日本大百科全書(ニッポニカ) 「匿名・流動型犯罪」の意味・わかりやすい解説
匿名・流動型犯罪
とくめいりゅうどうがたはんざい
首謀者や指示役がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や求人サイトなどを使って実行役を集め、犯罪ごとに実行役が離合集散する犯罪の総称。略称は匿流、トクリュウ。氏名のわからないアカウントを通じて首謀者・指示役と実行役がやりとりするため、実行役は首謀者・指示役や他の実行役の素性がわからない(匿名)うえ、そのつど実行役を入れ替えながら(流動型)犯罪を繰り返すので、こうよばれる。組織犯罪の一類型で、市民社会や治安への大きな脅威となっている。
2022~2023年(令和4~5)に指示役が「ルフィ」などと名のる広域強盗事件が起きたのを機に、警察庁は2023年、「SNSを通じて募集する闇バイト(犯罪行為をすることによって報酬を受け取るアルバイト)など緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団を匿名・流動型犯罪グループ」と定義、都道府県警察と連携して専従・合同捜査部門を設け、実態解明と摘発に乗り出した。匿名・流動型犯罪は、闇バイトで実行役を募る強盗・窃盗・傷害・殺人のほか、特殊詐欺、薬物密売、旅券偽造、不法就労助長、違法スカウト、闇カジノ・悪質ホストクラブ・地下銀行などの運営など多岐にわたる。①匿名・流動型のため、犯罪グループ、メンバー、資金の流れなどの特定が容易ではない、②素人(しろうと)が実行役となるケースが多く、勢いに任せて荒っぽい犯行になる傾向がある、③実行役はその個人情報を首謀者・指示役に教えてしまっているため、犯罪グループから抜けにくい、④表面上はわからないものの、背後に暴力団や準暴力団(半グレ集団)が存在することがある、などの特徴をもつ。警察庁の推計によると、2023年までの3年間で匿名・流動型犯罪の検挙者は1万人を超え、犯罪数、検挙人数ともに増加傾向に歯止めがかかっていない。
[矢野 武 2025年1月21日]