被虐待児症候群 (ひぎゃくたいじしょうこうぐん)
battered-child syndrome
親またはそれに代わる人から虐待されることで子どもに生ずる心身両面の障害。子どもはふつう3歳以下,ことに1歳以下が多く,(1)皮下出血,切傷,火傷などの皮膚症状,(2)全身各所の骨折や脱臼,(3)頭蓋内出血や硬膜下血腫,(4)臓器破裂や内出血など腹部の損傷,そして(5)成長発育障害などが多様に組み合わさって症候群を構成する。アメリカの小児科医ケンプC.H.Kempeらが全米にわたる調査をもとにこの概念を提唱したのは1962年で,それ以後,主として先進諸国での報告が相次ぎ,幼児虐待の増加傾向を示唆している。その背景としては,親の社会的未熟,情緒的不安定,過度の依存欲求などが挙げられるが,精神発達のおくれ,奇形,多動など,子どもの側の要因もからんでいる。日本でも昔から〈嬰児殺し〉の歴史があるが,この現象への社会的対応は鈍く,親が子どもから暴力をこうむる〈被虐待親症候群〉のほうがいわゆる〈家庭内暴力〉として関心を呼んでいる。
執筆者:宮本 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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被虐待児症候群
ひぎゃくたいじしょうこうぐん
両親などの保護者からさまざまな肉体的虐待を受けた小児の臨床像を表す用語で、小児折檻(せっかん)に相当する医学用語。継子(ままこ)いじめによるものが多いと思われがちであるが、実際には実母によるものがいちばん多く、ついで実父、継父母の順となる。虐待者が幼児期に虐待された経験、不安定な結婚および経済状態、精神的問題などが背景因子として指摘されている。また、複数の子をもつ家庭では特定の子が対象となることが多く、子の側の因子として乳児期における別居、精神身体発育遅延などがあげられる。臨床的には頭部外傷、新旧さまざまな骨折や皮膚症状、発育・栄養障害などの多彩な症状を呈し、訴える原因と症状とが一致しない場合が多い。また、虐待者が虐待の事実をいうことはまずない。解決のためには、精神科医を含む各科の医師およびソーシャルワーカー(社会事業家)などが医療チームを組んで治療にあたると同時に、家庭の矯正を児童福祉関係者などと協力して行う必要がある。
[西本五蔵]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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被虐待児症候群
ひぎゃくたいじしょうこうぐん
battered child syndrome
親または他のおとなによって,子供に身体的あるいは精神的な傷が反復継続して加えられたときに起る種々の症状をいう。外傷としては,打撲傷,骨折,火傷が多くみられる。子供は性格的にもいじけて,情緒的な傷害を受け,攻撃的,拒否的な態度をとり,怒りっぽく落ち着きがなくなる。大部分は精神発達が遅れるが,ときには非常にませた行動をする。親に対する説得はほとんど効果がなく,親から子供を隔離して施設に収容したのち,養子縁組などの処置をとる。親の性格は情緒的に未熟で自制心に乏しく子供に対する要求水準も高い。そのため親の期待どおりに子供が行動できないと失望し,怒りの感情が生れて子供に粗暴な行動をとる結果になる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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