日本大百科全書(ニッポニカ) 「合成ゴム工業」の意味・わかりやすい解説
合成ゴム工業
ごうせいごむこうぎょう
沿革
天然ゴムは東南アジアでパラゴムノキから生産されるため、需要の変動に硬直的であり、また軍需物資として重要であることなどから、代替する合成ゴムの研究には高い関心が寄せられた。第一次世界大戦中、生ゴム輸入が途絶したドイツでは、品質・価格両面で生ゴムに代替しえなかったものの、メチルゴムが製造された。第二次世界大戦中、アメリカ、ドイツ、ソ連などでゴム不足の対策として、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)などの合成ゴムが開発・製造された。天然ゴムの分子構造はイソプレンのシス型1・4結合の立体重合体であるが、戦後、石油化学工業の発達に伴いブタジエンやイソプレンも安定した大量生産が行われるようになった。それらを原料に天然ゴムと同じ分子構造の立体重合体の合成に成功し、BR(ポリブタジエンゴム)、IR(ポリイソプレンゴム)が製造されるようになった。これらの合成ゴムは構造に立体規則性をもつため、ステレオゴムと総称される。
[大竹英雄]
合成ゴム工業の現状
日本では1959年(昭和34)に合成ゴムが国産化された。天然ゴムに代替する汎用(はんよう)合成ゴムとしてSBR、BR、IRが製造され、また耐油性、ガス不透過性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、難燃性など天然ゴムにはない特性をさまざまにもつ特殊合成ゴムとしてNBR、IIR(ブチルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリン(エピクロルヒドリン)ゴムなどが製造されている。現在、ゴム需要の8割を占めているタイヤ原料として、汎用合成ゴム(SBR、BR)が使用されるようになると、その後のモータリゼーションにより急成長し、1966年に生産量は天然ゴムを凌駕(りょうが)するに至った。その後も生産量は増加の一途をたどり、2004年(平成16)以降は160万トンを超え、2007年、2008年には165万トン台のピークを示したが、2009年には世界同時不況の影響を受け、国内需要が急減し生産量は130万トンとなった。合成ゴム生産量に占める各種合成ゴムの構成比は、2009年時点で、SBR=40%、BR=20%、EPDM=12%、NBR=7%、CR=7%となっている。また、合成ゴム生産量のうち、ラテックスは30万トン程度生産されているが、ほとんどはゴム工業以外の紙加工、繊維処理、プラスチック、建築資材用に供給されている。
2009年の日本の輸出は62万5000トンで生産量の48%(2008年は35%)を占めている。国内への出荷量は約91万トンで、輸入は13万8000トンである。新ゴム(需給統計上、天然ゴムと合成ゴムを合算したもの)消費量に占める合成ゴム消費量は2000年ごろまでは60%程度を示していたが、その後は50%台後半で推移している。合成ゴム消費量は1996年以降110万トン台を推移し、ゴム製品の原料として、タイヤ、チューブ、ホース、ベルト、防振ゴムから履き物まで多様な分野に供給されている。しかし履き物用は減少し、中心はタイヤと、エンジンルームの高熱化などで耐熱性や耐油性等の特性も必要となる自動車関連部品となっている。エンジンルームに使われるゴム部品にはEPDM、NBR、アクリルゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴムなど多岐にわたっている。
1980年代以降、世界のゴム消費が減少したため、合成ゴム事業から撤退した欧米企業もあるが、経済の拡大が著しい東アジアやブラジル、中東では、石油化学コンビナート建設によって合成ゴム製造設備の新設や増設が行われ、生産が拡大している。日本の合成ゴムメーカー大手の日本ゼオンは、欧米企業の買収などでアメリカ、イギリス、マレーシア、タイ、中国における供給体制を築き、JSRも製造・販売の拠点をアメリカ、タイ、中国、韓国に展開しているが、新興国の発展に伴って原油需要が拡大しており、原油価格高騰からも、さらなる国際競争力向上が必要とされている。
[大竹英雄]
『『日本合成ゴム株式会社十年史』(1968・日本合成ゴム株式会社)』▽『山本鐵太郎編『ゴム年鑑』1999年版(1998・ポスティコーポレーション)』▽『石油化学新聞社編・刊『石油化学工業年鑑』1999年版』▽『山谷隆編『ゴム年鑑』2010年版(2009・ポスティコーポレーション)』▽『重化学工業通信社・化学チーム編『日本の石油化学工業』2010年版(2009・重化学工業通信社)』▽『化学工業日報社編・刊「2010年版 化学工業白書」(月刊『化学経済』2010年8月号)』▽『化学工業日報社編・刊『化学工業年鑑』各年版』