周氷河地形(読み)シュウヒョウガチケイ(その他表記)periglacial landforms

デジタル大辞泉 「周氷河地形」の意味・読み・例文・類語

しゅうひょうが‐ちけい〔シウヒヨウガ‐〕【周氷河地形】

地中の水分が周期的に凍結と融解を繰り返すことによって生じる地形氷期または高緯度地域などの寒冷地でみられ、岩石の破砕や土壌物質の移動などにより、なだらかな起伏を形成する。日本では宗谷丘陵にみられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「周氷河地形」の意味・わかりやすい解説

周氷河地形 (しゅうひょうがちけい)
periglacial landforms

寒冷な気候の支配する周氷河地域では,地表に凍結と融解の作用が強く働き,残雪や風の作用も加わって,他の気候地域とは異なった特有の地形が発達する。そのような地形を総称して周氷河地形という。〈周氷河〉の語は最初,第四紀洪積世(更新世)に拡大した大陸氷床の周辺地域の意味に用いられたが,後にそれとは関係なく,寒冷地域のうち氷河におおわれていないところをさすようになった。周氷河地域と温暖地域との境界については,最暖月の月平均気温10℃の等温線,森林限界,構造土分布限界など,気候要素や景観に基づいた考えが提唱されている。また周氷河地域を永久凍土分布地に限るとする意見もある。いずれにせよ周氷河地域は寒冷で地面が凍結融解を繰り返し,それが地形形成に大きな役割を果たしている気候地形形成地域の一つである。定義によって周氷河地域の範囲は一致しないが,陸地面積の10~15%を占めるとみられている。

周氷河地域の地形形成作用で最も重要な凍結融解作用frost actionは,〈凍結破砕作用frost shattering,congelifraction〉と〈融凍攪拌(かくはん)作用(クリオタベーションcryoturbation〉に大別される。前者は,岩石の節理や孔隙中の水が凍るとき体積が約10%増大するために生ずる圧力で,岩盤から岩塊・岩片を剝離させ,それをさらに細片化して岩屑をつくる作用である。後者は凍結擾乱(じようらん)作用ともいい,水を含む未固結堆積物の凍結融解による体積変化によって,地表付近の物質の変位・変形をもたらす作用で,以下の諸現象が含まれる。それは,凍結進行時に下部の未凍結部分から毛管現象で水を吸い上げ,氷を析出して地面を押し上げる凍上frost heave,地中の礫が凍上する土に凍着して引き上げられる凍着凍上,それにより地表へ引き上げられる礫の淘汰,地表の収縮および凍結割れ目の形成,凍土中に取り残された未凍結土にかかる凍結圧や,土の粒度組成と水の不均等分布による体積の不等変化が引き起こす物質の集塊変化や貫入などで,斜面ではそれにソリフラクションすなわち水に飽和された表層土全体が,水を潤滑材としてゆるやかに斜面を流れ下る現象が加わる。レスや火山灰など毛管力の強い土は,凍結時に大量の水を吸い上げるので,この作用を受けやすい。永久凍土の分布地域では表層の数十cmから2mほどが活動層と呼ばれ,夏季に融解するが,冬季に再凍結する際,地表から凍結が始まり,凍土層の形成が下方へと進むので,下の永久凍土層にはさまれた未凍結部分は,強い凍結圧を受け激しく攪拌される。残雪の作用も周氷河地域に一般的であり,裸地が広いこと,凍結・融解の反復で土のねばりが失われることで,風の作用も無視できない。これらの諸作用は総称して周氷河作用といい,複合して地表に働き,凸部を削剝して地表を低下させる。周氷河地域に働く削剝作用を,凍結削剝作用とよぶ。この作用は,谷底に沿って線的に働く河川の作用と異なり,地表に広く面的に働くため,全体として小起伏のなだらかな斜面を発達させる。

凍結破砕作用によって生じた岩塊は,さまざまな岩塊地形を発達させる。緩斜面では岩塊が移動できず,地表をおおって岩石原block fieldをつくる。斜面では個々の岩塊がゆっくり滑る滑動岩塊,多量の岩屑が全体としてクリープし斜面をおおう岩屑斜面,凹所に集積しながら流下する岩塊流block stream,中に氷体をもつ岩石氷河などが発達する。融凍攪拌作用によるものは凍土現象として一括される。構造土や岩屑が薄く平たん地をおおう石畳,草や矮小灌木におおわれた径1m前後,高さ数十cmの凍結坊主とよばれる半球状の土の高まりは,地表条件の違うところに類似の作用が働いてできたものである。斜面にはソリフラクションの前面が高さ数十cmの微起伏をもって舌状にのびたソリフラクションローブsolifluction lobe,数mm以下の細粒物質と数cm大の岩片が互層をなす成層斜面堆積物が分布する。永久凍土地帯では,凍結割れ目を満たす水が凍った氷楔(ひようせつ)ice wedge,それが作る径数十mの巨大多角形土polygons,氷の薄層をもつ径数m~数十m,高さ数mの泥炭の高まりであるパルサpalsa,さらに大型で中に氷塊をもつ小丘ピンゴpingo,地表下に集積した集塊氷,それが溶けてできた浅い盆地アラスalasや融解湖などの地形が発達する。凍土現象の断面には,インボリューションinvolutionという複雑にゆがんだ,褶曲・貫入構造や,土中の礫が長軸を垂直方向に向けた礫の立ち上がりなどの,融凍攪拌現象がみられる。凍結削剝作用は,基盤岩の高まりを削って,特有の斜面形を発達させる。斜面上部には高さにくらべて幅の広い凍結削剝階段が発達し,削り残された塔状の岩体トアtorが点在する。斜面を構成する岩質に違いがある場合などには,なめらかな斜面の中腹に急な凍結破砕崖が現れる。斜面下部には緩傾斜の削剝斜面である寒冷ペディメントが広がる。谷は谷頭部が浅くくぼんだ周氷河皿状地や,両谷壁の日射量の違いによって両岸の傾斜が異なる非対称谷asymmetrical valleyになることが多い。稜線付近の風上側斜面には雪が積もらず,凍結融解作用が強く働いてなめらかな斜面が形成され,風下側には雪が吹きたまって雪食作用による急斜面ができ,全体として両斜面の傾斜の異なる非対称山稜asymmetrical ridgeが発達する。日本では北海道の大雪山や日本アルプスに現成の周氷河地形が,北日本の各地に氷期につくられた周氷河地形が分布している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「周氷河地形」の意味・わかりやすい解説

周氷河地形
しゅうひょうがちけい
periglacial landforms

地中温度がつねに0℃以下になっている永久凍土の分布地域にみられる地形。地中温度が頻繁に0℃を上下するために岩石などの凍結破砕が活発に生じる地域。北極を中心とする高緯度地域と、森林限界を越えた高山帯でみられ、植物の生育が妨げられるために、地表面は裸地となっているか、あるいはツンドラ植生とよばれる低木や草本類だけに覆われる。凍結、融解の繰り返しによって岩石は破砕され、壊された岩片は雪融(ど)け水や、水分で過飽和になった表土のソリフラクションsolifluctionとよばれる緩慢な流動によって下方へ運搬される。このため全体としてなだらかな斜面が発達し、凍結による破砕に対して抵抗性の強い岩石だけが、周りから突出する。地表面では、凍結、融解の繰り返しによる土壌物質の移動や、凍結による割れ目の形成によって種々の構造土が発達する。また、地下水の凍結によって、地中で局部的に大きな氷体が形成されると、氷体が地表面を盛り上げピンゴpingoとよばれる円頂丘やパルサpalsasとよばれる泥炭丘が形成される。ピンゴはアラスカでとくに多くみられ、高さ100メートル以上にも達することがある。ピンゴを支えていた氷体が融けると、ピンゴは陥没してアラスalasとよばれる凹地が形成される。気候が現在より寒冷であった氷期には、中部ヨーロッパや北海道などでも、周氷河地形が広くつくられたことが知られている。

[小野有五]

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百科事典マイペディア 「周氷河地形」の意味・わかりやすい解説

周氷河地形【しゅうひょうがちけい】

氷河周辺地域にみられる特徴的な地形の総称。植生がまばらで,岩石表面では割れ目に浸入した水の氷結融解作用の繰返しで,大量の岩屑(がんせつ)が生産され,岩塊流を作る。土壌層内では同様に凍結融解作用により物質の対流が起こり,構造土や階段状の地形(流土階段)などが形成される。そのほか永久凍土二重山稜,非対称山稜なども含まれる。→ソリフラクション

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「周氷河地形」の意味・わかりやすい解説

周氷河地形
しゅうひょうがちけい
periglacial landform

気温が0℃を上下する日数の多い寒冷な氷河周辺の地域で,水分の凍結,融解が激しく行われたために形成される特有な地形。地下数mには永久凍土があり,表層の水分が凍結,融解を繰返すことによって岩石の破壊,流動が起り,構造土,流土階段などの微地形や岩塊流,岩海,氷楔,氷袋土などが形成される。このため山地の谷はうずまり尾根は丸くなってなだらかな従順山形となる。北海道や中部地方などの高山地帯にもこのような地形が認められるが,過去の氷期の化石周氷河地形であると考えられる。

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