改訂新版 世界大百科事典 「分泌型」の意味・わかりやすい解説
分泌型 (ぶんぴつがた)
secretor
ヒトの遺伝的多型形質の一種。ABO式血液型を決める物質(ABH物質)は,赤血球だけでなく唾液,精液その他の分泌液中にも含まれているが,分泌液中のABH物質の量には著しい個人差があり,その量が比較的多い群(分泌型secretor)と少ない群(非分泌型nonsecretor)とに大別される。この状態は遺伝的に決定され,ABO式血液型とは独立して遺伝する。分泌型を支配する遺伝子(Se遺伝子)は非分泌型遺伝子(Se)に対して優性である。したがって分泌型の人は,遺伝子型ではホモSeSeのものとヘテロSeseの場合とがある。日本人では分泌型が約75%,非分泌型が25%である。分泌型,非分泌型のいずれに属するかを決めることは必ずしも容易ではなく,そのどちらとも決めかねる中間型もある。
分泌型は遺伝学の研究に有用であるが,たとえばタバコの吸いがらに付いた唾液からそのABO式血液型を知るといったように,犯罪捜査の実際にも個人識別をするのに役立つ。唾液やその乾いた斑痕(唾液斑)からそのABO式血液型を判定する手段として最も多く用いられるのは,抗A,抗B,抗Hと赤血球を混ぜたときに起こる凝集反応が唾液などを加えることによって抑制(阻止,中和)されるかどうかをみる方法(凝集反応の抑制試験)である。もしその唾液がA型の人由来のもので,その中に多量のA型物質が含まれていれば,血液型判定用の抗A血清とその唾液とを混ぜた場合に抗AとA型物質とが特異的に結合してしまうから,そこにA型の赤血球を加えても凝集反応は起こらなくなるはずである。このような原理にもとづく凝集反応の抑制試験では,非分泌型の唾液からはABO式血液型を判定しにくいが,そのような場合にはもっと鋭敏な方法,たとえば抗体の吸収-解離試験が用いられる。凝集反応の抑制試験でABH物質がうまく検出できなくても,ルイス式血液型のLea物質の検査などでABH非分泌型であることが裏づけられれば,非分泌型であること自体が個人識別上有益となる。
→血液型
執筆者:中嶋 八良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報