翻訳|creep
一般に物体に力(応力)を加えると,物体は変形し,力が一定に保たれれば変形量も一定となるのがふつうである。しかし一定の応力下でも,時間の経過とともに変形量が増加することがある。この現象をクリープという。クリープを起こす過程は三つの期間に区別して考えられる。最初一定の力をかけた瞬間に材料には弾性的な伸びが生じ,続いてわりに速い塑性変形が起こるが,塑性変形の速さはだんだん遅くなり,ついにほぼ一定の速さで変形が進むようになる。この変形速度がだんだん遅くなる領域を遷移クリープまたは第1次クリープと呼び,その次のほぼ一定速度で変形の進む領域を定常クリープまたは第2次クリープという。その後は変形速度が急に大きくなり,ついに破壊するが,この領域は加速クリープまたは第3次クリープと呼ばれている。クリープは一定温度では,応力が大きいほど速く起こる。一定応力では温度の高いほど速く生じ,逆に温度が低いほど遅く,ある温度以下では事実上ほとんど起こらない。
構造物や機械などを構成する材料でクリープが問題になるのは高温で使用する場合である。クリープを起こす最低温度は材料の種類によって異なるが,例えば純金属の場合は,絶対温度で表した融点の1/3付近がこれに相当し,鉄では約700K(330℃),銅では約450K(180℃)である。クリープを起こさない温度以下で材料を使用する場合には,引張強さや降伏強さによって設計を行えばよいが,この温度以上で使用する場合はクリープに対する強さも考慮しなければならない。
クリープに対する強さを表すには,一般にクリープ強さとクリープ破断強さの二つが用いられる。前者のクリープ強さとは,与えられた温度で特定のクリープ速度を生ずるときの応力で,特定のクリープ速度としてはふつう1%/10万時間が用いられる。クリープ強さは蒸気タービンなどの動翼,ローターなどの設計に用いられる。一方,クリープ破断強さは,与えられた温度において,ある特定の時間で破断するときの応力で,特定の時間としては1000時間,10万時間などがよく用いられる。前者の1000時間クリープ破断強さは,ジェットエンジンなどの動翼の評価に,後者の10万時間クリープ破断強さはボイラー用鋼管などの設計に使用されている。
材料のクリープ発生を防止するために種々の方法がとられているが,例えば鋼の場合はモリブデン,タングステン,バナジウムなどの合金元素を添加し,これらが素地に固溶したり,炭素と結びついて炭化物を作ることによってクリープ変形を阻止する。
執筆者:藤田 利夫
地質構造は,岩石や地層が長期間にわたって変形を受けた結果形成されるものが多く,岩石などの2次クリープは地質構造形成の基礎的機構の一つと考えられる。また2次クリープの実体は,ひずみ速度一定の流動であるから,種々な温度・圧力条件の下で岩石の2次クリープを実験的に発生させて粘性率に相当する値を測定し,これによって固体流動に基づく地質構造の形成機構を定量的に研究することができる。
執筆者:植村 武
斜面上の岩屑(がんせつ)や土壌は重力の影響を受けて斜面下方へゆっくりと移動する。この過程をソイルクリープsoil creep,あるいは単にクリープと呼び,匍行(ほこう)の訳語がある。温度や含水量の変化,凍結融解の反復などによる堆積物表層部の体積変化によって生ずると考えられており,一般に傾斜が急なほど,細粒物質を多く含むものほど,動きが速い。クリープの速度は,地表でもっとも大きく年1mm弱から数cm程度であるが,深さとともに急激に減少する。目で追える速さではないが,斜面上の木の根曲り,杭や電柱など人工構築物の傾き,斜面の切取面に見られる層のゆがみなどから,慢性的な動きのあることが知られる。ソリフラクションなど他の緩慢なマス・ウェースティングと区別のつけにくいことがある。
なお,斜面では,岩石が斜面下方方向へ変形したり表層部分の固結した地層が斜面下方へ移動する塑性変形現象も見られるが,これらも含めソイルクリープと呼ぶ。
執筆者:小疇 尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一定応力のもとで時間の経過とともに現れる塑性変形をいう.一般には高温で使用する材料で問題になるが,温度は対象とする温度(T K)と融点(Tm K)との比(比温度,homologous temperature)によって表すべきであるので,融点の低い材料では室温でも,この性質が重要になる.0.3~0.4Tm 以上の温度で問題になり,0.5Tm ではクリープははげしく起こる.高温で使用する耐久限度よりクリープ破断応力のほうが低くなるので,高温で使用する材料はクリープ性質によって設計をしなければならない.クリープひずみと時間の関係は図に示すように3段階で生じる.第一と第三段階は短時間(数十時間以内)の現象であり,第二段階はきわめて長時間にわたるので,この段階のひずみ速度(定常クリープ速度,または最小クリープ速度,steady state creep rate, minimum creep rate)をもって設計の基準にすることがある.また,途中の変形は測定しないで,破壊するまでの実験によって考慮する方法があり,現在はこのほうが多く行われる.クリープ破断時間を tr(rupture time),温度をTとし,アレニウス型の整理を行った場合,負荷応力σを縦軸に,T(log tr + c)を横軸にとった線図をつくると,応力,温度および破断時間の相違した多くの実験データを,1本の曲線で表すことができることがわかっている.ここで,cは材料と,厳密には温度と応力によって決まる定数であるが,一定値として取り扱う.この曲線をマスター曲線という.横軸にとるパラメーターにはいろいろの形式の提案があり,上述のものはLarson-Millerのパラメーターといっている.クリープは,部品の寿命全体にわたって存在する性質であるので,機器の寿命程度の長時間(一つの基準は 105 h)の破断強さ,クリープ変形量を推定する必要があり,多くは 104 h 程度の実験から 105 h におけるものを推定している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
一定の大きさの力が加わっているとき、時間の経過とともに材料の変形が増大していく現象。たとえば、ゴム紐(ひも)におもりを結び付けてつり下げると、ゴムは瞬間的に伸びるが、そのまま放置しておくと、時間がたつにしたがってゴムは徐々に伸びていく。このような現象はプラスチックなどで顕著に現れるが、鉄鋼、銅などの金属材料、またコンクリートなどでもおこる。金属材料などでは常温ではほとんど感知できないが、高温、高荷重の場合には無視できない。金属などが高温で荷重を受けるときには、最初のうち、ひずみは時間とともに急速に大きくなり、次の段階でひずみの時間的変化はほぼ一定となり、最後にひずみが急速に進み、ついに破断する。最初の部分を第1期クリープ、次の段階を第2期クリープ、最後のところを第3期クリープという。ロケットエンジンのように高温のもとで運転されるものについては、設計段階でクリープを考慮する必要がある。
[中山秀太郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…この場合,切欠きのある試験片に落下する振子で衝撃曲げを加え,材料が吸収するエネルギーを測定し,これを断面積で除して衝撃値とする。クリープ試験creep test高温の材料にある限度以上の荷重が加わると,長時間の間にひずみが徐々に増大する。この現象はクリープと呼ばれ,高温で用いられる機械では重大な障害となることがある。…
※「クリープ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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