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腎移植 じんいしょく

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家庭医学館の解説

じんいしょく【腎移植】

◎腎移植(Renal Transplantation)とは
 腎臓のはたらきがなくなった人に、他の人の腎臓の一個を移し植える(移植する)ことを腎移植といいます。腎臓をもらう人をレシピエント(受腎者(じゅじんしゃ))、腎臓を提供する人をドナー(腎提供者(じんていきょうしゃ))といい、生きているドナーからの腎移植を生体腎移植(せいたいじんいしょく)、亡くなった人からの腎移植を死体腎移植(したいじんいしょく)といいます。
 移植する場所は、手術を行ないやすい右下腹部が選ばれます。腹腔(ふくくう)のうしろの後腹膜(こうふくまく)にある動脈と静脈に、それぞれ移植する腎臓の動脈と静脈をつなぎます。移植尿管は膀胱(ぼうこう)へつなぎます。はたらきのなくなったもとの腎臓は、患者さんに悪影響をおよぼさないかぎり、そのまま残しておきます。
 腎移植では、移植した腎臓が良好にはたらいているなら、健康時と変わらない体調となります。腎移植が、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)に対する抜本的治療といわれる理由です。透析(とうせき)における時間と食事の制約から解放され、貧血も改善します。とりわけ子どもの慢性腎不全では、成長の問題がありますから、チャンスがあれば、腎移植がもっとも望ましい治療法です。
 腎移植における最大の問題は、数多くの患者さんが腎移植を希望しているにもかかわらず、死体腎ドナーが少ないということです。慢性腎不全の治療において、透析と腎移植はいわば車の両輪であるべきですが、日本では、欧米諸国と比べて、透析に極端に依存しているのが現状です。この現状を改善するための多くの努力が払われています。
 腎移植では、自分のものではない組織を移植するわけですから、一卵性双生児間移植(いちらんせいそうせいじかんいしょく)を除いて、異物である腎臓を攻撃し排除しようとする力(拒絶反応)がはたらきます。これを防ぐために、相性のよい腎臓、反応を抑える薬(免疫抑制薬)が必要となります。
 相性がよいかどうかを調べる検査を組織適合検査(そしきてきごうけんさ)といいます。ドナーとレシピエントの間では、輸血の原則がまず必要です。血液型が合わなくても、いろいろと処理することにより移植は不可能ではありませんが、血液型の一致が望ましいわけです。それから、白血球抗原(はっけっきゅうこうげん)(HLA)ができるだけ数多く一致するほうがよいとされています。
 シクロスポリンという免疫抑制薬が開発されてから、腎移植成績は飛躍的に向上しました。現在おもな免疫抑制薬はシクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、ミゾリビン、ステロイドで、これらの薬剤を組み合わせて使用します。
 ステロイドは移植後、徐々に維持量まで減量されていきます。シクロスポリン、タクロリムスは、臨床経過、薬剤の血中濃度をよくみながら、適切な投与量に調整します。このことは非常に重要です。
 シクロスポリンもタクロリムスも画期的な免疫抑制薬ですが、投与量が多すぎると腎毒性があり、移植腎の機能が低下するからです。
 免疫抑制薬を投与しても、移植された腎臓を排除しようとする拒絶反応がしばしばおこってきます。
 とくに移植後数か月以内に発症する急性拒絶反応は、早期に適切に治療をしなければ、せっかく移植した腎臓がはたらかなくなってしまいます。急性拒絶反応の症状は、尿量の減少、尿たんぱくの出現、血中クレアチニンの上昇、発熱などがあります。
 急性拒絶反応の診断がつきしだい、ステロイドの大量投与を中心とする治療が行なわれます。急性拒絶反応の大部分は治療により、よくなります。
 移植後しばらくたってから、ゆっくりと移植腎機能が低下していくことがあります。多くは慢性拒絶反応によるものです。慢性拒絶反応に対しては有効な治療がなく、最終的には透析にもどり、つぎの腎移植のチャンスを待ちます。
 現在の免疫抑制薬は、移植された腎臓にだけはたらくわけではなく、からだ全体の免疫機能もある程度抑えます。したがって、感染症、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の発生の問題があります。感染症ではウイルス感染症、悪性腫瘍では肝臓がん皮膚がんなどが多いようです。腎移植後、医師の指示を正しく守ることと、定期的なチェックが必要です。
◎生体腎移植
 生体腎移植のドナーの大部分は親です。親から子どもへの移植ですから、子どもは遺伝子(HLA)の少なくとも半分はドナーと一致します。親子間のつぎに多いのは兄弟姉妹間の移植です。生体腎移植では、ドナーができるだけ医学的に不利にならないように考慮されます。腎臓を1個提供することにより、医学的に大きな不利益になる危険性がある場合は、ドナーにはなれません。2個の腎臓のうち、よりよいほうの腎臓をドナーに残すのが原則です。生体腎移植では、摘出したドナーの腎臓をすぐに移植しますから(阻血(そけつ)時間が短い)、移植腎に血流を再開すると同時に、尿の流出がみられることがふつうです。
◎死体腎移植
 死体腎移植を希望する人は、日本臓器移植ネットワークの各地のブロックセンターに登録を行ないます。同時にHLAの検査などを行ないます。死体腎ドナー候補者が出ると、コンピュータを使って血液型、HLAの一致する順から、死体腎移植を受ける意志があるかどうか問い合わせがきます。2人の人が死体腎移植を受けることになるわけです。
 現在日本の死体腎摘出は、おもに脳死(のうし)ではなく、心停止後の摘出ですので、移植直後から生体腎移植のような十分な尿の流出がみられることは少なく、その場合は移植腎機能が回復するまで透析が必要となります。
◎腎移植の受けられる条件
 中等度の手術に耐えられることがまず第一です。また、ステロイドをはじめ免疫抑制薬を使用するので、感染症、がん、消化管潰瘍(かいよう)などがないことが条件となります。ドナーの白血球(リンパ球)とレシピエントの血清(けっせい)を反応させ、多くの白血球が壊れることをダイレクトクロスマッチ陽性といいます。この場合は、移植後に強い拒絶反応がおこる可能性がありますので、腎移植は延期となります。輸血をくり返し受けている人は、ダイレクトクロスマッチ陽性となることがあるようです。
◎腎臓を提供したい人は
 死体腎のドナーの条件は、まず第一は健康な(病気のない)腎臓であること、それから感染症、がんなどレシピエントにうつす危険性のある重大な病気のないことです。
 本人あるいは家族が入院先の医師経由で、各地のブロックセンターに申し出ることにより、死体腎の提供が行なわれます。提供者、家族、提供病院、移植病院、移植患者の間の調整をする人をコーディネーターといいます。
 死体腎提供の推進のため、各地のブロックセンター、腎臓バンクでは、ドナーカードを発行しています。ブロックセンター、腎臓バンクの連絡先は、透析施設、移植病院、入院先の病院などで問い合わせしてください。

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百科事典マイペディアの解説

腎移植【じんいしょく】

機能しなくなった腎臓の代りに,他人の健康な腎臓を1個もらって移植すること。これが成功すれば,人工透析からも完全に解放され,食事療法も不要になる。特に子どもの場合,人工透析をすると発育が止まるケースもあるので,腎移植が望ましい。
→関連項目臓器バンク

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

腎移植
じんいしょく
renal transplantation

臓器移植の一つ。一個人から腎をいったん摘出し、同一人または他人にそれを移すことをいう。腎臓移植ともいう。腎を提供する人をドナーdonor(提供者)、腎を受ける患者をレシピエントrecipient(受容者)という。[中村 宏]

腎移植の種類

腎移植には次の4種類がある。
(1)腎自家移植 腎をいったん摘出して、体外において腎の修復術や腫瘍(しゅよう)摘出術(エクス・ビーボーex vivo手術またはベンチ・サージャリーbench surgeryともいう)などを行った後に、その腎を下腹部の腸骨窩(ちょうこつか)に移植することをいう。自家腎移植では拒絶反応は起こらない。
(2)腎同系移植 一卵性双生児間で腎を移植することをいう。自家移植と同様に拒絶反応は起こらず、腎は永久に生着する。
(3)腎同種移植 腎を、動物分類学上同一の種に属する、ドナーとは異なった遺伝子型をもつほかのヒトに移植することをいう。現在臨床的に行われている親子間、同胞間での生体腎移植、血縁関係のないドナーからの死体腎移植がこれに属する。免疫抑制法を行わないと拒絶反応が起こる。
(4)腎異種移植 ヒト以外の霊長類、たとえばチンパンジーやヒヒからヒトへの腎移植や、科の異なる動物、たとえばブタからヒトへ腎を移植することを腎異種移植とよんでいる。現在の進歩した免疫抑制法を用いても、移植された腎は拒絶反応を受けて機能は止まってしまう。[中村 宏]

腎移植の歴史

腎移植は1933年、ウクライナのボロノイVoronoyにより世界で初めて行われた。死後6時間目に摘出した腎を移植したが、少量の血尿の排泄(はいせつ)をみただけで、移植後48時間目に死亡した。1954年にはメリルMerrillらによるボストンの移植チームが腎同系移植を行い、初めて長期生存を得た。今日施行されているような腎同種移植の初成功例は、1962年に行われたアンビュルジェHamburgerらのパリの移植チームによるものと考えられ、9年以上生着した。
 腎移植は慢性腎不全の治療法の一つで、世界的にも、また日本でも、臓器移植のなかで、最初に広く臨床的に行われるようになった。ドナー別に生体腎移植と死体腎移植(献腎移植ともいう)とに区別される。腎移植は、脳死ドナーが前提となる心移植などとは異なって、心臓が停止した死後腎を摘出しても腎は機能しうるが、脳死ドナーからの方が成績はよい。
 日本移植学会の集計によると、日本では2007年(平成19)10月末までに約2万例の腎移植が行われ、2006年の1年間の総件数は1136例で、内訳は生体腎が939例(82.7%)、献腎が182例(16.0%)、脳死体腎が15例(1.3%)であった。献腎移植の占める割合は、日本では16%にすぎないが、アメリカでは年間約1万6000例の腎移植が行われており、その半数以上は献腎移植となっている。免疫抑制剤のカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリン(サイクロスポリン)、タクロリムスが使用されるようになってから、腎移植の成績は向上し、生体腎移植生着率は1年約93%、5年約82%、10年約66%、献腎移植生着率はそれぞれ、83%、66%、50%である。[中村 宏]

適応疾患と腎移植の方法

腎移植を受けなければならなくなった慢性腎不全の原因疾患は、慢性糸球体腎炎がもっとも多く過半数を越え、次に糖尿病性腎症が多く、両者で約3分の2を占めている。組織適合性抗原(HLA抗原)のミスマッチ数が少ないほど生着率が高いが、免疫抑制法の進歩によって、ミスマッチ数が多くても高い生着率が得られるようになり、HLAのミスマッチが少ないことは必須条件ではなくなった。腎移植の方法は腎を下腹部の腸骨窩におさめ、腎動脈と内腸骨動脈とを端端吻合(ふんごう)し、腎静脈と外腸骨静脈とを端側吻合し、尿管は膀胱(ぼうこう)と吻合して移植する。
 腎移植後の免疫反応抑制剤にはいろいろあるが、タクロリムス(製品名「プログラフ」)、シクロスポリン(「ネオーラル」)、ミコフェノール酸モフェチル(「セルセプト」)、ミゾリビン(「ブレディニン」)、ステロイド(「プレドニン」)などが用いられている。急性拒絶反応は移植後数か月以内に起こり、発熱、乏尿、体重増加、移植腎の圧痛と腫脹(しゅちょう)、高血圧、血清クレアチニン上昇などがみられる。メチルプレドニソロンのパルス療法(短期間に大量投与すること)を3日間行った後、ステロイドの増量で治療するが、これが無効な場合には抗CD25モノクローナル抗体(製品名「シムレクト」)を投与する。慢性拒絶反応は移植後数か月以降に起こり、腎機能が徐々に低下するが、いまのところ根本的な治療法はない。
 腎移植後の合併症としては、感染症、骨髄機能抑制、消化性潰瘍(かいよう)などが問題となる。また免疫抑制療法を長期間行うため、長期生存者で将来悪性腫瘍の発生率が高くなる危険性がある。[中村 宏]
『太田和夫著『新 これが腎移植です』(1999・南江堂) ▽東間紘・高橋公太著『腎移植ハンドブック』(2000・中外医学社) ▽岸本武利監修・瀬岡吉彦・仲谷達也編『腎移植の医療経済』(2001・東京医学社) ▽高橋公太・村井勝著『腎移植と血管外科』(2001・メジカルビュー社) ▽落合武徳・堀誠司編『腎移植の最前線』(2001・日本医学館) ▽日本腎臓学会渉外・企画委員会・腎移植推進委員会編『腎移植の進歩――わが国の現状と今後の展望』(2006・東京医学社)』

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