資本主義社会のなかで、生産手段からも生活手段からも切り離されているために、資本家に雇用されて働き、その結果受け取る賃金で生活を成り立たせるほかない賃金労働者の階級。その職務が教育研究のような専門的なものであろうと、デパート店員のような販売的なものであろうと、道路工事のような比較的単調なものであろうと、資本家に雇用され、それで得た収入で生活を維持している限り、いずれも労働者階級の一員である。ただ欧米では、工場で直接に商品をつくりだす労働者、たとえば鉄鋼の圧延労働者、自動車や電機の組立て工などに限定して労働者階級working classという場合が多い。
[元島邦夫]
マルクスは、近代資本主義社会の成立とともに、それを構成するに至った二大階級のうち、資本家階級をブルジョアジーbourgeoisie(フランス語)としたが、いま一つの労働者階級をプロレタリアートProletariat(ドイツ語)と規定した。これは、古代ローマにおける最下層の市民たるプロレタリウスproletarius(ラテン語)に由来する。
中世末期、富裕な都市商工業者あるいは独立自営の農民は、その営業を拡大し、資本を蓄積するようになった。この資本で手元に整えた生産・営業手段は、少数の働き手だけでは運用できない。働き手を雇い入れてこれにあてなければならない。農村には土地をはじめとする生産・生活手段を取り上げられてしまった極貧の農民が生み出されていた。都市にも働き口を必要とする生活窮乏層が滞留していた。周辺の後進地域では、たとえばアイルランドのように、ジャガイモも購入できないような人々が空腹を抱えていた。これらの人たちが雇い入れられ、賃金労働者となった。ときには都市浮浪者が強制的に収容され働かされることもあった。ブルジョア革命後社会的に承認された自由は、市民としての言動の自由であるとともに、資本家にとっては、必要な労働者を全国のあらゆる所から、さらには世界のさまざまな地域から集める自由でもあった。こうして資本主義社会では大量のプロレタリアートが形成され、集積されることになる。彼らはいっさいの財産を奪われているゆえに、無産階級ともいわれた。
労働者は生活するためには働かねばならず、働くためには資本家に雇用されて、経営のなかで資本の指揮のもとに服さなければならない。とくに初期の資本主義的経営のなかでは、労働者は過酷な労働条件を押し付けられ、生活の窮乏にさらされた。そこでは資本家と労働者の利害はまったく相反するものであり、労働条件と生活条件とをすこしでも向上させようとすれば、労働者は階級として資本家に立ち向かうほかなかった。事実、労働者は労働組合を組織し、労働運動を発展させて、資本の強制を跳ね返そうと試みた。プロレタリアートのブルジョアジーに対抗する闘争の展開は不可避であった。そして、マルクスは、両者の階級闘争の結果、やがてはプロレタリアートが勝利し、資本の鉄鎖から自己を解放するだろう、としたのである。
[元島邦夫]
労働者はその学歴、経営組織における位置などによって、管理的、専門・技術的、事務的、販売・サービス的、運輸・通信的、生産・現業的といったさまざまな職業に分かれる。生産・現業的労働者をブルーカラー労働者、管理・専門・技術・事務的労働者をホワイトカラー労働者ということもある。科学技術の発展、資本主義の発達とともに、労働者の数も増大し、日本では全体で5300万以上に上り、就業者の5分の4を占めている(2001年現在)。同時にその職業的内部構成も変化し、ホワイトカラー労働者の比率が高まるとともに、サービス的分野の労働者が著しく増加している。1970年代以降は、電子・情報機器の開発・応用が進むにつれて、システム・エンジニア、プログラマー、オペレーターなど新しい職種も現れ、ブルーカラーとホワイトカラーの区分もかなりあいまいになっている。
労働者はまた企業規模や産業によっても、労働のあり方、労働条件、賃金が異なり、内部での分化がいっそう複雑に進行している。一方には、高学歴で管理的・専門的な職務に従事し、高賃金を得ている労働者があり、他方には、相変わらず不安定な就業と低劣な労働条件に苦しんでいる労働者もある。したがって、労働者階級運動の内容と形態は、とくに1980年代以降、多様にして複雑なものとなった。
1990年代になると、高学歴の都市サラリーマンのなかには、住民運動、環境保全運動、リストラ(人員削減)反対運動などに参加する者が現れてきた。彼らはまた、さまざまな形のボランタリー(自発的)活動も展開するに至る。こうした新しい社会運動と、多様化した労働者階級の労働運動がどのように交錯しあうのか問われるようになった。
[元島邦夫]
『H・ブレイヴァマン著、富沢賢治訳『労働と独占資本』(1978・岩波書店)』▽『橋本健二著『現代日本の階級構造――理論・方法・計量分析』(1999・東信堂)』▽『K・マルクス著、長谷部文雄訳『賃労働と資本』(岩波文庫)』▽『大橋隆憲編著『日本の階級構成』(岩波新書)』
「プロレタリアート」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…階級の,客観的な存在に条件づけられた,事実的および可能的な意識の総体をいう。階級社会においてその社会の階級構造に規定されて現れるもので,資本主義社会においてもっとも重要なのは労働者階級の階級意識である。階級意識は,まず,類似性にもとづく同類意識のような階級心理から出発する。…
※「労働者階級」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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