胃内容を口腔に吐きもどして再そしゃくし,唾液(だえき)と混合させて再び嚥下(えんげ)することを反芻ruminationという。ウシ,キリン,シカ,マメジカなどの反芻類の胃を一般に反芻胃といい,第一胃(こぶ胃)rumen,第二胃(蜂巣(ほうそう)胃)reticulum,第三胃(重弁胃)omasum,第四胃(皺胃(しゆうい))abomasumの4室よりなる。ただし原始的なマメジカ類では第三胃がなく3室である。狭義には第二胃を第一胃の前端部と考えて一つの囊として取り扱い,反芻胃reticulorumen(第一・二胃)と呼ぶことが多い。反芻胃(狭義)は腹腔の大半を占め,全胃容積の80%内外,ウシで100~150lもある大囊である。第一胃粘膜内面には多数の絨毛(じゆうもう)(突起)があり,粘膜表面積を6~7倍にひろげて吸収能力を高めている。第二胃粘膜には四~六角形の小室をつくるひだが発達し,第三胃粘膜には大小の葉状ひだが密生する。第四胃粘膜にはらせん状のひだが発達し,胃腺が分布している。
胃内容は第二胃にはじまり,後方に向かう胃壁(平滑筋)の収縮(A運動)により,反芻胃(狭義)後部に運ばれる。つぎに胃内容は胃壁の逆方向への収縮(B運動)により第二胃にもどされる。反芻はA運動に先立つ第二胃の収縮と食道の逆蠕動(ぜんどう)などによって行われる。反芻胃内には多数の細菌,原生動物が共生し,宿主のとった飼料を発酵,利用している。宿主はこの反芻胃内消化intraruminal digestionにより,セルロースの消化,非タンパク質態窒素の同化,ビタミンBやビタミンKの合成など,多くの栄養的利益を得ている。反芻胃内消化が進むと,第三胃が第二胃,第四胃と協調して行う運動により,胃内容は第三胃を経て第四胃に送られ,ここで胃液による通常の消化をうける。幼若反芻類では噴門から第三胃に向かう第二胃溝(食道溝)という構造の反射作用により,乳汁,水などを反芻胃内に停滞させずに速やかに第四胃に運ぶことができる。なおラクダ類(核脚亜目)は3室よりなる複胃をもち反芻を行うが,反芻類ではない。
執筆者:玉手 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目の動物のうち反芻類がもつ胃で、通常四つの部分からなる。それらは前方(食道側)から第一胃(瘤(こぶ)胃)、第二胃(網胃、蜂巣胃)、第三胃(葉胃、重弁胃)、第四胃(皺(しわ)胃)とよばれる。第三胃までは組織学的に食道と類似しており、第四胃のみが消化酵素を含む胃液を分泌する。食物は、繊毛虫類や細菌類を多く含む第一、第二胃で、これらの共生微生物の産生するセルラーゼなどの酵素による消化を受けたのちに口腔(こうこう)へ戻されて反芻され、その後第三胃を経て第四胃に送られて胃の消化酵素による消化を受ける。キリン科、ウシ科、シカ科はこれら四室をもつが、ラクダ科とマメジカ科では第三胃と第四胃が独立せず、三つの反芻胃をもっている。
[八杉貞雄]
…哺乳類で前胃と後胃の区別が明らかな場合はこれを複胃とよび,明らかでない場合は単胃とよぶ。前胃は反芻(はんすう)類のような進歩した草食性哺乳類では採食したセルロースの微生物発酵槽(反芻胃)となる。主要発酵産物である揮発性脂肪酸は前胃粘膜より直接吸収・代謝され,体の主要エネルギー源となっている。…
…木材を食べるシロアリは,その腸管内に共生する原生動物(鞭毛虫類)や細菌がセルロースを分解して嫌気的につくりだす脂肪酸を利用しており,もし人為的に原生動物を除くとシロアリは死ぬ。ウシ,シカ,キリン,ラクダなどの反芻(はんすう)動物には3~4室にわかれた大きな反芻胃があり,その第1番目のもっとも大きいルーメン(瘤胃(こぶい))と網胃はそこに存在する細菌や原生動物(繊毛虫類)の働きによってセルロースを分解する一種の発酵槽になっている。共生微生物の一部は葉胃・皺胃(しゆうい)に送られて消化され,宿主の栄養となる。…
※「反芻胃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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