狂言の曲名。大蔵,和泉両流にあるが,大蔵流では脇狂言,和泉流では《唐人相撲》と称し雑狂言に分類する。中国に滞在していた日本の相撲取りが皇帝に,帰国を許してくれるよう願い出る。皇帝はなごりにもう一番相撲を見たいという。さっそく用意した日本人は,通辞の行司で,かかってくる唐人たちをみな負かしてしまう。最後に皇帝みずから相手をすることになり,楽(がく)の囃子に合わせて動きながら,手を通す穴のあいた菰(こも)を身にまきつけ,相撲をとる。日本人が皇帝の小股をとって倒そうとすると,唐人たちは驚いて止めに入り,日本人を退出させ,皇帝を抱きかかえて帰って行く。
登場は日本人の相撲取り,通辞,皇帝,唐子(からこ),唐人大勢で,皇帝がシテ。日本人と通辞の役以外は唐音(とうおん)(中国語風に発音をまねた言葉)を使う。唐人たちがつぎつぎと日本人に立ち向かう相撲の型と,皇帝の舞う楽が興味の中心。20人以上の人物が登場し,狂言現行曲中もっとも多人数を要する曲。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。『唐相撲』は大蔵流の曲名で脇(わき)狂言。和泉(いずみ)流では『唐人(とうじん)相撲』といい雑狂言。中国滞在中の日本の相撲取りが、供揃(ともぞろ)えもにぎやかに登場した皇帝(シテ)にいとまを願う。許した皇帝は名残(なごり)にもういちど相撲が見たいと望む。日本人が次々と立ち向かう供の者をみな負かしてしまう。すると皇帝は、自身相手になろうと、大げさな態度で装束を脱ぎ日本人に対するが、卑しい者が玉体に触ると怒り、手を通す穴のあいた菰(こも)を身体に巻き付けてから取り組む。しかし、皇帝が負けそうになると、一同は急いで日本人を退出させ、皇帝を手車に乗せて引き上げて行く。日本人と通辞(つうじ)(通訳)以外は唐音(とうおん)(狂言独特の珍妙な中国語)を使う。20人以上が登場、狂言中もっとも多人数の曲。日本人と供の者との相撲は多分にそのときの趣向でユーモラスなまたアクロバット的な演技をみせる。
[小林 責]
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