児童虐待(読み)じどうぎゃくたい(英語表記)child abuse

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

児童虐待
じどうぎゃくたい
child abuse

子供に意図的に身体的・精神的苦痛を与える行為。1970年代まではもっぱら身体的虐待をさしていたが,今日では性的虐待育児放棄,情緒的虐待(ことばによる虐待や心的外傷を残すような懲罰など)を含む。また世界保健機関 WHOは,商業的その他の搾取(児童労働や児童売春など)を児童虐待の範疇に加えている。親が虐待行動をとる背景には,ストレスの多い日常生活や自分の力が及ばない状況に対処しきれないなどの問題があり,事態を打開するために自分の意思を無防備な子供に押しつけるような,ゆがんだ行動に出てしまうとみられる。また子供を虐待する親の多くは,みずからも幼少期に虐待を受けていたことが研究によって示されており,この虐待の連鎖は性的虐待においてとりわけ顕著にみられる。児童虐待を防ぐ取り組みは 1960年代初め,アメリカ合衆国の医療専門家が子供への身体的暴力を被虐待児症候群と名づけたことに始まる。これをうけてアメリカでは子供への暴力行為を捜査し,通報することを義務づける法律が制定された。国際的には 1990年児童の権利に関する条約が発効,日本は 2000年に児童虐待の防止等に関する法律を施行した。

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知恵蔵の解説

児童虐待

親など家庭内での保護者から子供に加えられる虐待。内容は、身体的暴力、わいせつ行為、「おまえはダメな子」などの言葉による心理的虐待、食事をさせない・学校に行かせないなど養育義務を果たさないネグレクト(neglect=育児放棄)などに分けられる。全国の児童相談所への相談件数が1990年代後半に急増し、90年度の1101件から2006年度には約3万7000件と、16年で34倍となった。原因は、しつけと虐待の区別がつかない親が増えた、孤立した専業主婦の不安、不満感などといわれるが、急増の理由は、経済状況の悪化に伴い、子供を邪魔に思う親が多くなっている状況が大きい。できちゃった婚の増大で、心理的・経済的準備のないまま親になるケースが増えていることも一因であろう。00年には児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)が施行され、学校や福祉施設教職員に早期発見の努力義務が課された。

(山田昌弘 東京学芸大学教授 / 2008年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

児童虐待

保護者が子どもの心身を傷つけること。身体的な暴行のほか、わいせつ行為、著しい食事制限や長時間の放置などの育児放棄(ネグレクト)、心に傷を与える言動なども含まれる。厚生労働省によると、全国の児相の相談対応件数は2009年度に4万4210件あり、10年前の約4倍。08年度の虐待による死亡例は107件の128人に上る。0歳児や「望まない妊娠」による虐待死が多い。児童虐待防止法では、虐待に気づいた人は児相や市区町村通告する義務があり、伝えた人のプライバシーは守られることが定められている。

(2010-12-16 朝日新聞 朝刊 2社会)

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デジタル大辞泉の解説

じどう‐ぎゃくたい【児童虐待】

親などの保護者や、その同居人などが児童に虐待を加えること。児童の身体・精神に危害を加えたり、適切な保護・養育を行わないこと。→児童虐待防止法
[補説]厚生労働省では、殴る・蹴る・激しく揺さぶるなどの「身体的虐待」、性的行為を加えたり見せたりする「性的虐待」、食事を与えない・病気やけがの治療をしないなどの「ネグレクト」、言葉で脅す・きょうだい間で差別するなどの「心理的虐待」の4種類を挙げている。各都道府県の児童相談所に、児童虐待に関する相談・通告の窓口がある。電話番号は全国共通で189番。

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百科事典マイペディアの解説

児童虐待【じどうぎゃくたい】

主として親による子どもへの虐待をいう。欧米ではかなり前から社会問題化していたが,日本でも近年児童相談所に持ち込まれる虐待件数が急増している。親としての自覚の欠如や母親の孤独感,育児不安などが背景にあると見られている。児童虐待防止の運動が各地で動き出し,1990年大阪で〈児童虐待防止協会〉,1991年東京で〈子どもの虐待防止センター〉,1995年愛知で〈子どもの虐待防止ネットワーク・あいち〉が発足,電話相談など様々な取組みを行っている。2006年度に全国の児童相談所に持ち込まれた児童虐待に関する相談は3万7323件で,そのうち〈身体的虐待〉が41.2%,〈保護の怠慢・拒否〉が38.5%となっており,相談件数は増加傾向にある。〔児童虐待防止法〕 このような状況にかんがみ,2000年に新法が制定され,親などから18歳未満の子どもに対する身体的暴行,わいせつ行為,著しい食事制限や長時間の放置,心理的外傷を与える言動を児童虐待と規定した。虐待のおそれがある場合,児童相談所職員などによる強制的な立入り調査をみとめ,施設に入った子どもと保護者の面会・通信も制限できる。さらに2004年の改正により,法の目的に〈児童の人権〉が盛りこまれ,予防や早期発見とともに虐待後の児童の自立支援などについても規定された。
→関連項目家庭内暴力揺さぶられっ子症候群

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家庭医学館の解説

じどうぎゃくたい【児童虐待】

 親または養育者が、非偶発的(故意)に子どもに対して身体的暴力、または精神的苦痛を与え、その結果、子どもの心身にわたる健康や福祉が損なわれることを児童虐待といいます。
 種類として、①躾(しつけ)や体罰の域を越えた身体的暴力を子どもに振るう身体的虐待、②養育を拒否したり放棄(ほうき)したりするネグレクト、③性的暴行を加える性的虐待、④身体的虐待、ネグレクト、性的虐待以外の方法で、子どもに心理的苦痛を与える心理的虐待、などがあります。
 相談すべき機関としては、児童相談所、保健所、児童精神科などがあります。
 地域によっては、父親が子どもを虐待することを知りつつも母親が止められなかったり、母親自身が育児ノイローゼになっていて、いけないとわかっていながら子どもを虐待してしまうことに悩んでいる、などの虐待に関する電話相談を開設しているところもあります。
 児童虐待は、子ども自身の治療だけではなく、両親へのカウンセリングが重要なポイントです。

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大辞林 第三版の解説

じどうぎゃくたい【児童虐待】

児童や幼児などに対する虐待行為の総称。肉体的な虐待のほか、性的虐待・心理的虐待・ネグレクト(育児放棄)などの行為も含まれる。幼児虐待。小児虐待。チャイルドアビューズ。

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最新 心理学事典の解説

じどうぎゃくたい
児童虐待
child abuse

子ども虐待ともいう。保護者の子どもに対する不適切な養育は,「児童に対して不適切な行為を行なう」という作為の問題と,「児童の成長発達にとって必要なことを提供しない」という不作為の問題とに大別され,前者を虐待abuse,後者をネグレクトneglectとよぶ。虐待は,身体的・物理的な暴力である身体的虐待physical abuse,性的な暴力である性的虐待sexual abuse,そしてことばや態度によって児童の心を深く傷つける心理的虐待psychological abuseに分類される。ネグレクトは,児童の生理的・身体的なニーズを満たさない身体的ネグレクトと,児童の情緒的安定や肯定的な自己像の形成に必要な情緒的応答性を欠く心理的ネグレクトに分類される。また,ネグレクトには,児童に必要な医療を提供しない医療的ネグレクトや,適切な理由なく児童に登校を禁じるなどの教育的ネグレクトなど,特定的な内容のものも含まれる。こうした虐待とネグレクトを総合して不適切な養育maltreatmentとよぶ。近年では,上記以外に,乳児などを激しく揺さぶることで硬膜下血腫などの頭蓋内出血を引き起こす乳児揺すぶられ症候群shaken baby syndrome(SBS)や,児童に薬物や毒物などを与えて身体症状を出現させて治療を求めたり,あるいは実際にはない児童の症状を訴えて不必要な医療的行為を受けることを繰り返す代理性ミュンヒハウゼン症候群Münchhausen syndrome by proxy(MSBP)など,特殊な形態の虐待が見られるようになっている。

 今日の児童虐待に対する理解および対応の基礎を作ったのは,アメリカの小児科医であるケンプKempe,C.H.らの報告(1962)であるとされる。ケンプは,1961年のアメリカ小児科学会においてシンポジウムを開催し,親の故意の暴力によって児童が外傷を負う事例が少なくないことを明らかにし,こうした暴力にさらされた児童の特徴(さまざまな治癒段階にある骨折痕や皮下出血の混在,児童の全身所見や衛生状態の不良,受傷経過に関する親の説明と外傷の状態との不一致など)を殴られた児童の症候群battered child syndromeとよんだ。このケンプらの報告を受け,アメリカの各州は,1963年から1967年にかけて,児童虐待通告義務法と,通告を受けて危機介入および法的措置を含む対応の任にあたる公的機関である児童保護機関を整備した。さらに,1974年には,連邦法として児童虐待の防止と治療に関する法律を制定するに至った。

 わが国において児童への虐待やネグレクトが社会問題化したのは1980年代後半のことである。1988年に実施された大阪府医療・保健・福祉合同調査(大阪府児童虐待調査研究会,1989)では,児童虐待の事例には児童相談所といった福祉関係機関だけではなく,保健所や病院などの医療・保健関係機関もかかわっていること,医療・保健機関がかかわった事例では,児童の死亡という最悪の転帰を取ったものが少なくないのに対して,児童相談所がかかわった事例では児童の死亡はゼロであったことなどが明らかとなった。つまり,児童家庭福祉の枠組みのみでは児童虐待の問題を十分にとらえることは困難であり,その結果,児童の死亡を防ぐことができていないことが示唆されたわけである。その後,1990年には,わが国で最初の民間ネットワークである児童虐待防止協会が大阪に誕生し,翌1991年には東京で児童の虐待防止センターが設立されるなど,各地に民間ネットワークが相次いで作られ,児童虐待の問題への意識化が急速に進んだ。また,1996年には,のちに日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)へと発展する日本子ども虐待防止研究会が設立された。こうした民間団体等の動きが,2000年の児童虐待防止法の制定につながったといえる。

 児童相談所がこの種のデータを初めて公表した1990年度の通告件数は,現在とは比較にならないほど少ない1101件で,その後,増加の一途をたどり,この20年間で50倍にもなっている。こうした急増の背景には,児童虐待防止法の制定や,虐待やネグレクトによる児童の死亡事件の相次ぐ報道によって児童虐待に対する一般市民の意識が変化したことが指摘されるが,一方で,児童虐待やネグレクトが実際に増加している可能性も否定できないとする報告もある。

 虐待やネグレクトに起因する児童の心理・精神的問題としては,虐待体験が心的外傷となって生じる心的外傷後ストレス障害(PTSD)やその他に特定されない極端なストレス障害などのトラウマ関連障害,反応性愛着障害などの,乳幼児が養育者に対して形成する情緒的な結びつきであるアタッチメント(愛着)の障害,身体や意識などの統合性が阻害され,極端な場合にはいわゆる解離性同一性障害(いわゆる多重人格)に至る解離性障害,およびADHD(注意欠陥・多動性障害)や反社会的行動などの行動上の問題が指摘されている。

 一方で,前述のケンプらの報告があった1960年代初期から,どのような親が自分の子どもを虐待するのかという疑問がもたれ,親の心理的・精神的問題に関する臨床的な検討が行なわれるようになった。たとえば,メリルMerrill,E.J.は親の依存性や受動性を,ブライアントBryant,H.D.は衝動性や攻撃性の高さを指摘している。スティールSteele,B.とポラックPollack,C.は,自分自身が虐待を受けて育った親が成長後に子どもを虐待する可能性が高いという,いわゆる世代間連鎖に注目した。ハンターHunter,R.S.とキルストームKilstorm,N.は,子どものころに虐待を受けて成長した親のうちで,自分の子どもを虐待してしまう親の多くは自身の被虐待体験を明確に述べることができないのに対して,虐待を受けて成長しながらも子どもを虐待しない親は,自身の体験を振り返って率直かつ詳細に述べることができる点を指摘し,自分自身の被虐待体験のワーク・スルーが世代間連鎖を生じるか否かの鍵を握っていることを示唆した。また,フォナジーFonagy,P.(1991)は,虐待傾向を有する親に見られる子どものサインや要求に対する応答性の悪さの起源が,子どものころに虐待を受けて育ったことによって形成された心理的防衛にあると指摘している。 →性犯罪 →ドメスティック・バイオレンス →被害者学
〔西澤 哲〕

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