日本大百科全書(ニッポニカ) 「医師不足」の意味・わかりやすい解説
医師不足
いしぶそく
医療現場で働く医師の人数が足りない状況。具体的な影響として、2005年(平成17)ごろから、病院の閉鎖、一部の診療科の休止、救急・夜間診療の休止などが全国各地で目だつようになっている。診療科別では、産科、小児科、救急などを担当する医師がとくに足りず、地域別では、都市部より地方で、また、開業医(診療所を自ら経営している医師)よりも、病院などに勤務する勤務医が不足している。
医師不足の原因は複合的だが、そもそも日本は先進各国のなかで人口当りの医師数が少ない部類に入る。経済協力開発機構(OECD)ヘルスデータ2009によると、人口1000人当り医師数はOECD加盟30か国平均3.1人に対し、日本は2.1人である。医師を養成しすぎて医療費が増えることを懸念した政府が1980年代から医学部の定員の抑制を実施していることが影響している。このような事態を受けて政府は2008年、医学部定員抑制方針を撤回した。
さらに、2004年度から新人医師の臨床研修制度が変更されたことで、不足に拍車がかかったとされる。従来、大学の医学部を卒業した新人医師は、その大学の付属病院で医局という組織に入り、医師として医療現場で働きながら研修していた。ところが、新制度では新人医師が研修先を選べるようになったため、卒業大学の病院を離れ、さまざまな病院で研修を受け始めた。そのため、とくに地方の大学病院が人手不足になり、各地の病院に派遣していた医師を呼び戻すようになって、地方の病院を中心に医師不足が顕在化した。
医師不足のためにとくに勤務医の労働環境は悪化した。また、政府が医療費を抑え続けたことで、医師の報酬も伸び悩んでいる。勤務医を辞め開業医になる例も珍しくない。さらに、医療事故などで患者が医師を訴えるケースも増えるなど、医師を取り巻く環境は厳しくなっている。
[編集部]