児童相談所(読み)じどうそうだんじょ

精選版 日本国語大辞典 「児童相談所」の意味・読み・例文・類語

じどう‐そうだんじょ ‥サウダンジョ【児童相談所】

〘名〙 児童福祉法により都道府県設置する児童福祉のための機関児童に関するすべての相談を受け、調査判定行ない保護の必要な児童を児童福祉施設に入所させ、または状況に応じて一時保護するなどの業務を担当する。〔児童福祉法(1947)〕

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デジタル大辞泉 「児童相談所」の意味・読み・例文・類語

じどう‐そうだんしょ〔‐サウダンシヨ〕【児童相談所】

児童福祉法に基づき、児童の福祉に関する事項について、相談や調査・診断・判定、問題児童の指導一時保護などの業務を行う都道府県や政令指定都市等の機関。児相じそう
[補説]相談窓口の電話番号は、全国共通で189番。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「児童相談所」の意味・わかりやすい解説

児童相談所
じどうそうだんじょ

市町村と適切な役割分担・連携を図りつつ、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ援助を行うことにより、子どもの福祉を図るとともに、その権利を擁護することを主たる目的とした行政機関。児童福祉法(昭和22年法律第164号)第12条に基づいて、全国の都道府県および政令指定都市に設置することが義務づけられ、加えて中核市と政令で定める市および特別区(あわせて児童相談所設置市等)にも設置できる。2016年(平成28)4月の時点で、全国に209か所設置されている。

 児童相談所の運営は「児童相談所運営指針」(2005年2月改正)に基づいており、業務遂行体制は原則として総務部門、相談・判定・指導・措置部門、一時保護部門の3部門制をとっている。それぞれの専門職からなる受理会議、判定会議、援助方針会議において子ども、保護者等の援助について検討し、さらに検証していく作業を行う。

 もともと児童相談所は、その名のとおり児童に関する総合的な相談機関であった。2004年12月の児童福祉法の改正により、市町村が児童家庭相談に応じることを業務として法律上明確にされ、住民に身近な市町村に対して、虐待の未然防止・早期発見を中心とした積極的な取組みを求めることになった。一方、児童相談所の役割については、市町村相互間の連絡調整や、専門的な知識および技術を必要とする事例への対応、市町村の後方支援等、地域における児童家庭相談体制の充実を図ることになった。児童相談所は、こうした法律改正の趣旨を踏まえ、児童家庭相談に応じる市町村に対して適切な支援を行うことはもとより、幅広い専門機関や職種との連携強化、司法関与の仕組みの有効活用等により、児童家庭相談に迅速かつ的確に対応することになった。同時に、親子が安全で安心できる状態でお互いを受け入れられるようになる親子(家族)再統合の促進への配慮、その他の児童虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮をするなど、子どものみならず保護者も含めた家庭への支援にいっそう積極的に取り組むこととなった。

[中村強士 2017年7月19日]

職員

所長、各部門長のほか、児童福祉司(児童ソーシャルワーカー)、児童心理司、相談員、医師(精神科医、小児科医)、看護師、保健師、心理療法担当職員、臨床検査技師、理学療法士(言語治療担当職員を含む)、児童指導員、保育士、児童虐待対応協力員、一時保護対応協力員、栄養士、調理員などの職員が配置される。

[中村強士 2017年7月19日]

おもな業務

(1)相談の受付、(2)調査、診断(社会診断、医学診断、心理診断)、(3)判定会議の実施と援助内容の決定、(4)援助の実行(在宅・通所指導、児童福祉司・児童委員・児童家庭支援センター指導、他機関斡旋(あっせん))、(5)里親委託推進、(6)児童福祉施設入所措置、指定医療機関委託、(7)児童自立生活援助の実施(自立援助ホーム)、(8)福祉事務所送致、(9)家庭裁判所送致(家事審判の申立て、親権喪失宣告の請求、後見人選任・解任の請求など)、(10)管轄区域における子どもや家庭が抱える問題の把握および予防的活動、(11)一時保護している子どもの生活指導、行動観察、行動診断、健康管理の援助、などである。

[中村強士 2017年7月19日]

課題

市町村が児童家庭相談の業務を担うことになったとはいえ、児童相談所の総合相談窓口としての機能は縮小されていない。児童相談所への相談は2015年度は43万9200件に上っている。その内容は、障害児、発達障害などの障害相談、不登校などの育成相談、父母の離婚についての相談、被虐待児などの養護相談、非行相談、未熟児などの保健相談、その他の相談に分けられるが、そのうちもっとも多い相談が障害相談である(42.2%)。ただし、児童相談所における児童虐待に関する相談件数は年間10万件を超え、その増加の理由について厚生労働省は、心理的虐待の範囲を拡大したり、児童相談所全国共通ダイヤルの3桁化(189)の広報、マスコミによる児童虐待の事件報道等により、国民や関係機関の児童虐待に対する意識が高まったことによるとしている。

 こうした深刻化する児童虐待の防止対策を強化するために2016年に児童福祉法等が改正され、次のような児童相談所の体制強化が行われた。(1)児童心理司、医師または保健師、スーパーバイザー(他の児童福祉司の指導・教育を行う児童福祉司)を配置する、(2)児童福祉司(スーパーバイザーを含む)は、国の基準に適合する研修を受講しなければならないものとする、(3)児童相談所設置自治体は、法律に関する専門的な知識経験を必要とする業務を適切かつ円滑に行うため、弁護士の配置またはこれに準ずる措置を行うものとする。

 また児童相談所の権限強化等については、(1)児童相談所から市町村への事案送致を新設する、(2)臨検・捜索について、再出頭要求を経ずとも、裁判所の許可状により、実施できるものとする、(3)児童相談所・市町村から被虐待児童等に関する資料等の提供を求められた場合、地方公共団体の機関に加え、医療機関、児童福祉施設、学校等が当該資料を提供できる旨を規定する、(4)政府は、改正法の施行後速やかに、要保護児童を適切に保護するための措置に係る手続における裁判所の関与のあり方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする、とされた。

 今後はさらに、一般事務職ではなく専門職(とくに児童福祉司と児童心理司)の積極的な採用や業務量に見合った職員配置数の確保が必要である。さらに、「家族再統合」に向けた司法機関による保護者援助制度の導入や一時保護所に特化された設備・運営基準の策定も求められる。

[中村強士 2017年7月19日]

『日本児童福祉協会編・刊『子ども・家族の相談援助をするために――市町村児童家庭相談援助指針・児童相談所運営指針』(2005)』『斉藤幸芳・藤井常文編著『児童相談所はいま――児童福祉司からの現場報告』(2012・ミネルヴァ書房)』『才村純・芝野松次郎・松原康雄編著『児童や家庭に対する支援と子ども家庭福祉制度』第3版(2015・ミネルヴァ書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「児童相談所」の意味・わかりやすい解説

児童相談所
じどうそうだんじょ

子供の福祉に関する相談に応じ,援助などを行なう行政機関。児相と略称される。児童福祉法に基づき,都道府県と政令指定都市に設置が義務づけられている。運営は厚生労働省の局長通知,児童相談所運営指針にそって行なわれる。児童家庭相談に応じる市区町村と連携しつつ,市区町村に適切な支援を行ない,養護や障害,非行などの専門的な知識や技術を要する相談に対応する。児童福祉司(→ケースワーカー),児童心理司,医師などの専門職職員による診断に基づいて援助方針を検討し,援助を実施する。また,一時保護(子供を守るための家庭からの隔離)や,児童福祉施設や里親(→里親制度)への斡旋なども行なう。近年の児童虐待の増加に対応するため,児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)により,児童相談所は裁判所の許可を得たうえで家庭への臨検捜索を行なう権限などが与えられている。2006年政令で指定された中核市なども児童相談所を設置できるようになった。2016年東京都の 23特別区に設置の権限が与えられ,中核市にも設置を促すこととされた。2015年現在,全国の施設数は 208。(→児童福祉

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知恵蔵 「児童相談所」の解説

児童相談所

子どもに関する相談に応じ、子どもが心身ともに健やかに育つことができるよう子どもや家庭を援助する機関。略して「児相」と呼ばれる。児童福祉法で都道府県に設置が義務づけられており、全国に205カ所ある(2010年5月10日現在)。
児童福祉法でいう児童とは、満18歳未満の子ども。近年、暴力や育児放棄などの児童虐待が深刻化しており、児相が対応した児童虐待相談件数も年々増加。08年度は4万2662件(速報値)で、10年前の約6倍になった。こうした事態を背景に、08年の児童虐待防止法改正では虐待が疑われる家庭への臨検(強制立ち入り調査)制度ができるなど、児相の権限と責任が強化されてきている。
身近な子育て相談などに応じる市町村と役割分担・連携を図りながら、専門的な知識や技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援を行うことが、児相には求められている。運営指針では、(1)市町村援助(市町村相互間の連絡調整など)、(2)相談(専門的な角度からの調査・判定、援助指針の策定、指針に基づく援助)、(3)一時保護(子どもの家庭からの隔離)、(4)措置(子どもや保護者を児童福祉司や児童委員に指導させたり、子どもを児童福祉施設に入所させたり里親に委託する)――の4つが児相の基本的機能とされている。各地の児相では、通報への即時対応や関係機関との連携強化に取り組むなどしているが、虐待に関する情報を受けても速やかな安否確認ができなかったり、親子の引き離しの判断が遅れたりして、子どもを救えないケースが後を絶たない。

(原田英美  ライター / 2010年)

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世界大百科事典 第2版 「児童相談所」の意味・わかりやすい解説

じどうそうだんじょ【児童相談所】

児童福祉法15条により都道府県,指定都市が設置を義務づけられている施設で,同法に基づいて行われる公的サービス業務の中枢的現業機関である。児童およびその保護者または妊産婦等の福祉ニーズとそれに対応する各種サービスとを媒介し,これらを結びつけることを基本的機能とし,児童に関する諸問題について,相談,判定,措置,指導および一時保護を行う。児童相談所長は都道府県知事から,調査,判定に基づいて児童を措置する権限(措置権)を委任され,施設への入所決定,里親・保護受託者への委託,家庭裁判所への送致等の措置をとる。

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百科事典マイペディア 「児童相談所」の意味・わかりやすい解説

児童相談所【じどうそうだんじょ】

児童福祉法に定める児童福祉業務を行う第一線機関。児童の健康,性格,進学等諸問題に関する診断や指導,児童の一時保護のほか児童福祉法に定める各種措置を行う。都道府県,指定都市に1ヵ所以上必置と定められ,医師,心理判定員,児童福祉司等の専門職員が置かれる。
→関連項目児童虐待

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世界大百科事典内の児童相談所の言及

【児童福祉】より


【児童福祉諸立法の枠組み】
 児童福祉の中核に児童福祉法がある。これは理念およびそれを具現するための国・公共団体の責務,および児童相談所をはじめとする行政機関と施設の機能を規定し,さらに児童福祉司などの専門ワーカーの役割を規定している。児童福祉の精神を宣言したものが児童憲章(1951年,内閣総理大臣の召集による児童憲章制定会議で制定)で,憲章は〈児童は人として尊ばれる,児童は社会の一員として重んぜられる,児童はよい環境の中で育てられる〉という憲法の精神に則した児童福祉の理念を明示した。…

※「児童相談所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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