改訂新版 世界大百科事典 「協議約款」の意味・わかりやすい解説
協議約款 (きょうぎやっかん)
使用者が一定の事項につき自己の権利・権限に基づく一定の措置を行う場合に,あらかじめ労働組合との協議を経るべきことを定めた労働協約上の約定。協議条項ともいう。従業員の採用,異動,解雇にかかわる〈人事協議約款〉が最も多くみられ,経営方針,企業の分合,事業の縮小,工場閉鎖などに伴う措置に関する協議約款も従来より多数存在する。第2次大戦後労働組合運動が経営の民主化を追究したことによって,労働協約上具体化された方式で,従来使用者が一方的に保有していた権利・権限(経営権と俗称された)につき,労働組合の一定の関与・拘束を加えようとするもの。日本に協議約款が登場するに至った特有の背景として,次のような事情があげられる。第1に,日本的特色である年功序列的賃金・昇進体系や終身雇用形態の下では,労働者の生存権を確保するため人事権の行使(とくに解雇)に労働組合の関与を求める必要のあること。第2に,企業別組合形態をとる日本の場合,従業員たる身分の喪失がただちに組合員資格の喪失につながるので,労働組合組織の防衛のため解雇を抑止する必要のあること。第3に,経営上の措置が直接・間接に労働者の労働条件,待遇に影響を及ぼすこと--などである。これらの協議条項のうち,とくに法的な論争の対象となってきたのは〈解雇協議約款〉である。現在の支配的見解は,その根拠づけこそ異なるものの,同約款違反,すなわち協議を経ない解雇は無効であるとしている。なお,より強い組合の抑止力を認めるものに〈人事同意約款〉がある。
→労働協約
執筆者:中嶋 士元也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報