第四紀更新世のいわゆる氷河時代には,両極のみならず中緯度の平野・丘陵部も広く大陸氷河におおわれた気候の寒冷期があり,そのような時期を氷期という。氷期は現在の気候と同等の温暖気候の時期である間氷期interglacial stageと交代をくり返している。氷期はさらに,現在にくらべれば気温は低く,植生の回復も現在ほどではないにしても温暖化した時期の亜間氷期によって亜氷期に区分される。
第四紀の氷期はドイツのA.ペンクとE.ブリュックナーの研究(1901-09)により,次のようになっている。アルプス北ろくの河谷にある,いずれも融氷水堆積物である低位,ならびに高位の段丘礫層と,それらよりも高位置にある新・旧のシート状礫層を,上流へ追跡するとそれぞれ別の終堆石に移行している。このことから,低位から高位への4層の礫層をもたらした別々の氷河作用が識別され,それぞれの氷河作用の模式地の,低い新しいものから,高い古いものへの河谷名である,ウルム,リス,ミンデル,ギュンツを氷期名として採用し,氷期を区分した。それぞれの氷期における氷河の前進のあいだには段丘の形成があり,その形成期は間氷期にあたる。ペンクとブリュックナーの研究のあと,ギュンツ氷期に先行するドナウ氷期,ビーバー氷期が加えられ,各氷期はそれぞれ2~3の亜氷期に区分された。
最終(ウルム)氷期の極相(最後の亜氷期)以後の氷床後退期(約1万年から1万数千年前まで)を晩氷期とし,それ以降の現在までを後氷期postglacial ageとして区分している。後氷期はスカンジナビア氷床がスウェーデンのラグンダ湖付近で2分裂した時期などを,そのはじまりの基準にしている。後氷期には約6000年前に,現在よりも平均気温が2~5℃高いクライマティック・オプティマムclimatic optimum(気候最適期)といわれる世界的な高温期があり,それをはさんで前後3000年にわたる後氷期高温期(ヒプシサーマルhypsithermal)がある。この時期は,日本でも縄文海進として知られる世界的な大海進期にあたっている。
氷期,間氷期の気候区分には,最近では絶対年代を推定できる古地磁気編年法と併用し,広く対比がおこなえる次のような方法が用いられている。一つは,深海底コア中の浮遊性有孔虫化石の暖海種の消長という従来の古生物学的方法に加え,有孔虫殻の酸素同位体(18O/16O)法による過去の水温の変化を知る方法である。ほかには陸地表面の10%をおおう風成の細粒石英質堆積物のレスによる方法がある。レスは氷期の氷河作用によるものであり,間氷期,亜間氷期にはその堆積が中止して表面が風化し,土壌化がすすむ。したがってレス帯が氷期,古土壌帯が間氷期を示すものとして,氷期・間氷期サイクルをたどることができる。日本の関東ローム層の堆積もレスと同じく氷期に対比され,レスと同じように時代が古いほど,したがって高い段丘ほどローム層が累重している。
→氷河時代
執筆者:新堀 友行
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氷河時代において中緯度地域まで氷床や氷河が大規模に進出拡大して存在した時期。反対に氷河があまり発達しなかった時期を間氷期という。氷期はつねに寒冷な気候の継続ではなく、そのなかにあっても氷河の後退縮小した温暖な時期が2~3回あり、これを亜間氷期といい、一方、亜間氷期と亜間氷期の間で氷河がふたたび前進拡大する寒冷な時期を亜氷期という。氷期は地球規模の気候変動で、その周期は10万年とされる。氷河の前進と後退の時期は高緯度と低緯度地域とではずれ、高緯度地域ほど氷期が長期間となる。したがって一つの氷期の年代は地域により異なり、その絶対年代を厳密に決めることは困難である。第四紀の氷期については、古くからアルプス周辺、旧ソ連地域、北アメリカなどで氷河性堆積(たいせき)物(氷堆石、氷縞(ひょうこう)粘土など)から氷河の消長が研究されてきた。アルプス北方では5回の氷期が認められ、古いほうからドナウ氷期、ギュンツ氷期、ミンデル氷期、リス氷期、ビュルム氷期とよばれて、長く第四紀氷河時代の区分の標準とされてきた。しかし、最近の深海底堆積物の研究によると、この100万年の間に10回の寒冷期(氷期)のあったことがわかってきた。
[松島義章]
(斎藤靖二 神奈川県立生命の星・地球博物館館長 / 2007年)
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氷河時代のなかで氷河や氷床が拡大して中緯度にまで達した寒冷な時期。第四紀更新世の氷期には,ヨーロッパでは北緯50度,北アメリカでは北緯40度付近まで氷床におおわれた。氷床の成長にともなって,海水面は現在より100m以上低下した。そのため日本海には対馬暖流が流入しなくなり,宗谷海峡は陸橋となった。北海道にはツンドラ的な環境も出現し,永久凍土も形成され,北方からマンモスなどが移動してきた。
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…それはドナウ川沿いの河川名をとり,ビーバー,ドナウ,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルム氷期と古い方から順に,その頭文字がアルファベット順に工夫されている氷期名である。それぞれの氷期glacial stageの間に間氷期interglacial stageがおかれたが,氷期の融氷水礫層が間氷期には風化されることにより,風化の程度から間氷期の時間の相対的な長さが考えられた。スカンジナビア氷床があった北ヨーロッパでも同じように河川名を採用し,古い方からエルスター,ザーレ,ワイクセル氷期とし,その間に海成層で特徴づけられる間氷期を,海成層の分布域のホルスタイン,エームの名で区分した。…
… 更新世の氷河作用の研究では,多氷河作用が認められたヨーロッパ・アルプスで氷河時代の編年の先鞭がつけられた。それはドナウ川沿いの河川名をとり,ビーバー,ドナウ,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルム氷期と古い方から順に,その頭文字がアルファベット順に工夫されている氷期名である。それぞれの氷期glacial stageの間に間氷期interglacial stageがおかれたが,氷期の融氷水礫層が間氷期には風化されることにより,風化の程度から間氷期の時間の相対的な長さが考えられた。…
※「氷期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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