フキ(読み)ふき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フキ」の意味・わかりやすい解説

フキ
ふき / 蕗
[学] Petasites japonicus (Sieb. et Zucc.) Maxim.

キク科(APG分類:キク科)の多年草。茎は地上には伸びず、地中を横走して根茎となる。根茎から地上に葉を出す。葉柄は長さ20~30センチメートル、葉身は腎臓(じんぞう)状円形、直径15~30センチメートル、裏面には綿毛が生え、銀白色を呈する。早春、葉の展開に先だって花茎が出る。これを「ふきのとう」とよぶ。ふきのとうは球状で、多数の鱗(うろこ)状の包葉に包まれ、開くと多数の頭花が現れる。頭花が開くにつれて花茎が伸び、高さ20~30センチメートルになる。花色は白または黄色。雌雄異株本州、四国、九州、沖縄、および朝鮮半島から中国にかけて分布する。東北地方から北海道、千島列島には大形のアキタブキが分布する。

 数少ない日本原産の野菜の一つで、栽培は10世紀以前から始まった。繁殖株分けで行い、現在栽培されている株の多くは雌株である。近年、ビニルハウスなどの施設内でも栽培され、さらに株冷蔵による早出しや遅出しなどの栽培技術も普及したので、ほぼ一年中市場に出荷されている。栽培品種でもっとも有名なものは愛知早生(わせ)で、アキタブキからつくりだされたといわれる。葉柄は1メートル以上になる。葉柄基部が赤紫色を帯びるところから赤蕗(あかぶき)ともよばれる。現在大きな産地で栽培されているのはほとんどがこの品種である。このほか、一度に多数のふきのとうが出る観賞用の「八つ頭」がある。

[星川清親 2022年4月19日]

利用

ふきのとうや葉柄を食用とする。葉柄は、市場での最盛期は3月から5月であるが、野生のものはおもに初夏に利用する。切った葉柄に塩をまぶしてから、灰または重曹を入れた湯で煮てあく抜きをする。それを水でさらしてから皮をむき、ひたし物や和(あ)え物、煮物とする。また、煎(い)ったり炒(いた)めたりしてから煮つけきゃらぶきをはじめ、佃煮(つくだに)、塩漬けや粕(かす)漬けにする。栄養価やビタミン含有量は少ない。葉柄を緑色に染め、砂糖漬けとしたものを日本ではアンジェリカとよんで、ケーキなどに使う。ふきのとうは、まだつぼみのものをそのままてんぷらにしたり、刻んで水にさらしてから炒め物や煮物にし、また水にさらしたものを湯に通してあくを抜いてから汁に散らす。このほか、長く伸びた花茎は十分にあくを抜いてから佃煮や炒め煮にする。

[星川清親 2022年4月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「フキ」の意味・わかりやすい解説

フキ (蕗)
Japanese butterbur
Petasites japonicus Miq.

花序や花茎あるいは葉柄を食用にするキク科の多年草。野生種は北はサハリン,北海道から南は四国,九州まで広く自生し,朝鮮半島,中国にも分布している。日本原産の野菜として古くから栽培され,自生しているものも採取,利用されてきた。雌雄異株で地下に横走する根茎を有し,この根茎から出る葉は30cmから,アキタブキの大きなものでは2mに達する葉柄と円心形の葉身からなる。花は早春に葉の展開に先だってあらわれ,短い直立した茎の頂部に散房状に筒状花のみからなる頭花をつける。花をつける地上茎には舌状の苞状葉をつける。葉柄を〈ふき〉,花茎を〈ふきのとう〉といっている。栽培品種は日本で野生系統から選抜,淘汰されたものであり,愛知早生ブキやミズブキは三倍体で,軟質で大型になり,促成栽培に適し品質もよい。大型になるアキタブキはサハリンや北海道から東北地方の渓流に沿って大群落を形成することが多い。これら野生系統も,それから栽培化された草姿のきわめて大きい晩生の大ブキや白ブキも二倍体である。栽培は,ビニルハウスで根茎の低温処理を組み合わせ,12月に出荷が始まる促成栽培,フレームなどを利用し4~5月ごろから収穫する半促成栽培,それに露地での普通栽培があり,長期間にわたって市場に出荷される。栽培,繁殖は三倍体で不稔のものはもちろん,二倍体系の品種でも根茎による無性繁殖を行う。フキはその香りとほろ苦さ,しゃきっとした歯ごたえが好まれ,日本特産の野菜として重要なものとなった。ふきのとうはさっとゆでて水にさらして,あくを抜き,三杯酢,あるいはみそと砂糖で煮て食べるほかに,汁物の実,てんぷら,フキの葉の上にふきのとうを刻んでみそと混ぜたものをのせ,炭火の上で焼くみそ焼きなどにして食べる。葉柄は剝皮し,煮つけ,きゃらぶき,砂糖漬,つくだ煮,油いためなどにして食べ,缶詰にもする。せき止め,血止めの薬効がある。
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食の医学館 「フキ」の解説

フキ

《栄養と働き》


 わが国特産の多年草で、湿気の多い山野に自生しています。ほろにがい風味と香りが好まれている春の野菜です。春先に根茎から親指大の花穂をだすのが、フキノトウです。
 山菜として食べられていたフキを、野菜として栽培しはじめたのはわが国で、現在出回っているおもな品種は、尾張(おわり)ブキと呼ばれる根元が赤紫色をした愛知県産のものです。
 他に水フキ、秋田フキなどがあります。水フキは青フキ、京フキなどの別名があり、山野に自生しているものは山ブキと呼ばれています。葉柄は淡緑色で、根元が赤く、つくだ煮のきゃらぶきの原料となります。
〈香りと風味が食欲を増進させ、食中毒予防の働きも〉
○栄養成分としての働き
 栄養的には100g中カルシウムを40mg、食物繊維を1.3g含み、骨を丈夫にし、腸の働きを活発にして便秘(べんぴ)予防に効果があります。
 フキの芽であるフキノトウは、フキにくらべてカロテンが約8倍、カルシウムも1.5倍、カリウムは2倍と栄養豊富です。特有のにがみはポリフェノールの一種「クロロゲン酸」によるものです。
○漢方的な働き
 古くから民間療法に使われてきたフキは、せき止め、たん切り、健胃、浄血、毒消しなどの薬効が知られています。毒消しの効果が食中毒予防につながると考えられています。

《調理のポイント》


 フキの旬(しゅん)は春の終わりから夏にかけてです。新葉が伸びきっているものが良質。茎が太いものは筋がかたく風味に欠けるので、避けたほうが無難です。アクが強いので下ゆでをして、水にさらしてから用いましょう。その際は板ずりをしてからゆでると、色鮮やかにゆであがります。

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普及版 字通 「フキ」の読み・字形・画数・意味

【不】ふき

君父の本名を避けずにいう。また、死ぬ。〔漢書、丙吉伝〕上(しゃう)自ら臨みて吉に問うて曰く、君(も)し不らば、誰(たれ)か以て自(よ)りて代るべきぞと。吉、辭謝して曰く、群臣の行能は、の知るなり。

字通「不」の項目を見る


【負】ふき

そしられる。

字通「負」の項目を見る


【浮】ふき

怪しげ。

字通「浮」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フキ」の意味・わかりやすい解説

フキ(蕗)
フキ
Petasites japonicus; butterbur

キク科の多年草。アジア東部の温帯に分布する。日本各地の暖地の山地や路傍に生える。横に長く伸びる地下茎の先に葉を出す。葉は長く太い多肉質の葉柄をもち,葉身は大型の腎円形で灰白色の綿毛をかぶる。早春に,多数の鱗状の包葉をつけた花茎を出し,先端に散房状に頭花をつける。雌雄異株で,雌株では花後に花茎が伸び 30cm以上になる。雄株の頭花は黄白色,雌株の頭花は白色で,ともに冠毛をもつ。果実は小型の痩果。古くから山菜とし,また栽培もされる。食用とされるのは若い花茎と葉柄で,花茎は特に「ふきのとう」ともいわれ,鎮咳剤ともされる。北海道と東北に生じるアキタブキ P. japonicus var. giganteusは大型で,葉柄の長さは 2mにも達する。食用に栽培する。

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百科事典マイペディア 「フキ」の意味・わかりやすい解説

フキ

キク科の多年草。本州〜沖縄,東アジアの暖帯に分布し,山地の路傍にはえる。葉は長い葉柄があり,やや円形で幅15〜30cm,花後地下茎の先に出る。雌雄異株。早春,多くの鱗片状の包葉をつけた花茎を出す。雌株の頭花は径7〜10mm,糸状の白い小花からなり,雄株の頭花は黄白色の筒状花からなる。葉柄とふきのとうと呼ばれる若い花茎は食用または薬用とする。本州北部以北に分布するアキタブキは全体が非常に壮大で,葉柄は約2m,葉はややかたく,径1.5mにもなる。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「フキ」の解説

ふき[葉茎菜類]

東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に本吉郡南三陸町で生産されている。数少ない日本原産の山菜。昔から食用とされ、煮物のほか、きゃらぶき・粕漬け・みそ漬け葉の佃煮などの常備菜として利用される。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報

栄養・生化学辞典 「フキ」の解説

フキ

 [Petasites japonicus].キク目キク科フキ属の宿根多年草.主に茎を食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内のフキの言及

【山菜】より

…ふつう草本を主体として木本植物やシダ類の一部を含めるが,より広く菌類や藻類を包含させることもあり,山菜と呼ぶ植物の範囲は一定しない。また,アザミのように平安期には栽培されていたが,今ではまったく野草にもどってしまったものや,セリやフキのように栽培→野生→栽培という歴史をもつものもある。現在セリ,フキ,ウド,ワラビ,アシタバ,タラの芽などは栽培に移されて量産が進み,とくにワラビは促成・抑制栽培が確立されている。…

※「フキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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