弱視
じゃくし
Amblyopia
(眼の病気)
弱視とは視覚の感受性期(8歳くらいまで)の期間内に、網膜上に鮮明な像が結ばないことにより、視覚中枢の発達が妨げられて、視力が出にくい状態をいいます。
たとえば「私の子どもは視力が0.1ないので弱視ではないか」と不安に思われる人もいるかもしれませんが、「裸眼視力が0.1ない(つまり何もつけない状態で視力検査したときの視力が0.1ない)」ということをいっている場合がほとんどです。眼鏡で矯正すると視力が1.0以上出る場合は、細かい物を見る力は完成していると考えられ、弱視とはいいません。眼鏡で完全矯正しているのにもかかわらず、視力が出ない状態が弱視です。
弱視にはさまざまな原因がありますが、主なものを以下に示します。
●斜視弱視
斜視があって、眼が正面を向いていない場合、網膜で最も感度の高い黄斑部に像を結ばなくなり、視機能の発達が妨げられ、弱視となります。正常眼のほうが優位にはたらくため、いつも斜視になっている眼は弱視となってしまいます。斜視については次項で詳しく説明します。
●形態覚遮断弱視
先天性白内障や、まぶたの腫瘍、眼瞼下垂、眼帯などにより視覚入力が妨げられることによって起きる弱視です。新生児にこのような連関要因がはたらくと、数日間でも弱視化することがあり、注意が必要です。
●屈折性弱視
強度の遠視、乱視などが原因となる弱視です。遠視といえば「遠くがよく見える」というイメージをもっている人も多いと思いますが、視力は近くを見ることにより発達するため、近くにピントの合わない強度の遠視では、視機能の発達が妨げられ、弱視が起きます。強度の乱視も同様です。近視の場合は病的な近視でない限りは近くにピントが合うため、弱視にならないことが多いようです。
●不同視弱視
左右の眼の屈折度の差がある程度以上大きくなると、ピントを合わせやすいほうの眼の視覚入力が優先され、ピントを合わせにくいほうの眼(屈折異常が大きい眼)は弱視化します。両眼とも遠視で、左右の屈折度の差が3D(ディオプター)以上になると弱視が起きやすいのですが、片眼のみ強度の近視である場合も弱視となります。
以上主な弱視の種類をあげましたが、弱視の成立の大きな鍵となるのが視機能の感受性です。感受性は出生後上昇し、3カ月くらいでピークをむかえます。1歳半ころまで感受性が高い時期が持続しますが、それ以上は徐々に下降し、6~8歳くらいでほぼ消失します。10歳くらいから弱視の治療を始めても感受性がほとんどないため、効果が得にくいといえます。
弱視の治療法は、視力のよいほうの眼を決められた時間遮閉して、弱視の眼に完全矯正した眼鏡をかけ、強制的に弱視眼を使わせるという方法が基本です。両眼とも同程度の視力低下がみられる屈折性弱視の場合には、完全矯正した眼鏡をかけるだけでよいです。
早期に治療を開始すれば効果が大きいため、3歳児検診などで異常が疑われた場合は早い時期に精密検査を受けることが重要です。
下條 裕史
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
じゃくし【弱視 Amblyopia】
[どんな病気か]
弱視は、視力が発達する途中の乳幼児の時期に、ものをはっきりと見ることができない状態にあったため、視力の発達が止まってしまった病気、と考えられています。
[原因]
原因として、斜視(しゃし)や屈折異常(くっせついじょう)(とくに強度の遠視(えんし)や乱視(らんし))、あるいは視力発達の旺盛(おうせい)な時期に、なんらかの原因によって、外界からの視覚刺激が阻まれた場合などがあります。
生まれつき斜視(「斜視」)があると、斜視のほうの目が使われないため、その目の視力が発達してきません。このように斜視が原因となっておこる弱視を、斜視弱視(しゃしじゃくし)といいます。
また、片方の目だけに強度の遠視や乱視があると、見えにくいので使われないため、その目の視力が発達しません。このように、左右の目の屈折度のちがいが原因となっておこる弱視を、不同視弱視(ふどうしじゃくし)といいます。
さらに、両目に強度の遠視や乱視があると、常にぼやけた状態におかれるために、十分に視力が発達しません。これを屈折弱視(くっせつじゃくし)といいます。
視力の発達時期に十分に視覚刺激が目に入らなかったためにひきおこされた弱視を、形態覚遮断弱視(けいたいかくしゃだんじゃくし)といいます。これはたとえば、出生直後から2歳ごろまでの視力の発達の盛んな時期に、まぶたが完全に下がっていたり、けがをして片方の目だけに眼帯(がんたい)をしたりして、光の進入がじゃまされたときにひきおこされる弱視をいいます。
[検査と診断]
弱視は、早く発見し、早期の治療で治せるものもあります。しかし、早期の発見はなかなか困難です。
乳幼児期に視力検査はできないので、できるだけものを見るそぶりを観察して、いかにも見にくそうな態度(たとえば、テレビを見るときにくっついて見る、横目で見る、目を細めて見る、黒目(くろめ)がゆれている、斜視がある、など)に気づいた場合には、すぐに眼科医の精密検査を受ける必要があります。
視力が悪く、弱視が疑われる場合には、ほんとうに弱視かどうかを調べ、弱視とわかったら、どういう種類の弱視か、そして治療をすれば回復する可能性があるのかどうかを検査します。
[治療]
原因となっているものを治すことがたいせつで、治療法は原因によって異なります。人間の視力は6~9歳ごろには、いちおう完成してしまうので、1日も早く発見し、治療を開始することが重要です。
斜視弱視の場合は、乳幼児であれば健康な目に眼帯をかけ遮閉(しゃへい)し、弱視の目でものを見させる遮閉法を行ないます。不同視弱視の場合は、めがねを使用することで左右の目の度を同じにし、それでも視力が向上してこなければ遮閉法を併用します。屈折弱視の場合は、めがねを用いて屈折を正します。
出典 小学館家庭医学館について 情報
弱視
じゃくし
視力は生まれたときはすべて不良であるが、目のフィルムに相当する網膜にピントのあった像が繰り返し投影され、つまり見ることを学習することにより発達してくる。この発達過程が妨げられると弱視になる。明らかに器質的な異常が認められる場合を器質的弱視といい、外見上異常がみられず、屈折異常を矯正しても視力が出ないものを機能的弱視という。狭義の弱視は後者をさす。
機能的弱視は次のように分類されている。
[大島 崇]
両眼の視線が斜視のために一致せず、片方の目の視線が曲がっていつも目標に向かないため、その目の中心に目標の像が映らないことになり、その側の目の視力が発達しないものをいう。斜視があっても、交代性に両眼がかわるがわる目標のほうを向く場合には、弱視にならない。そこで斜視弱視の治療は、片方の目ばかりが曲がらないよう両眼を交代に使えるようにし、視力が出てきたところで斜視の手術をする。
[大島 崇]
片方の目が遠視、乱視、強度の近視などのため、その目のピントがいつもあわないためにおこる弱視をいう。治療法としては、眼鏡かコンタクトレンズでピントをあわせ、積極的に使わせるようにする。
[大島 崇]
両眼が中等度以上の遠視のため、つねにピントがあわず(近視の場合は近くでピントがあうところがある)、視力の発達が遅れたものをいう。早期に眼鏡を使用させるだけで、視力が発達してくる。ときには視力の発達の遅れから知能障害と誤解されることもあり、眼鏡をかけることにより行動まで生き生きとしてくることもある。
[大島 崇]
廃用性弱視ともよばれるもので、片方の目の白内障、まぶた(眼瞼(がんけん))がまったく開かないくらい高度の眼瞼下垂や、眼瞼血管腫(しゅ)、角膜先天混濁などにより、生後一定期間、物をまったく見ることができなかった目は、以後その原因を除去しても永久に視力が発達しない。このような弱視は、生後ただちに白内障手術や眼瞼下垂手術を行って障害物を除去し、弱視を予防しなければならない。
なお、最近は用いられないが、医学的弱視、教育的または社会的弱視という分類がある。医学的弱視とは治療の必要な、または治療の可能な弱視をいい、大部分が前述の機能的弱視である。一方、教育的または社会的弱視とは、これ以上視力の向上が望めないため、あるいは現在の時点では視力が不良なために、教育的あるいは社会的配慮が必要なもので、大部分が両眼性の器質的弱視であり、視力が0.04以上0.3未満が対象となる。昭和40年代のなかばごろからは医学的弱視と混同されないように、視覚障害者とよばれるようになった。
[大島 崇]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
弱視
じゃくし
amblyopia
医学的弱視と社会的弱視に分けられる。医学的弱視とは,目に器質的病変がないか,あってもそれで説明がつかない視力低下で,通常,矯正視力 0.7以下のものをいう (機能的弱視) 。医学的弱視には,斜視弱視,不同視性弱視,屈折性弱視 (強度近視,強度遠視) ,ヒステリー性弱視などがある。一方,社会的弱視とは,両眼の視力がかなり不良で,治療によって回復の見込みがないものをいい,文部科学省の特殊児童判別基準では,視力が 0.04~0.3未満をすべて弱視としている (器質的弱視) 。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
弱視【じゃくし】
普通,器質的な視力障害が認められないのに視力減退を示すものをいう。先天性弱視,斜視や単眼もしくは両眼遮(しゃ)眼後にみられる廃用性弱視,ヒステリーに伴うヒステリー性弱視などがある。ただし一般に視力減退,特にレンズで十分に矯正することのできない視力減退を弱視ということもある。
→関連項目斜視|盲人
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
じゃく‐し【弱視】
〘名〙 視力の弱い場合の
総称。医学的には、眼科学的な精密検査でも視力障害が明らかにできないもの。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
じゃく‐し【弱視】
視力が弱いこと。眼鏡などで矯正することのできないものをいう。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
じゃくし【弱視】
弱視の語には,視力が弱いという点では共通であるが,原因がまったく異なる次のような二つの状態が含まれている。(1)医学的弱視または機能的弱視amblyopia 眼に適当な刺激が与えられないために廃用性の機能低下をひきおこした状態。その原因は,斜視,不同視,眼帯の装用などで,とくに片眼だけが使われにくい状態のときにその眼の視力低下がおこる。これらの原因が年齢のより低いときにおこるほど,また長く続くほど,弱視の程度は著しくなり回復困難となるが,適切な時期に原因をとりのぞき回復訓練を行えば,視力向上の可能性がある。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の弱視の言及
【屈折異常】より
…(2)視力障害 遠視の度が強いと,調節してもよく見えない。(3)弱視 子どもの視力発達時期に中等度以上の遠視があると,視力の発達が遅れて弱視になる。(4)斜視 中等度以上の遠視では,調節の努力のために内斜視になる。…
【斜視】より
… 斜視では,美容上の問題以上に両眼視ができないために,遠近感や立体視が得られない。つねに片眼が斜視になっていると,その眼が廃用性の弱視となることもあり,片眼ずつ交代視していると,視力は保たれても,脳の両眼視機能が不良となることも多い。こうした状態は,発症が低年齢であるほど,また持続期間が長いほど著しく,将来治療をしても効果の上がらない不可逆的変化をひきおこす。…
※「弱視」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報