日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働力の流動化」の意味・わかりやすい解説
労働力の流動化
ろうどうりょくのりゅうどうか
元来は、経済成長や経済発展を支援するために、労働者の産業間、地域間、企業間の労働移動を円滑にすることであるが、特定の産業や企業との結び付きが弱い非正規雇用は労働移動しやすいことから、非正規雇用の増大を意味することもある。
第二次世界大戦後の日本では、正社員に関しては、大企業は長期雇用するという前提の下で、さまざまな業務を経験させて、企業の中核人材として育成していくのが一般的であった。正社員である労働者も長期勤続するという姿勢で入社し、実際に長期勤続するのが一般的であり、国際的にみても転職率は低水準で推移した。
経済成長や景気変動とともに、つねに経済構造は変化しており、いつの時代にも成長産業と衰退産業が併存している。成長産業では雇用が増大する一方、衰退産業では雇用の減少が生ずる。同様に、経済の成長する地域と衰退する地域が存在し、雇用需要が増大する地域がある一方、減少する地域がある。こうした雇用の増減が、増加の場合には新規学卒の採用で、また減少の場合には定年到達による退職や結婚その他の理由による自発的退職によって調整されるならば、雇用面で大きな問題とはならない。しかし、現実にはそのようなプロセスで労働力が十分に調整されない場合もあり、その場合には、衰退産業から成長産業へ、衰退地域から成長地域へと労働力の移動が生ずることになる。このような労働力の移動が緩慢であると、成長産業の発展は遅れることとなり、国の経済発展にもマイナスとなる。
労働力が衰退する産業・地域・企業から成長する産業・地域・企業へと円滑に移動することができれば、経済成長も促進されることとなる。以上のように、労働力が産業間、地域間、企業間を移動することを労働力の流動化と表現している。労働力が産業間、地域間、企業間を円滑に、そして積極的に移動することを目ざす政策を労働力流動化政策という。
[笹島芳雄]
『労働新聞社編・刊『改正雇用対策法の実務解説』(2008)』▽『厚生労働省編『厚生労働白書』各年版(ぎょうせい)』