改訂新版 世界大百科事典 「化合物命名法」の意味・わかりやすい解説
化合物命名法 (かごうぶつめいめいほう)
古く,化学が成立していく初期段階では,取り扱われる化学物質の数もあまり多くなく,習慣的なあいまいな名称や,発見者が勝手につけた名称(外観や,人名,地名あるいはあいまいな理由からきたものが多かった)を用いていても,それほど不都合なこともなかった。しかし化学の発展とともに,膨大な数の化合物が記録されてくると,そのような非統一的,非組織的な命名法では混乱を生じ,さらには誤解をまねくことになり,化学の発展をさまたげるようになる。したがって化学者たちがこの混乱をさけるため,統一的,組織的な名称を考えるのは当然である。この種のものとしてはじめて出てくる重要なものは,フランスのモルボーLouis Bernard Guyton de Morveau(1737-1816)が提唱し,A.L.ラボアジエ,フルクロアAntoine François de Fourcroy(1755-1809),C.L.ベルトンらとともに1787年刊行した《化学命名法Méthode de nomenclature chimique》である。これは,それまでのまったく不合理な命名法をいっさい排除し,合理的,組織的な命名法の基礎をつくり,現在通用している命名法の出発点となったものである。これはさらに19世紀に入って各国の化学者たちの共感を呼び,ついには国際的にも万国共通の命名法が要望されるようになった。そして1892年,ヨーロッパ9ヵ国の化学者がスイスのジュネーブに集まって,有機化合物命名法の制定を協議し,制定したのが,いわゆるジュネーブ命名法(万国命名法)である。これはさらに1919年国際純正応用化学連合IUPACが成立すると,その中に命名法委員会がつくられ,これに引きつがれることになった。現在,IUPACでは,無機,有機,生物化学の3部門での命名法委員会がつくられている。これまでそれぞれの部門では,途中世界大戦などによる中断はあったが,協議が続けられ,数度の暫定則をへて,無機化学命名法は70年,有機化学命名法は71年に決定則が発表されている。現在の国際命名法の原文は英語であり,これを各国で,それぞれの化学会が自国語になおした命名法を制定している。日本では,この英語原文にもとづいて,日本化学会命名法小委員会が日本語での化合物命名法を制定している。
現在用いられている命名法では,一般に,無機化合物では,陽性成分と陰性成分との二元化合物および中心原子とそれに配位する配位子とがつくる錯体として命名する方法が主体になっているが,有機化合物では,メタンあるいはベンゼンなどのような基本的な化合物の水素を他の各種の基で置換してつくられると考える方法が主体となっている。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報