカリソウ」の意味・わかりやすい解説

イカリソウ(碇草)
イカリソウ
Epimedium violaceum

メギ科の多年草で,本州の太平洋側の山地に分布する。大きな株となり,高さ 20~40cmの茎を多数叢生するが,冬は地上部が枯れる。葉は2~3回3出する複葉で各小葉は長さ3~7cmの三角状卵形で,先はとがり,基部は心臓形で縁にはまばらに鋭い鋸歯がある。春,ほとんど葉が開かないうちに数花を総状花序につける。個々の花は比較的大きく,2列8枚の萼片と4枚の花弁があり,内側の萼片は花弁状。花弁には長い距があって外側へ張出している。和名はこの花の形を船のいかりに見立てたものである。花色は通常紅紫色であるが,地域によっては白花をつけるものもある。この属 (イカリソウ属 Epimedium) の植物はユーラシア大陸の温帯に約 20種があり,日本では本州日本海側に分布する常緑のトキワイカリソウ E. sempervirens,西日本に産して距の短い白花をつけるバイカイカリソウ E. diphyllum,本州中部から北海道南部のやや高地に生じるキバナイカリソウ E. cremeumなど約 10種が知られている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「イカリソウ」の意味・わかりやすい解説

イカリソウ

丘陵などの林地にはえるメギ科の多年草。北海道,本州に分布。花茎は春,横に短くはった根茎から出て,高さ20〜40cm。葉は茎の中ほどに1〜2個つき,2〜3回3出複葉で,卵形の小葉に分かれる。花はまばらに数個,茎頂に総状につき,淡紫または白色,4個の花弁には長い距がある。花の形を四つ爪錨(いかり)に見立ててこの名がある。漢方では全草を淫羊【かく】(いんようかく)の名で強壮薬にする。近縁のトキワイカリソウは日本海沿岸地方の山地に野生し,葉は常緑で,とがった大きな小葉がある。キバナイカリソウは主として北陸に分布し,淡黄花を開く。バイカイカリソウは葉は2回2出複葉で,花は白く,花弁には距がない。西日本に野生。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android