暴力や脅迫などによって犯罪行動をし、市民に害を与える反社会的な集団。その種類には、博徒(ばくと)、暴力的屋(てきや)、愚連隊(ぐれんたい)をはじめ、時代によって、土建暴力団、港湾暴力団、偽装右翼、会社ゴロなどがあった。欧米の大都市にもギャングなどの暴力組織があるが、日本の場合は、やくざとほぼ同一語といってよい特色を備えている。
暴力団の犯罪行為は、殺人、傷害をはじめ、恐喝、脅迫、暴行などのあらゆる面にわたっている。また、縄張り、利権、跡目などをめぐる対立抗争も激しい。とくに近来では、密輸などにより入手した拳銃(けんじゅう)をその武器とするものが多く、街頭などにおける流血騒動は、しばしば善良な市民に大きな恐怖を与えている。
[岩井弘融]
日本の暴力団の団体数や人員は、昭和30年代初めで約3600団体、約7万8000人、昭和40年代なかばで約3500団体、約8万2000人、昭和50年代なかばで約2450団体、約10万人、1985年(昭和60)12月には約2200団体、約9万4000人であった。その後、団体数そのものは吸収・合併などにより減少し、2016年(平成28)4月時点における暴力団対策法に基づく指定暴力団は、東京都、大阪府、兵庫県などの12都道府県で22団体である。彼らは、大都市をはじめ全国至る所で活動をしている。
その組織は、集団の種類や大きさによって多少は異なるが、組長、幹部、平成員、準成員などの縦のライン組織をもち、しかもその中身は伝統的な親分・子分、兄弟分のつながりで結ばれているのが通常である。しかし近来は、伝統的なつながりをもちつつも、近代的な組織の外装をとることも多くなった。
時代の推移とともに暴力団の組織や活動にも、旧来と異なったいろいろな変化がみられるようになってきている。なかでも顕著なのは、二つ以上の都道府県にまたがって組織を有する広域暴力団の急速な勢力拡大の傾向である。たとえば、1980年(昭和55)ごろ、山口組、稲川会、住吉会の三大暴力団の構成員数は、暴力団全体の4分の1足らずであったが、1990年(平成2)末にはおよそ全体の半数近くまで急増し、これに会津小鉄会(こてつかい)を加えた四大組織で、全国の暴力団員の半数以上を占めるまでに至った。1986年からの5年間で、山口組は約5割増、稲川会および住吉会は約3割増であった。とりわけ、そのなかでも最大の山口組は、1963年には全体の3%であったものが、1990年には全体の30%、つまり全国の暴力団員のおよそ3人に1人を占めるまで急速に勢力を拡大した。1998年には、山口組、稲川会、住吉会の3団体が約67%を占めるようになり、これら3団体の構成員数は約3万人となった。
これらの広域暴力団は、その威力と資金力とによってほかの中小暴力団を吸収し傘下に収め、ますます肥大化する傾向を示してきた。こうした変遷のなかで、相互の対立抗争にあたっての銃器使用の割合も増加し、銃器のうち拳銃を用いるものが8割以上の高率に達している。また、国際犯罪組織との関連も見逃せない。外国組織とのつながりによる拳銃、覚醒剤、麻薬等の密輸、蛇頭(じゃとう)(スネークヘッド)などの国際犯罪組織との提携による大陸からの集団密航者の受入れ、日本での就労を望む外国人女性の不法入国の援助など、国際化する傾向も濃厚である。
[岩井弘融]
暴力団の資金源は、直接間接に経営する土建、金融、露店などの合法企業のほか、麻薬・覚醒剤(かくせいざい)の売買、繁華街の風俗営業者からの「みかじめ」料・用心棒料、企業恐喝、賭博(とばく)、競輪・競艇などののみ行為、あるいはサラリーマン金融の取り立てや債権整理の金融暴力、ポルノ・フィルム販売や売春などの広範な非合法活動によっている。そこには時代による変化もみられ、第二次世界大戦直後の闇(やみ)市場時代には的屋が大きく勢力を占め、経済復興期には港湾・土建の半博徒、さらに芸能界の繁栄に伴う芸能興行社、そして大都市の地価高騰時代には不動産関係の地上げ屋暴力団などが勢いづくという推移がみられた。概して1990年ごろからは、金融、不良債権関連、総会屋など企業対象の知能犯的な傾向を強く帯びるようになった。
前述したように広域暴力団は急速に勢力を拡大してきたが、その資金源に関しても、旧来の覚醒剤売買等にとどまらず、一般の不動産取引や株式売買等の経済活動にまで広範囲にかつ深く入り込むようになってきた。1991年の東京佐川急便事件では、稲川会の前会長・石井進(すすむ)(1924―1991)所有のゴルフ場を利用した384億円の資金調達、前会長による東急電鉄株2739万株の買い占めなど、巨額な金の流れが明るみに出た。稲川会にとどまらず、ほかの組織もいわゆる合法を装う弟分の企業の企業舎弟等を通じ、不動産、金融、建設業界等の裏に、その力を伸ばす傾向を示してきた。とりわけ、投機的なバブル経済は、暴力団の企業活動進出の本格化を後押しする形となった。バブル崩壊後も債権回収等に関与し、民間企業幹部への暴力殺傷事件などをも続発させた。
[岩井弘融]
対策としての暴力団検挙は、例年のように行われており、そのときどきに多少の効果はみられるが、全体としてはなかなか根絶できないのが実態である。近年、暴力団が市民生活や企業経済活動に広く介入するとともに、その手口も巧妙化し、犯罪にならない程度の脅しやいやがらせ、いわゆるグレーゾーンでの行為がその対策を困難にしていた。このような暴力団の組織や活動が大きな社会問題になり、これに対して新たな対応策が必要となり、1992年3月に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法または暴対法)が新たに施行された。
この法律の最大の特徴は暴力団の指定制度にある。暴力団員が所属団体の威力を利用して生活や事業の資金を得ていること、構成員の犯罪経歴保有者の比率が一定比率以上であること、代表者の下に階層的に構成されている団体であること、の三つの指定要件に該当する場合、これを一定の手続を経て指定暴力団とする。この指定を受けた暴力団は、口止め料の要求、寄付金・賛助金の要求、下請け受注や物品納入の要求、挨拶(あいさつ)料の要求、用心棒代の要求、不当な利息の債権取り立て、不当な融資要求、事故の示談介入、少年への加入要求、対立抗争時の事務所の使用等の十数項目にわたる禁止行為と、その違反に対する罰則が設けられた。暴対法の実施は、暴力団の不法行為の制御に、ある程度の成功を収めている。
1999年には、組織犯罪の取締りを目的として、組織犯罪対策三法が制定・施行された。組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法は、一定の組織的犯罪に関する刑の加重、一定の犯罪行為により得た収益による法人等の経営権の支配および犯罪収益の隠匿など(いわゆるマネー・ロンダリング)の処罰に関する規定である。通信傍受法は、組織的、密行的に行われる一定の犯罪に対する捜査に関して、いくつかの条件のもとに通信の傍受を認めるものである。また刑事訴訟法の一部改正では、刑事事件の証人等の保護が規定された。これらの対策によって、暴力団の組織犯罪に対するいっそうの制御が期待されるに至った。
[岩井弘融]
平成に入ってからの暴力団員数の変化は、1991年の9万1000人を境に、翌年の暴力団対策法の施行後、漸次減少し、1995年には7万9300人となった。その後、漸増し、2004年には8万7000人となったが、2010年には7万8600人、2015年には4万6900人と減少している。
組織の寡占化、一極集中が進み、2015年末には山口組、神戸山口組、稲川会、住吉会の主要4団体で全暴力団構成員等の70.8%を占め、とりわけ山口組は30.1%を占めるに至った。構成員の内容としては、1999年前後より準構成員(暴力団の非公式構成員)の増加が目だつが、要因としては、たび重なる法的規制等に対する組織の隠蔽(いんぺい)、資金調達手段の多様化、犯罪レパートリーの拡大や不透明化があげられる。
暴力団員数は、全体的には漸次、減少してはいるが、福岡県のような増加の例外もある。
暴力団に対する種々の対策は講じられてきたが、彼らもまた、その網をくぐり抜け、悪質化する傾向があり、楽観は許されない。
[岩井弘融]
『岩井弘融著『病理集団の構造』(1963・誠信書房)』▽『岩井弘融著『犯罪社会学』(1964・弘文堂)』▽『横山善二郎・川畑久廣著『暴力犯罪の捜査』改訂版(1983・立花書房)』▽『仲村雅彦著『日本の暴力団』(1985・政界往来社)』▽『警察庁編『警察白書 暴力団対策の現状と課題』平成元年版(1989・大蔵省印刷局)』▽『飯柴政次著『組織犯罪対策マニュアル――変貌する暴力団にいかに対処するか』(1990・有斐閣)』▽『加藤久雄著『組織犯罪の研究』(1992・成文堂)』▽『東条伸一郎著『暴力団犯罪』(1995・東京法令出版)』▽『日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会編『注解 暴力団対策法――逐条解説と比較法研究』(1997・民事法研究会)』▽『名古屋弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編『暴力団フロント企業――その実態と対策』(2001・民事法研究会)』▽『日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会編『Q&A暴力団110番―基礎知識からトラブル事例と対応まで』全訂増補版(2004・民事法研究会)』▽『三沢明彦監修、読売新聞社会部治安取材班著『組織犯罪』(2004・中央公論新社)』▽『猪野健治・宮崎学編『「暴力団壊滅」論――ヤクザ排除社会の行方』(2010・筑摩書房)』▽『警察庁編『警察白書』各年版(ぎょうせい)』
暴力を背景にして直接的にある目標に到達しようとする集団。反社会的集団antisocial groupの一種で,公共的社会秩序の間隙に発生し,一般の社会集団に比べて秘匿性が強い。暴力団を単に正常社会における寄生的存在としてだけ特質づけることはできない。たとえば,労働争議のスト破りなどをとおして,暴力団はしばしば企業と結びついてきたし,政党へ政治資金を供給することによって社会的地位を築き上げた例(アメリカ民主党とフランク・コステロ)などがある。暴力団は,麻薬・覚醒剤の密売,競馬・競輪・競艇などのノミ行為,賭博,風俗営業の用心棒,金融暴力,企業恐喝,倒産整理屋,債権取立て,入札妨害,管理売春,ブルーフィルム販売などの非合法活動によって生計を営んでいる。このように下部において犯罪行為が行われる反面,上部においては支配階級と結びついている。また,最近の暴力団の傾向として,企業化,知能化の色彩を濃くし,組織の広域化,系列化が進められている。
→ギャング →やくざ
執筆者:岩井 弘融
〈暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律〉が正式名称。いわゆる暴力団新法,暴対法。1992年3月施行。暴力団の団体を直接規制するのではなく,都道府県公安委員会が暴力団を指定し,その団体の組員個々の不当な行為を規制する。寄付金の強要,不当な利息を伴う債権取立て,示談への介入など11項目の行為が規制される。指定暴力団同士の対立抗争が起きたときは組事務所の使用を禁止できる。さらに97年10月施行の改正法では暴力団の内部抗争にも適用範囲を広げる等の規制強化が盛り込まれた。ただし,本法は資金力の豊かな広域暴力団に対してはあまり効果がないということもあり,現在,通信傍受の導入や刑罰の強化などを含む組織犯罪対策法の制定作業が進行中である。
執筆者:黒田 満
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,てきや,あるいはかつての壮士くずれなどもやくざと呼ばれていた。これらはいずれも稼業を異にするが,最近では,相互の境界がくずれて,一家や組の組織をもつ暴力団もやくざと総称されている。 一般にやくざの組織の中心的な絆(きずな)は,親分,子分,兄弟分の関係であり,とりわけ親分の支配に対する子分の絶対服従がその団体の団結の強さを示すものとされている。…
※「暴力団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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