日本大百科全書(ニッポニカ) 「古詩十九首」の意味・わかりやすい解説
古詩十九首
こしじゅうきゅうしゅ
中国、『文選(もんぜん)』巻29に収める作者不詳の五言詩。前漢から後漢(ごかん)にかけて成立した五言詩の代表的な作品を集めたもので、一部を除き、ほとんどは後漢の時期の作品と推定される。「古詩」はこの場合、作者不詳の古い詩の意。ただし作者に関しては、『玉台新詠(ぎょくだいしんえい)』では19首中の8首を前漢の枚乗(ばいじょう)の作とし、ほかにも後漢の傅毅(ふき)、魏(ぎ)の文人たちを作者に特定する説が諸書にみえるが、いずれも確証に乏しく、疑わしい。むしろ作品の内容から考えれば、名のある文人の作とするよりは、民間歌謡としての色彩が濃い。当時、民間に流行していた楽府(がふ)歌謡から生まれた五言詩の最初期の作品が集められているのであろう。十九首全体は、別離や不遇あるいは人間の短命など、人生の悲しみや不満を歌う叙情的なもので、民衆の共通感覚を反映する。『文選』編纂(へんさん)当時、数十首に上る「古詩」が存在していたらしいが、いまは十九首以外に十数首が伝わるだけである。
[佐藤 保]
『「推移の悲哀――古詩十九首の主題」(『吉川幸次郎全集6』所収・1968・筑摩書房)』