知恵蔵 「南シナ海の領有権問題」の解説
南シナ海の領有権問題
南シナ海は、古くから周辺諸国の海上交通路として知られていた。しかし、面積が狭く水資源に乏しいため、生活には適さない小島が多く、沿岸から遠く離れた島々についての領土的な関心は低かった。19世紀にフランスの帝国主義的支配がインドシナ半島東部に及ぶに至り、この地域に付随する島々としてスプラトリー(南沙)諸島などについてフランスが主権を求めた。1930年代には、すでに台湾を領土に編入していた日本とフランスの両国がスプラトリー諸島の帰属について争い、第2次世界大戦開戦に伴って日本が領有を宣言し併合した。太平洋戦争での日本の敗戦により46年には、中国(国民党政権)が接収。51年のサンフランシスコ条約署名により、日本が権利・権限・請求権を放棄したことで、中国はスプラトリー諸島を含む南海諸島全域の領有権を主張した。
70年代の後半になると、海底油田などの存在が注目されるようになる。90年代にかけては、東アジア諸国が急速な経済成長を遂げるにつれて、各国のエネルギー需要も急増した。南シナ海の油田やガス田は、試掘が進まず十分なデータがないので資源の全容は明らかではないが、周辺諸国にとって極めて重大な関心を呼ぶに至った。
国連海洋法条約(UNCLOS)では、海岸線から200カイリまでを排他的経済水域(EEZ)と定めるが、多数の島が散在し、かつ島の領有権が不明確な南シナ海では、その策定が困難である。タイランド湾の石油と天然ガスは、カンボジア、タイ、ベトナム、マレーシアがEEZを主張する海域にある。また、ナトゥナ諸島周辺にも大規模なガス田が存在し、インドネシア、中国、ベトナム、マレーシアの各国が領有権を主張している。スプラトリー諸島も各国が入り組んで複雑な権利を主張している。各国がいくつかの島を占拠・占領するなどして、軍事衝突も含む対立が深刻化している。2010年の東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)では南シナ海問題が取り上げられ、11年7月には中国とASEAN外相会議は南シナ海での協力推進をうたったガイドライン(指針)を承認した。しかし、中国は同国初の空母を南シナ海に配備する動きを見せ、海洋権益拡大への動きは活発である。11年に入ってからも、フィリピン資源探査船に対する中国艦艇の妨害や、米・フィリピンの合同軍事演習、中国の漁業監視船投入などに関して、中比両国間で領有権を巡る激しい非難の応酬が繰り広げられている。
(金谷俊秀 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報