日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペディメント」の意味・わかりやすい解説
ペディメント
ぺでぃめんと
pediment
乾燥地帯の山地の前面にみられる侵食緩斜面。乾燥地形の調査の最初期の1877年に、アメリカの地質学者のギルバートG. K. Gilbertが、ユタ州のヘンリー山地でこの地形を調査して以来、乾燥地形の主要なテーマとして多くの論文が公表されたが、現在もその形成営力について論争が続いている。ペディメントが「山麓侵食緩斜面(さんろくしんしょくかんしゃめん)」であり「山地前面とペディメントの境に傾斜の急変部がある地形」であるとする点では意見は一致している。北アメリカ砂漠のペディメントの大部分は、山地とペディメントの岩石が同じであり、大きな山塊の斜面も小さな山塊の斜面も勾配(こうばい)にほとんど差がない。そのため、山地斜面が勾配を変えず後退し、山地が縮小するとともにペディメントが拡大し、最後に最終地形であるペディプレーンとよばれる平原が形成されると考えられている。この形成過程についてはあまり異論はないが、山地の縮小によるペディメントの拡大をもたらす営力については二つの見解がある。山地とペディメントの境の平面形――上空から見た形状は、ペディメントが山地に楔(くさび)状に切り込んだ状態になっており、エンベイメントenbaymentとよばれている。北アメリカ砂漠のペディメントの形成営力についての有力な仮説の一つは、山地から流出した流れが左右に移動し、山地斜面の基部を侵食することによりペディメントが拡大するとの見解である。この見解の弱点は、山地が縮小すると山地からの流れは小さくなり、やがてはなくなるので、ペディメント形成末期における山地の縮小・消滅が説明できないことである。もう一つの有力な仮説は、山地斜面は機械的風化作用で侵食されるが、この風化作用で生産された岩屑(がんせつ)が山麓に一時的に堆積しても、豪雨による面状流失で運び去られるため、山地斜面は勾配を変化させず後退するとの見解である。この見解に対する疑問は、山地斜面は面状に風化作用を受けて平行後退するのに、なぜエンベイメントが形成されるのか、ということである。
トゥワイデルC. R. Twidaleに代表されるオーストラリア学派の研究者は、ペディメントの形成過程は山地斜面の平行後退ではなく、ペディメントの部分の岩石がより速く風化され、風化物が豪雨により流失した結果であると主張している。この主張の背景には造山帯と安定陸塊の地質構造の相違がある。オーストラリア砂漠のペディメント地形の岩石は、山地の岩石が非常に硬く、侵食を受けにくい性質をもっており、ペディメントの部分の岩石の侵食のほうが速い。また、安定陸塊の地形は歴史が古いため、気候変化を何回も受けており、風化速度が速い湿潤気候の時代を経ている。これらの要因により、オーストラリア砂漠のペディメントは背後の山地斜面の勾配が同じ角度で後退するのではなく、低下的侵食により形成されたと推定される。フランスの研究者はこのような差別侵食により形成された山麓侵食緩斜面には、グラシ・ドゥエロージョンglacis d'érosionを使用している。
[赤木祥彦]