口の前がん病変(読み)口のぜんがんびょうへん(英語表記)Precancerous oral lesions

六訂版 家庭医学大全科 「口の前がん病変」の解説

口の前がん病変
口のぜんがんびょうへん
Precancerous oral lesions
(口・あごの病気)

どんな病気か

 口のなかの粘膜は常にさまざまな刺激にさらされています。たとえば、歯との摩擦や、歯科治療での充填(じゅうてん)物や補綴(ほてつ)物による機械的刺激がまずあげられます。また喫煙食物などによる化学的刺激や温熱刺激、さらには口腔内に常在する多種多様な微生物による刺激など、実にさまざまな刺激を口の粘膜は受けていることになります。

 このような刺激により口の粘膜には前がん病変を含め、多種多様な病変が現れやすいのです。とくに喫煙は口腔粘膜上皮の角化異常の原因となり、がんを誘発する可能性が指摘されています。

症状の現れ方と検査

 将来がんになる可能性が高いとされる病変が「前がん病変」といわれていますが、これらを肉眼所見のみから診断することは困難であり、正確な診断のためには、組織検査による病理学的な判断が必要となります。口腔内にみられる前がん病変としては、大きく分けて「白い病変」と「赤い病変」が要注意ですが、いずれも痛みなどの自覚症状はありません。

 白い病変の代表は白板症(はくばんしょう)です。上皮の角化異常が特徴で、肉眼で見て表面が不規則に隆起しているように見える白い病変です。がん化率は10%前後と報告されていることから、早期に組織検査を受けておくべきです。

 一方、表面の形状が盛り上がって乳頭のようになっているものは乳頭腫(にゅうとうしゅ)といわれます。これは厳密には前がん病変には分類されませんが、肉眼で見て広範にわたる不規則な形をしたものは悪性化することもあり、切除して組織検査を受けておくことが望ましいと考えられます。

 赤い病変の代表は紅板症(こうばんしょう)です。これは白板症より発生頻度は低いのですが、がんに移行する率は極めて高く、約半数が悪性化するとの報告があります。口腔粘膜の一部が鮮紅色のビロード様に見えますが、自覚症状がないので放置されやすく、発見時にはすでにがん化していることも少なくないので注意が必要です。

治療の方法

 前がん病変は、臨床的にはがんの初期病変と考えて切除することが原則です。病変が広範囲に広がってしまうとその処置は容易でなくなることもあり、早期の発見と治療が極めて重要です。

早期発見のために

 白い病変も、赤い病変も、自覚症状がほとんどないため放置されてしまうことも多いのですが、特徴的な所見から専門医が見逃すことは少なく、日頃から定期的な口腔検診を受けておくことが望ましいといえるでしょう。

瀬戸 晥一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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