脇狂言
わききょうげん
(1)能狂言の曲目の分類上の一名称。番組を編成するにあたって、最初に配される約束の狂言群。能の「脇能(わきのう)」に対応する名称。原則として夷(えびす)・大黒(だいこく)など福の神をシテとするが、かならずしもそれにとらわれず、長者と太郎冠者(かじゃ)によって展開する曲、百姓の年貢上納を描いた曲など、内容がめでたく、さわやかな曲がここに分類されている。『夷大黒』『福の神』『餅酒(もちざけ)』『財宝』『末広がり』など、ほぼ30番の現行曲がある。
(2)江戸時代の歌舞伎(かぶき)興行において、式三番叟(しきさんばそう)に続き、本狂言の前に演じられた、ごく単純な内容の離れ狂言で、祝言的・儀礼的性格の芸能である。三番叟に対する「ワキ」の位置にあるための称で、能狂言のそれに倣って命名したものであろう。初期歌舞伎の離れ狂言時代に、三番叟に続く初番の狂言として演じたものを習慣として伝承したと思われる。江戸では、それぞれの座によって特定の脇狂言をもっていた。中村座の『酒呑童子(しゅてんどうじ)』『ほうろく聟(むこ)』、市村座の『七福神』『竹生島(ちくぶしま)』、森田座の『長者開き』などである。一方、上方(かみがた)では前(まえ)狂言ともよび、『花盗人(はなぬすびと)』『ほうろく割』『地蔵祭』などの曲名が伝わっている。まるで壬生(みぶ)狂言のような素朴な無言劇だったらしい。
[服部幸雄]
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脇狂言
わききょうげん
狂言の番組編成のうえでの分類の一つ。能の脇能に準じるもので,正式の演能のとき,最初に出される狂言をいい,めでたい曲に決められている。『夷大黒』『福の神』など福神の登場するもの,『末広がり』『張蛸』など,果報者と太郎冠者によって展開されるもの,『佐渡狐』『餅酒』など百姓の年貢上納を扱ったもの,『鍋八撥 (なべやっぱち) 』『牛馬』など商人の新市での争いを扱ったものなどが代表的なものである。内容は多様にわたるが,いずれも祝言の意をもっていて,争いも必ず和解に終り,めでたくさわやかに演じられる。番数は約 30番。扱いにより準脇狂言の分類もある。
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わき‐きょうげん ‥キャウゲン【脇狂言】
〘名〙
① 正式な五
番立の演能で、脇能の次に上演される狂言。原則としては神をシテとするが、めでたい内容をもつ曲も含まれる。「夷大黒」「福の神」「餠酒」「末広がり」「財宝」など。
※虎明本狂言・夷
毘沙門(室町末‐近世初)「御前にては、何もわき狂言は、つくばひて名乗」
② 初期の歌舞伎で、三番叟の次に演ずる狂言。後には、
顔見世や正月元日などに儀礼的に演じられた。江戸三座では各座別に特有の狂言があり、寿狂言と称した。
前狂言。
※浮世草子・嵐無常物語(1688)上「脇
(ワキ)きゃうげんに出るすがり若
衆も」
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デジタル大辞泉
「脇狂言」の意味・読み・例文・類語
わき‐きょうげん〔‐キヤウゲン〕【脇狂言】
1 正式な五番立ての演能で、脇能の次に上演される狂言。めでたい内容の曲が多い。
2 江戸時代の歌舞伎で、1日の興行の最初に行う三番叟に次いで演じられた狂言。祝言性の濃い儀礼的なもの。前狂言。
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わききょうげん【脇狂言】
(1)狂言の分類名。能の脇能に準じた名称で初番目に演じられる狂言。能組みでは脇能の次,修羅物(二番目物)の前に据えられる。祝言を曲趣とし,めでたさを本旨とする。流儀により多少の差異はあるが,シテが大果報の者である〈果報物〉に《末広がり》《麻生(あそう)》《三本柱(さんぼんのはしら)》など,シテが太郎冠者である〈太郎冠者物〉に《宝の槌》《隠笠(かくれがさ)》《鎧(よろい)》など,シテが神仏である〈神物〉に《福の神》《毘沙門》《夷大黒(えびすだいこく)》など,シテが百姓である〈百姓物〉に《三人夫》《雁鴈金(がんかりがね)》《昆布柿》などがある。
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世界大百科事典内の脇狂言の言及
【餅酒】より
…狂言の曲名。脇狂言・百姓物。大蔵,和泉両流にある。…
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