どのような社会においても、人間は自然に働きかけて自然を合目的的に変え、人間が生きていくのに必要な使用価値を生産しなければならない。この場合、人間の身体のうちに実存していて、人間がなんらかの使用価値を生産する際に運用する肉体的・精神的な諸能力の総体を労働力または労働能力という。資本主義社会においては、この労働力が商品化しており、労働者が労働力を商品として資本家に販売し、それによって賃金を受け取る関係が資本主義社会を特徴づけている。というのは、資本主義以前の封建制社会においては、直接的生産者は主要な生産手段である土地に結び付けられ、しかも領主に対して人格的に隷属していたため、労働力商品化の条件は存在しなかったからである。したがって、労働力が商品化するためには、直接的生産者を土地などの生産手段から強制的に引き離す歴史的な過程が先行しなければならない。これが資本の本源的蓄積過程である。この本源的蓄積の結果として、二重の意味で自由な労働者が発生し、労働力商品化の条件が生み出される。ここで、二重の意味で自由な、というのは、自由な人格として自分の労働力を自由に処分しうるということであり、また生産手段から引き離されているために、労働力以外に売るべき商品をもたないということである。
労働力が商品として売買される限り、労働力商品は他の商品と同様に使用価値と価値との二要因を有する。労働力商品の使用価値は、買い手である資本家に対して新しい価値を創造するということである。労働力はその現実的消費が労働の対象化であり、単に価値を創造するのみならず、それ自身の価値よりも大きな価値を創造するという独自な使用価値をもっている。他方、労働力商品の価値は、他の商品と同様、その再生産に必要な労働時間によって決まる。労働力の再生産は現実の労働者を前提とし、そのためにはある特定額の生活手段を必要とするので、労働力を再生産するのに必要な労働時間とは、労働者が消費する生活手段を生産するのに必要な労働時間に帰着する。したがって労働力の価値は、労働者の維持に必要な生活手段の価値に等しい。そしてこれは、労働者本人の正常的生活状態の維持費、家族の扶養費、および労働者の訓練や育成に必要な育成費、という三つの構成部分からなっており、歴史的・社会的要素を含むが、特定の国の特定の時代には一定のものと考えられる。
[二瓶 敏]
『K・マルクス著『資本論』第1巻第2篇(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』
労働能力ともいう。労働者が商品として所有するものという観点からK.マルクスによって定義された。資本主義のもとで大量の商品として現れる労働力は,ある特定の能力ではなく,無差別で一般的な能力である。それは生産活動に入る以前では,生産活動の際の人間の肉体的・精神的能力の総体という抽象的規定を受けるにすぎない。この労働力は年齢に応じて,また一般に教育の普及に応じて発達する。それゆえ年齢,教育に応じた充用が考えられるようになる。
このような労働力商品の所有者である労働者は,労働市場において人格上対等な立場で雇用主と相対するのであるが,労働力がその所有者と一体化しているということから,この商品の売買は一定時間内での処分権の移譲ということになる。すなわち売買は労働契約の形をとるのであるが,その際,労働力商品は他の商品と異なり,在庫として売れるまでとっておくことはできず,したがって取引上不利な立場に置かれている。
労働保護法や労働組合は,これら不利益を解消するために成立するのである。商品として売られる労働力は,他の商品と同様価値と使用価値をもっており,その価値は労働力を再生産するに必要な生活資料の価値と等しい。マルクスによれば価値は労働時間と等しいから,労働力の価値は,労働者の生活資料の生産に必要な労働時間となり,こうして剰余価値が剰余労働時間として説明されることになる。
→労働
執筆者:大塚 忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そもそも労働力と非労働力との間には,これを一線で画するような明確な境界があるわけではなく,その間には家事と就業を兼ね,就業は従な主婦を中心とした黒とも白ともつかぬ薄墨色の中間層があって,労働力と非労働力の間をたえず流動しているものである。その結果として,労働力はこの中間領域にある浮動層の断続的な労働市場への参加に応じて,たえず上下に揺れ動くことになる。…
…国際労働力移動とは,国境を超える労働力の空間的移動であり,商品や資本の国際移動と並んで国際経済関係を形成する重要な要素である。と同時にそれは,生きた人間の移動にほかならないので,世界各地域の民族的・人種的構成のあり方に大きな影響を及ぼしてきた。…
…Wと価値の大きいW′とをつなぐ途中の〈…〉がすべてPつまり生産過程だという意味である。WからW′へのあいだに生産が行われるのであるから,W′は生産物でありWはそれを生産できるような特別な商品でなくてはならず,それは生産手段と労働力であることが必要である。こうして初めのG―Wが可能なためには生産手段が売りに出ているばかりでなく,労働力の売手が不可欠なことが明らかになる。…
…資本主義の生産方法は,資本の所有者(資本家)が,それを投下して生産に必要な原料・機械そのほかの諸手段を購入するとともに,賃金を払って労働者(賃労働者)を雇用し,工場・職場で財・サービスを生産させ,それらを商品として販売することによって利潤を獲得する,つまり資本による営利の企業活動として行われる。 このような生産方法が実際に可能になるためには,生産した財・サービスを販売する市場が存在しているだけでなく,生産手段と労働力を調達する市場が存在していなければならない。さまざまの財・サービス市場のほかに労働市場,土地市場,貨幣市場が存在していなければならない。…
…第3巻は,第1編〈剰余価値の利潤への転化と,剰余価値率の利潤率への転化〉,第2編〈利潤の平均利潤への転化〉,第3編〈利潤率の傾向的低下の法則〉,第4編〈商品資本と貨幣資本の,商品取扱資本と貨幣取扱資本への転化(商人資本)〉,第5編〈利子と企業者利得とへの利潤の分裂,利子生み資本〉,第6編〈超過利潤の地代への転化〉,第7編〈収入とその源泉〉から成る。
【第1巻の構成】
第1~2編で,商品→貨幣→資本のカテゴリーの展開を後づけ,とくに商品の章で〈労働の二重性〉に基づくマルクス特有の労働価値説と〈価値形態〉論とを提示し,やがて〈労働力の売買〉を媒介に第3編以下の生産過程の分析に入っていく。第3編では,1日の労働時間(労働日)における〈価値および剰余価値〉の形成と,剰余価値の〈不払労働の搾取〉としての取得を,第4~6編では,資本制生産方法の展開と,その結果としての賃金のカテゴリーを,第7編では,資本の蓄積が,賃金と剰余価値の運動にもたらす効果と,労働者階級の運命に与える影響を扱っている。…
…これら4学説は決して相互に排反的ではなく,賃金決定の異なった側面に注目しており,むしろ相補う性質のものと考えたほうがよいであろう。(1)賃金生存費説subsistence theory of wagesは,人口増加の〈自然的〉傾向を仮定し,労働力の再生産の費用を強調する労働供給の理論である。R.マルサスやD.リカードが最も明確に定式化したように,賃金が生存水準(これをリカードは〈自然賃金〉と呼んだ)を超えると生存率が高まり,家族規模が大きくなる。…
…資本主義社会になって初めてこのような形態の労働が行われるようになった。奴隷や農奴の場合は,一定の時間決めで労働力を売るということはなかったし,また彼らは人格的にも主人や領主に従属していた。だから賃労働が支配的な形態となるためには,単なる社会への商品経済の浸透だけではなく,封建的な束縛から解放され,またこれといった生産手段をもたず,したがって生活手段ももたない,いわゆる〈二重の意味で自由〉な労働者が歴史的にまた恒常的につくりだされねばならなかった。…
…あくまでその意志と願望に依拠しつつ,自由な人間の自己活動の実現自体は,労働過程だけの問題とするのではなく,労働と余暇,生産と消費の関係を含めた人間の生活全体のあり方を考えなおし組みなおす方向で構想するという傾向に,現代の労働思想は向かいつつあるようにみえる。【中岡 哲郎】
【労働力】
労働によって生みだされる用役を,労働力という。労働というと,肉体的な労苦のみを考えがちであるが,しかしそれは労働の範囲を狭く限定しすぎている。…
※「労働力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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