PTSD(読み)ぴーてぃーえすでぃー(英語表記)Post Traumatic Stress Disorder

日本大百科全書(ニッポニカ) 「PTSD」の意味・わかりやすい解説

PTSD
ぴーてぃーえすでぃー
Post Traumatic Stress Disorder

心的外傷後のストレス障害。1995年(平成7)の阪神・淡路大震災後、被災者に多数みられた。思いがけないときに不安が増大し、不眠が続き、ささいなことで反応を示す。DSM-Ⅳ(アメリカ精神医学会で定義している精神疾患分類と診断の基準)では、「外傷後ストレス障害」とされ、死を身近に感じるほどの危険や恐怖あるいは無力感に出会い、こうした苦しいできごとの記憶を反復して再体験(想起)したり、夢にみたりするほか、集中困難な状態になったり落ち着きがなくなったりするものをいうとされてきた。フラッシュバック症状もみられるとしている。症状の持続状態が3か月以内のものを急性PTSDといい、3か月以上持続するものを慢性PTSDといっている。これに対して急性ストレス障害ASD)は、同様な危機的状況を体験したあと2、3日から最長4週間以内に発症・持続するものをいい、周囲に対する注意の減弱や現実喪失感のほか、離人感(自分が自分ではないように感じるなどの状態)も起こるとされている。

 災害直後はもとより、半年を経てなお精神変調が続くものも多いので、精神医学や心理学の専門家だけでなく、看護師や保健師、ケースワーカーなどがチームを組んで治療が行われることが望ましい。子供の場合は学校や保育園、幼稚園の教師や保育士などが治療を担当するが、症状は千差万別でマニュアルどおりの対応は不可である。

 近年では事件・事故が起こるたびに、ASDを含むPTSDの発症が憂慮され、メンタルケアの重要性が指摘されている。症状の個々に対応するケアではなく、その人の全存在にかかわる問題に直面しているという理解に基づいてケアにあたる必要がある。阪神・淡路大震災を始め、1998年の和歌山ヒ素中毒事件、2001年の大阪府池田小学校事件、04年新潟県中越地震、07年能登半島地震、07年新潟中越沖地震、08年秋葉原連続殺人事件、08年岩手・宮城内陸地震など、大きな事件・事故のたびに日本精神衛生学会は緊急電話相談を開設して、PTSD発症防止に寄与するなどしている。

[吉川武彦]

『菅野泰蔵著『カウンセリング解体新書』(1998・日本評論社)』『西沢哲著『トラウマの臨床心理学』(1999・金剛出版)』『松下正明・浅井昌弘ほか編『外傷後ストレス障害(PTSD)』(2000・中山書店)』『藤沢敏雄編『トラウマ――心の痛手の精神医学』(2002・批評社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「PTSD」の意味・わかりやすい解説

PTSD
ピーティーエスディー

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