テレビ受像用ディスプレーに使われるブラウン管。電気的な映像信号を光のエネルギーに変換し、二次元の画像として再現する。白黒用とカラー表示用とがある。2000年代に入って以降はフラットパネルディスプレーに置き換えられた。
受像管にブラウン管が用いられた理由は、(1)電子の質量が小さく、管内での制御が容易なこと、(2)走査および変調が正確にできること、(3)蛍光体を介して電気信号から光の画像に能率よく変換できること、などである。ブラウン管は1897年ドイツのK・F・ブラウンにより考案され、当初は電気信号の波形観測用として使われた。1907年ロシアのロージングБорис Львович Розинг/Boris L'vovich Rozing(1869―1933)は、初めてブラウン管を画像表示に使用してテレビの受像実験を行っている。また日本では1926年(大正15)に高柳健次郎が、ブラウン管を用いてテレビの受像実験に成功している。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
アメリカで白黒テレビの放送が開始されたのは1941年であるが、そのとき使用されたブラウン管は、偏向角55度、フェース面は丸形であった。丸形ブラウン管でテレビ画像を表示すると、周辺に画面表示に寄与しない部分ができる。このため、画面の大きさに比べて受像機が大型になる難点があり、のちに角形化が図られた。現在テレビ画面の大きさを、ブラウン管の対角線の長さのインチ数(1インチは25.4ミリメートル)で表して16型とか20型というが、これは丸形ブラウン管の大きさをその直径で示していたことの名残(なごり)である。日本では1953年(昭和28)にテレビ本放送が開始され、偏向角70度の角形ブラウン管が製造された。1956年にはメタルバックといって、フェースプレートの内面に塗布した蛍光物質の上にアルミニウムの薄膜を付着して、それまで後方に放射されていた光を前方へ反射させることが考えられ、蛍光面輝度が1.8倍程度向上した。さらに1959年以降には、偏向角が110度、114度という広角度の受像管が製造されるようになり、受像機の奥行の減少に貢献した。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
カラー受像管は赤・緑・青の蛍光体をそれぞれ異なった電子ビームで発光させる3ビーム形と、一つのビームで交互に発光させる単ビーム形とに大別できる。シャドーマスク管とクロマトロンがそれぞれの代表的なものである。
シャドーマスク管は広く実用されたカラー受像管で、アメリカのRCA社が1949年に開発に着手、1950年に円形の蛍光面(フェースプレート)をもつ偏向角55度のものを発表した。これはガラス管の一部にまだ金属が使用され、この接合部のわずかな真空漏れが受像管の寿命を縮めていた。1957年にはアメリカのコーニング社が、管のすべてをガラスで製作したカラー受像管を完成し、この欠点を除くことに成功した。日本では1957年(昭和32)にカラー受像管の国産化を促進させることをねらって「カラー受像管試作委員会」が発足し、1958年にNHK放送技術研究所が世界で初めての角形カラー受像管の開発に成功した。この受像管の主要部分であるシャドーマスクは、衝突する電子によって加熱されて膨張するので、シャドーマスクをひずみなく保持し、安定した画像を得る必要がある。角形カラー受像管は、丸形カラー受像管に比べてこのことがさらにむずかしく、開発に苦心したといわれる。1961年にはRCA社で「全硫化物蛍光体」が開発され、従来より約2倍明るいカラー受像管が得られるようになり、部屋を暗くしなければよく見えなかったカラーテレビも明るい部屋で十分見られるようになった。1964年ごろには、70度、90度の偏向角で角形蛍光面の受像管が主流になり、受像機の小型化が促進された。1965年には、アメリカで開発された「希土類蛍光体」が採用され、さらに明るい映像が得られるようになった。
クロマトロンは1951年カリフォルニア大学のE・O・ローレンスらが発明した単ビーム形のカラー受像管で、赤・緑・青3色の蛍光体をストライプ状に塗り分けた蛍光面の電子銃側に細い金属線格子が配置されている。この格子に適当な電圧を加えると電子ビームがここで曲げられ、3色の蛍光体のうちの1色だけに当たるようになる。したがって格子に加える電圧の変化に同期して、ビームの当たっている蛍光体と同色の原色信号でビームを変調するように色切り替えを行えばカラー画像が再現できる。日本でも一時発売されたが、明るい画面は得られるが画質に多少問題があり、現在は製造されていない。
日本のソニーが1968年に開発したトリニトロンはクロマトロンの問題点を3ビーム形にすることにより解決したもので、明るさ・画質とも優れた受像管として実用に供された。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
受像管はテレビ放送の開始以来、改良を重ねながら使われ続けてきたが、占有容積が大きく重量がかさむのが弱点である。大画面になればなるほどこの弱点は大きくなり、取扱いがむずかしくなるだけでなく製造そのものが困難になる(受像管の実用限度は37インチ程度の大きさまでとされている)。この弱点を克服できる受像素子として、日本では2003年(平成15)ごろから半導体技術を利用したフラットパネルディスプレーを使った薄型テレビが商品化され、急速に普及した。フラットパネルディスプレーは、大画面になっても奥行寸法(厚さ)は小さく保たれ、軽量で低コスト化にも有利である。液晶ディスプレー、プラズマディスプレー、有機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレーなどがあり、現在、テレビ受像機には特別の場合以外、すべてフラットパネルディスプレーが使われ、受像管はその使命を終えたと考えてよい。フラットパネルディスプレーを使ったテレビのより詳しい解説については「薄型テレビ」の項目を参照されたい。
[吉川昭吉郎]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…もともといわゆるブラウン管に対して名付けられたものであるが,広義には陰極面から放射される電子を電子線(電子ビーム)の形で用いる電子管の総称とも考えられる。家庭のテレビ受像管をはじめ,コンピューターシステム端末用の文字や図形の表示,オシロスコープ,レーダーのような観測,計測用など電子式ディスプレーデバイスとしてもっとも広く実用されている。
[代表的な構造と動作]
もっとも一般的な構造は図に示すように,漏斗形をしたガラス外管(バルブ)のコーン部底面に塗布された蛍光面と,細管部(ネック)内に固定された電子銃とからなる。…
※「受像管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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