合成高分子(プラスチック)をおもな素材とし、筆記および印刷が可能なように紙化加工したシート状のもの。紙の分野では、印刷を目的としない包装紙や板紙なども紙として扱われるのに対して、プラスチックの分野では、筆記および印刷を目的とするもののみを合成紙として扱い、肥料袋用のビニルシートや菓子袋用のポリエチレンシートなどは合成紙としては扱われない。なお、広義の合成紙として合成繊維紙まで含めることもある。
[御田昭雄 2016年4月18日]
合成高分子としては、おもにポリスチレン、ポリエステル、ポリプロピレンなど石油製品のうち安価で寸法安定性がよいものが用いられ、これを鉛筆またはペンによる筆記や印刷に向くように加工する。紙化加工法としては、表面がざらつくほど大量の填料(てんりょう)(不透明性を出すため使用する陶土)を練り込むとか、内部に多数の微細気泡を入れるなどの方法が用いられる。また寸法安定性が向上するように、2軸伸長処理などを行う。さらに印刷適性の向上を図るため、従来のコート紙のように表面に塗工仕上げを行ったものもある。
[御田昭雄 2016年4月18日]
合成紙は、石油が安くかつ豊富に出回っていた1970年代に、木材資源の枯渇に備えるためとして、また公害問題となっていたパルプ廃液を出さない紙として、王子油化合成紙(現、ユポ・コーポレーション)、日本合成紙、積水化学工業、三菱レイヨン(現、三菱ケミカル)、日清紡績(2009年に日清紡ホールディングスとなり、2017年に製紙事業を大王製紙に売却)などの各社によって開発され、生産が開始された。当初は下級印刷紙の新聞用紙までが合成紙にかわるかと期待された。一方では国内で毎年消費される大量の紙に合成紙がとってかわったときに、古合成紙を資源として回収・再生する際の技術的問題や、回収されずに捨てられたときに腐らずに河川や海洋などに漂うのではないかといった、想定上の環境汚染問題が論議をよんだ。
しかし1973年(昭和48)のオイル・ショックに続く原油価格の高騰に伴って、石油製品は一斉に値上りし、合成紙の製造工業は苦境に立たされ、撤退した企業もあった。その後、残った各企業は、木材紙の代用品としてではなく、従来の紙にはない特殊な性能をもった合成紙の開発に努力を傾け、新たな需要の開拓に成功し、1999年(平成11)には約3万2000トンの総生産量を記録するに至った。従来の紙の総生産量の約0.1%強である。その後もその生産量はほとんど変わらず、3万3000~3万4000トンといわれている(2014年時点)。合成紙の製造業はいまだに規模が小さく、主力産業ではないので、経済産業省や日本製紙連合会等の正式な統計表には載らず、いずれも聞き込みによる数字である。
[御田昭雄 2016年4月18日]
合成紙の価格は高く、同じ重量の木材紙の約6~8倍である。木材紙に比べて軽いので、面積当りではそれよりいくらか安いとはいえ、まだ非常に高価である。しかし合成紙はその特性である、軽く、濡(ぬ)れに強く、耐久性に優れ、高度の印刷適性があるのを生かして、地図用紙、屋外広告、カレンダーなどに根強い需要がある。また折っても放せば元に戻る性質があるので、投票用紙として重要視される。さらに偽造防止の処理がしやすいので、今後証券やパスポートの用紙として利用される機会も増えよう。
[御田昭雄 2016年4月18日]
合成繊維紙は、狭義の合成紙がプラスチックのシートに形状および製法の点で類似しているのと異なり、パルプのかわりに適当な長さに切った合成繊維を用いて湿式抄紙(しょうし)したもので、外見も長繊維パルプを原料とする和紙に類似している。その製法は、適当な長さにカットした合成繊維と可溶性の合成接着剤または熱溶融性の合成繊維を混ぜて、いったん水に懸濁(けんだく)させ、ワイヤ(抄(す)き網)上で抄きあげて湿紙を形成させる。さらに加熱したロールの間を通すことにより乾燥させ、繊維どうしを接着させて合成繊維の紙葉とするもので、形状および製法は和紙や洋紙と類似する。用途も合成紙と異なり、従来の障子紙や濾紙(ろし)、濾布、包装紙などの分野に使われる。
[御田昭雄 2016年4月18日]
『綜合包装出版編・刊『不織布と合成紙の需要動向と発展性 製造方式別需給と用途別需要分析を中心に』(1992)』▽『高橋泰雄著「合成紙の現状と将来」(『紙・パルプ』1998年8月号所収・日本製紙連合会)』
合成高分子を主原料として作られる紙的性質をもったシート状物をいう。石油がきわめて安く入手できた1960年代後半には,天然紙に近い値段で得られ,しかも軽く,水にあっても破れず強度の大きい利点をもっていたため,その発展は非常に期待されたが,73年の石油価格の高騰により一般用としては経済的に引き合わなくなり,年間5000t程度生産されているにすぎない。合成紙は機能・用途面から,(1)合成パルプ紙,(2)合成フィルム紙,(3)合成プラスチック板紙に分けられる。
オレフィン系モノマーの重合過程でフィブリル化して得た合成パルプを主原料として作られる紙。合成パルプ繊維は天然パルプ繊維と似た形状や長さをもち,水に分散して天然パルプと混抄してシートを作れるが,天然繊維のように自己接着性はないので,熱融着を行う必要がある。白色度,不透明度,ぬれたときの強度や湿度変化に対する寸法安定性はすぐれており,原料が高密度ポリエチレンであるので耐薬品性,ヒートシール性,エンボス加工適性をもっている。
ポリオレフィン系およびポリスチレン系合成高分子を押出成形もしくはインフレーション法でフィルム化したもので,不透明性を与えるために,ポリマーに不透明充てん物を混練したり,フィルム内で発泡させたり,表面加工を行う。表面加工法としては,塗工紙と同じように顔料塗工をする方法,溶剤処理による部分溶解法,コロナ放電処理,ラミネート処理などがある。合成フィルム紙は合成紙の主流を占め,ポスター,カレンダー,包装袋などに用いられ,また紙粉が出ないので微量のちりをも嫌う電算機室などでの筆記用紙としても使用される。(1)と(2)の中間にあるスパンボンド紙は,紡糸口金から出た長繊維をランダム配向させ熱融着してシート状にした合成紙で,強度が高いのが特徴である。
一種の複合材料であり,たとえば硫酸カルシウム70%とポリオレフィン30%とからなる段ボール紙的材料は,天然原紙に比べ耐水・耐湿・耐日光性などの点ですぐれている。
執筆者:臼田 誠人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
合成高分子を加工して紙的性質を付与したもので,プラスチックフィルムペーパー,合成繊維紙などがある.おもな製法には,素材の形状からフィルム法とフィラメント法がある.フィルム法では,印刷性,筆記性の向上を目的として,コーティング法,エッチング法,エンボス法,ブレンド法などによる処理を行う.なお,狭義には,フィルム法によるもののみを合成紙とし,フィラメント法によるものは不織布とする.通常の紙にはない耐水性,寸法安定性などの性質が期待される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…パピルス紙はパピルスpapyrusの茎を薄くはぎ縦横に並べて強く圧縮してシートにしたもので,繊維分散液から作ったものではないからである。化学繊維やフィルムから作った紙も定義から外れるが,紙と同じ用途にあてる紙に類似したものは合成紙と呼ばれている。製紙工業では紙を紙(洋紙および和紙)と板紙に分けて規定しており,日本における両者の生産割合はほぼ55:45である。…
※「合成紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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