前鬼(読み)ぜんき

日本歴史地名大系 「前鬼」の解説

前鬼
ぜんき

[現在地名]下北山村大字前鬼

釈迦しやかヶ岳・大日だいにち岳の東南の傾斜地に開けた古い山伏村。標高約八〇〇メートル。釈迦ヶ岳に発した前鬼川が村の東側を曲流して前鬼口で北山川に入る。大峯七十五靡二九番の宿。その裏行場三重みえの滝である。

平安中期頃すでに開けていた村で、役行者に従った前鬼・後鬼の子孫と伝えられる五鬼熊ごきぐま(行者坊)五鬼童ごきどう(不動坊)五鬼上ごきじよう(中之坊)五鬼継ごきつぐ(森本坊)五鬼助ごきじよ(小仲坊)の五家がそれぞれ宿坊を営んで奥駈入峯の先達を勤めてきた。中世以来多くの修験者・僧俗の参籠地として栄えた深仙じんぜん宿の食糧補給基地でもあり、奥駈行者はここの山人集団にサポートされた。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「前鬼」の意味・わかりやすい解説

前鬼
ぜんき

奈良県吉野郡下北山(しもきたやま)村の一地区。大峰(おおみね)山脈釈迦(しゃか)ヶ岳、大日(だいにち)岳南東斜面の標高約800メートルの地で、役行者(えんのぎょうじゃ)に従った前鬼・後鬼が住み着いた地という。彼らの子孫と伝えられる五鬼上(ごきじょう)、五鬼継(ごきつぐ)、五鬼助(ごきじょ)、五鬼熊(ごきぐま)、五鬼童(ごきどう)の五家が宿坊を営み、釈迦ヶ岳から山上ヶ岳(さんじょうがたけ)への修験道奥駈入峰(しゅげんどうおくがけにゅうぶ)の先達(せんだつ)を務めた。現在は五鬼助(小仲坊)のみが残る。付近に裏行場三重滝(みえのたき)がある。

[菊地一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の前鬼の言及

【役行者】より

…《役行者顚末秘蔵記》《役君形生記(えんくんぎようしようき)》《役行者講私記》《役行者本記》をはじめ,役行者に関する数々の書が,修験道の教典として作られ,1799年(寛政11)には,朝廷から役行者に対して神変大菩薩という諡号(しごう)が贈られた。役行者の画像や彫刻は数多く作られたが,その姿は,僧衣に袈裟をまとい,長いひげをたくわえ,手には錫杖を持ち,高下駄をはいて岩に腰かけ,斧を持つ前鬼(ぜんき)と棒を持つ後鬼(ごき)を従えているのが一般である。役行者が従える鬼については五鬼とする説もあり,1603年(慶長8)に刊行された《日葡辞書》には,〈五鬼。…

【鬼】より

…また,鬼もしくは鬼の子孫とされ,自分たちもそのように考えてきた家や社会集団も各地に伝えられている。たとえば,大峰山中には,役行者(えんのぎようじや)に仕えたという前鬼・後鬼の子孫と伝えられる人々が住んでいる。このような人々の多くは修験や鋳物師,芸能者などであった。…

※「前鬼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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