勘定学説(読み)かんじょうがくせつ(英語表記)Kontentheorie ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「勘定学説」の意味・わかりやすい解説

勘定学説
かんじょうがくせつ
Kontentheorie ドイツ語

勘定体系に関する理論とそれに相応する勘定記入の法則を展開する学説。もともと歴史的には勘定記入の法則を教授する目的で唱えられたが、その後、勘定の体系、さらに財務諸表見方にまで理論展開された。勘定学説の整理は人によりさまざまであるが、ここでは畠中福一(1906―31)が著した『勘定学説研究』(1932)に従い主要なものを取り上げる。

 18世紀までの比較的初期において展開されたのが人的勘定学説である。人的勘定学説では、たとえば現金勘定金庫番商品勘定は倉庫番という人間を擬制し、それら人間間の貸し借りとして勘定記入の法則を説明(教授)するものである。たとえば、現金で商品を購入したとすれば、現金勘定の貸方と商品勘定の借方に記入される。これは金庫番がそれだけ現金を貸し、逆に倉庫番はそれだけ商品を預かった(借りた)と考えるわけである。

 しかし、人的勘定学説では説明できないような取引も存在しており、18世紀に至り、物的な実態を有する資産や負債の勘定を中心に勘定の体系と記入の法則を考える物的勘定学説が登場する。そのなかでも有名なのは、19世紀後半にドイツの経営経済学者シェアが唱えた物的二勘定系統説である。物的二勘定系統説では資産と負債の勘定を有高勘定と、そのような実態を有しない資本、収益や費用の勘定を名目勘定に分類する。そして、資産-負債=資本という資本等式を柱にし、収益費用の勘定を資本勘定の下位勘定と位置づける。純財産増加説とよばれているものがそれである。物的勘定学説に至り、勘定の借方や貸方という意味をとらえた説明の仕方は終わりを告げることになる。

 20世紀になると、さらに勘定理論が財務諸表の見方にまで展開される。その一つが、ドイツの経営経済学者ワルプErnst Walb(1880―1946)が唱えた成果勘定学説である。ワルプは企業と外部との関係を交換経済的過程ととらえ、取引を給付の流れとそれと反対の支払いの流れとして理解する。それに応じて勘定を、給付の流れを記録する給付系列の勘定と支払いの流れを記録する支払系列の勘定に二分する。給付系列の勘定に属するのが商品や機械、手数料や給料などの勘定であり、支払系列の勘定に属するのが現金、売掛金買掛金、借入金や貸付金、資本の勘定などである。このように理解することで、支払系列の勘定を集合した貸借対照表と、給付系列の勘定を集合した損益計算書で二元的に利益が計算されていることを論証する。

 その後、勘定学説として議論されることは下火になったが、しかし今日でも会計の計算構造の背後には特定の勘定学説(理論)が暗黙裏には予定されているのである。

[万代勝信]

『畠中福一著『勘定学説研究』(1932・森山書店)』

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