化膿性肝膿瘍

内科学 第10版の解説

化膿性肝膿瘍(肝膿瘍)

(1)化膿性肝膿瘍(pyogenic liver abscess)
概念
 化膿性肝膿瘍は,脈管や胆管を通じてまたは直接に,細菌が肝に感染をきたして膿瘍が形成されたものをいう.
疫学・頻度
 発生頻度は欧米で入院患者の0.013%,わが国では0.19%と報告されているが,剖検例ではその頻度は0.25~0.36%(1976~1984年)とやや高い.
病因別分類・病態生理
 化膿性肝膿瘍は,その感染経路により,①経門脈性,②経肝動脈性,③経胆道性,④直達性,⑤外傷性,⑥医原性,⑦特発性,の7群に分類される. 経門脈性肝膿瘍は,門脈領域の臓器の炎症すなわち虫垂炎,潰瘍性大腸炎,直腸肛門周囲膿瘍,憩室炎などから肝に細菌が運ばれて生ずるが,近年,抗菌薬の発達により著明に減少した(頻度5~6%).経肝動脈性肝膿瘍は,敗血症または全身の感染巣から細菌が肝動脈を介して肝に到達するものである(頻度1~2%).経胆道性肝膿瘍は肝内結石,総胆管結石,胆道系悪性腫瘍などによる胆道狭窄に続発するもので,逆行性に肝内へ感染が広がる.現在,これが最も頻度としては多い(60%).直達性肝膿瘍は隣接臓器(胆囊炎など)の炎症が肝に直接達するものである(頻度8%).外傷性肝膿瘍は,外傷により生じた肝損傷部に経門脈性,経胆道性に感染を起こし膿瘍が形成されるものである(頻度1~2%).医原性肝膿瘍は内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)などの検査後や肝癌に対する経カテーテル肝動脈塞栓術(TAE)療法,ラジオ波焼灼療法(RFA)後などに生ずるものが含まれ,近年増加傾向にある(頻度6%).特発性肝膿瘍は肝膿瘍の発生原因が不明のものであるが,このタイプが近年最も増加傾向にある(頻度18~20%).
病原菌
 大腸菌,クレブシエラ,シュードモナスなどのGram陰性桿菌が主体であり,嫌気性菌の検出率も向上している.また,これらが複数菌感染を起こしている場合も多い.
臨床症状
 化膿性肝膿瘍の3主徴として,発熱,腹痛,肝腫大が知られており,この3徴候をほとんどの症例が呈する.自覚症状として,発熱,食欲不振,全身倦怠感などがみられる.発熱は弛張熱または間欠熱で,多くは38℃以上の高熱で悪寒・戦慄を伴う.右上腹部痛や,右側胸部痛,心窩部痛が60%前後にみられ,同時に圧痛や叩打痛も認められる.肝腫大は高頻度にみられるが,多発性の胆管炎性肝膿瘍や小型の肝膿瘍では腫大はあまり著明ではない.感染が横隔膜,胸膜,肺に波及すると,右肩痛や刺激性咳が出現する.腹水貯留を認める場合もある.化膿性胆管炎を合併している例では黄疸がみられる.
検査成績
 血液検査では,白血球増加,赤沈亢進,CRP上昇はほぼ全例にみられる.しかし,急性閉塞性胆管炎に伴う肝膿瘍などでは,エンドトキシン血症,播種性血管内凝固症となって白血球や,血小板はむしろ減少し,赤沈も遅延することがある.肝機能検査では一般的にALP,LAP,γ-GTP,AST,ALT,TBilの上昇が認められる.
 胸部単純X線写真では,横隔膜への炎症の波及があれば横隔膜の挙上,胸水の貯留などを認め,腹部単純X線写真では肝腫大,起炎菌がガス産生菌の場合には,肝内ガスの存在を認めることがある.
 超音波検査(ultrasonography:US)では,境界不明瞭な囊胞状を呈し,膿や壊死組織を反映する不規則な内部エコーを呈することと短期間で経時的にエコー像の多彩な変化を認める(図9-13-1A).ときに早期の段階の肝膿瘍は充実性腫瘍様の像を呈することがある.
 CTでは膿瘍が完成されていない時期では病巣部は正常肝に比し,やや低い吸収値を示し,辺縁が不鮮明で,内部は不均一な像を呈する(図9-13-1B).膿瘍が完成されると境界明瞭で類円型を呈し内部は均一で水と血液の中間の吸収値の膿汁が充満している像が描出される.造影CTでは膿瘍壁がエンハンスメントを受けしばしばダブルレイヤーサイン(図9-13-2)を呈する.
 経皮経肝胆道造影法(percutaneous transhepatic choangiography:PTC)は,肝内外胆管の拡張や狭窄を伴う胆管炎に続発した肝膿瘍では診断的価値が高い.さらに,ドレナージチューブを挿入することにより治療的処置も可能となる(PTCD).
診断
 ①基礎疾患(胆道系疾患)の有無,②腹痛,発熱,肝腫大などの自他覚所見,などから肝膿瘍を疑うことがまず最初のステップである.次に,血液検査,超音波検査,CTにより肝膿瘍の診断に至ること,最後に治療的診断を兼ねた超音波検査ガイド下ドレナージによって確定診断へと至る.
鑑別診断
 超音波検査,CT上鑑別を要する疾患としては,原発性肝癌,転移性肝癌,囊胞性肝腫瘍(肝囊胞,囊胞腺腫)などの腫瘍性病変があげられるが,超音波検査像,CT像,超音波ガイド下の膿瘍穿刺により鑑別は容易である.
合併症
 局所的合併症としては肝膿瘍破裂による腹膜炎,腹腔内出血,横隔膜下膿瘍などである.炎症の二次的波及による合併症として,胸水貯留,膿胸などがある.全身的合併症では,敗血症,エンドトキシン血症とそれに伴うショックや播種性血管内凝固症があげられる.
治療
 肝膿瘍に対する治療の原則は,迅速な診断とそれにひき続く迅速な治療の開始である.治療法としては適切な薬物の選択と膿瘍穿刺によるドレナージの2点に尽きる. 超音波検査,CTで肝膿瘍を疑った場合は,可及的速やかに超音波ガイド下ドレナージ術を行う.穿刺排膿した膿汁は,細菌培養を行い薬物感受性試験を行った後,最も抗菌力の強い抗菌薬を選択し,化学療法を開始する.原因菌が不明な場合は,大腸菌,クレブシエラ,シュードモナスなどのGram陰性桿菌をおもな目標として薬物を選択する.したがって第一選択としては,これら細菌に対する感受性と肝組織および胆汁中への移行度の高いセフェム系抗菌薬を使用するのがよい. 投与中止時期は,血液検査上の炎症所見が正常化することを目安として決定する.ドレナージチューブの抜去は完全に膿瘍腔が狭小化してからの方が望ましいが巨大な膿瘍の場合などは完全に縮小しないことが多く,炎症所見のおさまった時点で抜去しても再発する心配はまずない.膿瘍腔はその後次第に縮小,器質化していく. 通常の化膿性肝膿瘍は経皮的ドレナージと化学療法のみでコントロール可能である.[工藤正俊]
■文献
Kuntz E, Kuntz HD: Hepatology: Principles and Practice, Springer, Berlin, 2002.
Nakaoka R, Das K, et al: Percutaneous aspiration and ethanolamine oleate sclerotherapy for sustained resolution of symptomatic polycystic liver disease: an initial experience. AJR Am J Roentgenol, 193: 1540-1545, 2009.
Okuda K: Hepatobiliary Diseases: Pathophysiology and Imaging, Blackwell Science, London, 2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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