改訂新版 世界大百科事典 「合金設計」の意味・わかりやすい解説
合金設計 (ごうきんせっけい)
alloy design
材料の使用目的が示されたとき,その目的に合った合金の組成,製造方法,温度,応力などの使用条件およびその条件下での寿命を決定することをいう。歴史的には19世紀初頭のM.ファラデーの合金鋼の研究にまでさかのぼることができるが,物性研究の理論的成果を基台にして,これまでの合金開発の経験を系統的に整理し,これを新たな合金開発のために利用することが試みられたのは1960年代の後半になってからである。物性研究と合金設計との大きな違いは,前者が現象理解のための分析的な志向性をもち,なんらかの解が必ず存在するのに対して,後者は合成的な志向性をもち,発見的あるいは試行錯誤的な方法論に依拠していること,用途と密接な関係があるため,それぞれの合金設計の結果は以後の不断の改良を前提としていることである。代表例にはニッケル基耐熱合金の設計がある。クリープ破断強度,高温耐力/伸び,組織安定性,耐食耐酸化性などの目標値が設定され,それに合うようなミクロ組織(〈金属組織〉の項参照)の選定が行われ,数億にも及ぶような合金元素含有量の組合せの中から目的に合いそうな有効な合金組成を数十種類選び出して実験的検討を加え,最適な合金組成を決定することが行われている。このような合金設計を成功させるための条件は,実験的成果を反映するデータベースの充実と特性予測のためのモデルの先見性である。
執筆者:岩田 修一 合金設計の方法をファインセラミックス,機能性有機材料,電子材料などの各種材料に適用し,有用で必要な材料を提供するための科学的手法を材料設計と呼んでいる。材料設計は三つの立場あるいは段階に分けられる。すなわち,(1)新しい機能を有する物質の探索,(2)上記の段階で選択された材料の実用化,(3)材料データベースの中から所要の要求にこたえるための材料の選択あるいは推定,である。金属においては,上述のように,材料開発,材料製造の両面で蓄積が十分あり,材料設計においては(3)の意味合いが濃い。現在開発されつつある新素材の分野においては,とくに(1)を意味することが多い。
執筆者:梅田 高照
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報