公立大学の財政・財務(読み)こうりつだいがくのざいせい・ざいむ

大学事典 「公立大学の財政・財務」の解説

公立大学の財政・財務
こうりつだいがくのざいせい・ざいむ

公立大学原則として都道府県や市が設置する大学,あるいは都道府県や市が設立する公立大学法人が設置する大学であり,その財政財務のあり方は国の政策と設置主体である各地方公共団体の政策との両方に左右され,きわめて多様である。

[公立大学行財政の制度的特徴]

公立大学は「公立」の「大学」である。「公立」とは地方行財政の枠組みで行われていることを示し,地方行財政を国レベルで所轄するのは総務省(公立大学)である。一方,「大学」は教育行財政の枠組みで運営される組織であり,大学を国レベルで所轄するのは文部科学省である。「国公立大学」と一括りにされることが多いが,国レベルで文部科学省と総務省の双方から政策的影響を受けるのに加え,さらに設置者(公立大学)(公立大学法人が設置する大学の場合は法人の設立者)たる地方公共団体の方針や規模等からも影響を受ける点で国立大学とは大きく異なる。

 公立大学の財政に関して,国レベルではおもに文部科学省の補助金収入,総務省の地方交付税(公立大学)がある。文部科学省からの補助金に関しては,1950年代後半以降の科学技術者養成拡充計画や,18歳人口急増を背景にして1963年(昭和38)から設備費に対する補助金が,68年には在外研究員派遣費補助が始まり,その後73年から医科歯科大学,75年から看護系大学に経常費補助が開始された。翌76年にも芸術大学学生特別経費が設けられ,この時期,公立大学への補助は拡充された。しかし,これらの補助は近年になってすべて整理され,文部科学省からの公立大学特有の国庫補助は姿を消している。一方の総務省は,もともと公立大学への助成には積極的ではなかったが,やはり1960年代半ばから公立大学への支援を拡充せざるを得なくなった。公立大学施設設備のための起債を可能としたり,政令指定都市以外で公立大学を持つ市を特別地方交付税の対象としたりしたが,最も大きな変化は1970年代前半から公立大学経費を普通地方交付税の対象と認めたことである。

 地方交付税制度の詳細な説明は省略するが,地方交付税は国立大学・私立大学にはない公立大学(を持つ地方公共団体)に特徴的な財源である。ただし,地方行政を行うのに必要な経費である「基準財政需要額」への算入は,単位費用(学生一人当たりに要する経費)×種別補正係数×在学生数という統一ルールで行われるものの,地方交付税はあくまで財源の不足分を補うものであり,実際の交付額は地方財政の状況によるし(富裕団体は不交付),財源措置された金額のどれほどを公立大学に交付するかも地方公共団体に任されている。文部科学省の公立大学のみに対する補助金がなくなった今,基準財政需要額を決める積算単価(基準財政需要額)(単位費用×補正係数(基準財政需要額))の算出が,公立大学財政にとって最重要である。なお種別補正係数は省令によって分野ごとに異なる値が設定されており,2015(平成27)年度の積算単価は医科系,歯科系,保健系,理科系,家政系・芸術系(市町村立),家政系・芸術系(道府県立),人文科学系,社会科学系の順となっている。

[公立大学の財政・財務状況]

公立大学数は,1950年代半ば以降30大学台で推移していたが,80年代後半以降急増した。『公立大学便覧』(公立大学協会)によると,2015年度には86大学となっており,その設置者(法人の設立者)は都道府県58,県・市共同1,市24,事務組合等3と多様である。公立大学協会の『公立大学便覧』『公立大学実態調査表』によって2015年度の公立大学の財政・財務状況(付属病院に関するものは除く)を概観すると,大学の財源(回答のあった大学のみ)は,地方公共団体から大学へ交付される一般財源負担額(地方公共団体)が約56%,学納金等が約28%であり,この二つで財源の83%以上をカバーしている。同じく経費については,大学経費全体のうち人件費が約57%,教員研究費が約18%,学生経費が約2%,管理経費が約14%である。なお地方公共団体について,その決算額(2013年度)は124億1148万6000円から6兆2022億3822万2000円まで,一般財源負担額(2015年度。回答のあった大学のみ)も3723万円から157億6648万8000円までやはり相当な開きがある。

 公立大学財政で興味深いのが,地方公共団体の大学への姿勢である。一般財源負担額は大規模大学ほど多く交付されることは予測できるが,先に述べたような地方交付税制度が公立大学財政制度の中核を占めるなか,大学経費に必要な金額と算定された地方交付税額(公立大学に関する基準財政需要額)と比較して,実際にどれほどの金額を大学に交付するかは設置者の大学政策によるだろう。経常費のみに着目した場合,2015年度の基準財政需要額(公立大学協会事務局による試算額を使用)に対する実際の一般財源負担額の比率は,0.30から3.79(12.21と突出して高い1大学を除く)と大学間の差が大きい上,基準財政需要額を上回る一般財源負担額を交付されている大学は半数にも満たない。ここに公立大学と地方公共団体の関係の一つの姿を見ることができる。地方交付税制度においては,基準財政需要額を下回る金額しか大学に交付しないことはすぐに法令違反になるわけではなく,地方自治のもとでその使途には裁量が認められているのである。これが公立大学財政・財務の最大の特徴である。
著者: 渡部芳栄

参考文献: 公立大学協会50年史編纂委員会編『地域とともにあゆむ公立大学』公立大学協会,2000.

参考文献: 宮崎正寿「公立大学の政策と財政」『現代の高等教育』451号,2003.

参考文献: 鳥山亜由美「私立大学の公立大学化―その背景と過程」『公共政策志林』第5号,2017.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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