台風や津波で地域が浸水したときに、住民が避難するためにつくられた、人工高台の通称。静岡県袋井(ふくろい)市湊(みなと)地区の遠州灘(えんしゅうなだ)から約1キロメートル内陸には、江戸時代の1680年(延宝8)に起きた津波の被害を教訓としてつくられた二つの人工高台、中新田命山(高さ5メートル)と大野命山(高さ3.7メートル)が残っている。当時、この地域は入り江が深く入り込んだ地形であったため、台風の通過と高潮が重なると、多数の死者が出ていた。そこで住民は土を盛り、4~5メートルの高さの人工の山を築き、山頂に小舟を用意しておいた。その後、高潮に襲われたときに、実際に村人が避難したという記録が残っており、地元では命山という名が語り継がれてきた。
南海トラフ巨大地震で想定される最悪のケースでは、袋井市には最大で高さ10メートルの津波、湊地区は1メートルの浸水が予測されている。そのため、市は減災計画に古人の教えを取り入れ、6400平方メートルの敷地に海抜10メートルで800平方メートル、約1300人が避難できる人工の高台、通称「平成の命山」を新たに造成した。市ではこのほかに二つの命山を造成する計画があり、完成した高台には木を植えてトイレなどを設け、普段は公園として利用する。また、静岡県は同様の減災計画に対して補助金を交付しており、複数の市町村で計画や造成が進んでいる。
沿岸部でつくられている避難タワーに比べ、命山は維持にかかる費用が少なく、耐用年数がないという利点がある。この試みには、地震による津波の避難対策に取り組む他府県の自治体からも高い関心が寄せられている。
[編集部]
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