広義には,平仄(ひようそく)や句数の制約を受けない唐以前の中国の詩を総称する。清の沈徳潜(しんとくせん)の《古詩源》などは,そうした詩を集めたもの。またそのような古い形式にのっとって作られた唐以後の詩をも古詩という。詩型上は古体詩に属し,唐代に完成した律詩・絶句の今(近)体詩に対応する。
狭義には,漢代に作られた一連の作者不明の五言詩を指す。その成立についてはなお不明なところが多いが,おそらく前漢末から後漢にかけて現れた歌謡に起源を持つと思われる。作者は知識階層に属する人と考えられ,歌謡の趣を残しながら整った叙情の手法を示している。これらの詩が読み人知らずとして伝わっているのは,五言の詩型がまだ一般には正規の文学様式として公認されていなかった背景を想像させる。6世紀の詩論書《詩品》によると,六朝のころには〈古詩〉と称される漢代の五言詩が60首近く存していたらしい。なかでもとりわけ有名な作品は,《文選(もんぜん)》巻二十九に収められる〈古詩十九首〉である。これらの詩を特にすぐれた作とする認識はかなり早くからあったとおぼしい。五言詩草創期のすぐれた成果を示すものである。《玉台新詠》がそのうちの9首を前漢の枚乗(ばいじよう)の作として収めるのは,偽託として退けられるべきである。19首の内容は,おおむね人生に対するさまざまな不安と懐疑の告白であり,全体に沈鬱な悲哀の情緒が色濃くただよっている。そのあるものは,男女の離別の悲しみをうたう。〈行き行きて重ねて行き行く,君と生きながら別離す〉に始まる第1首はその趣を代表する。またあるものは,第15首のように〈生年は百にも満たざるに,常に千歳の憂いを抱く〉と過ぎゆく時間への感傷と迫り来る死への恐怖をうたい,その不安を解消する手段として快楽への耽溺(たんでき)をすすめる。総じて〈古詩〉の詩人たちは人生の悲哀に対して受け身の姿勢であり,それらをたくましく克服しようとする態度は見られない。
執筆者:興膳 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国古典詩の一体。元来は六朝(りくちょう)時代に、それより古い時代の詩、という意味で、主として漢代の詩をさしていったものである。唐代になって近(今)体詩(絶句・律詩)が新たにおこってからは、近体詩に対する古(体)詩の意味に用いられるようになった。すなわち、近体詩でないものが古詩であるが、通常これは2種の意味をもつ。第一は近体詩成立以前の詩、すなわち太古から隋(ずい)までのすべての詩をさす。ただし、『詩経(しきょう)』と『楚辞(そじ)』の詩は含まれないのが普通である。明(みん)・清(しん)代に多く編纂(へんさん)された古詩の集は、いずれもこの類の古詩を対象とする。第二は近体詩成立以後でも、近体詩の規格に沿わない詩をさす。一般的に、古詩の体裁を近体詩と比較すると、すべてに自由であることが特色である。つまり、(1)句数の長短に制限がない、(2)律詩のような対句を用いる決まりもない、(3)韻の踏み方も、近体詩のように平声(ひょうしょう)に属する一種の韻を偶数番目の句末に踏む(第一句にも踏むことがある)というのではなく、仄(そく)韻(平らでない声調に属する韻)を用いたり、途中で韻をかえたり(換韻)、毎句末に韻を踏んだりすることがある。
古詩は長い時代の広がりのなかに、4句、6句の短いものから二百数十句に及ぶ長いものまで、近体詩に近似する整ったものから、長短不ぞろいの字数の句を含む楽府(がふ)体まで、多様なタイプに分かれるが、自由な体裁ゆえに自由な歌いぶりをもって、近体詩と詩を二分する形で後世に受け継がれた。主要な形式は近体詩と同じく、五言(ごごん)と七言である。
[石川忠久]
『石川忠久著「古詩」(『中国文化叢書4 文学概論』所収・1967・大修館書店)』
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…押韻は平声のみを用いる。仄声の押韻で,近体の平仄の規則に従った詩がときとしてあるが,仄韻の近体とも,近体に似た古詩ともみることができる。一韻到底と称して,一度定めた押韻は,途中で変更することはできない。…
※「古詩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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