インドの仏教学者、世親(せしん)(バスバンドゥ、400―480ころ)の著作。唯識学派の立場から書かれた代表的な認識論書。22の詩節と散文の自注よりなる。この世界に属するすべてのものはわれわれの認識の表象にほかならない、という唯識思想を論証している。われわれの目覚めたときの認識が夢のなかの認識と同一のものであり、外界の対象なくしてもすべての認識は成立しうること、外界の実体と考えられている全体性(サンスクリット語でアバヤビンavayavin)や原子が実在しえないことを精密な理論をもって論証している。サンスクリット本も現存、チベット訳・漢訳もある。
[梶山雄一]
『梶山雄一訳『唯識二十論』(『大乗仏典15』所収・1976・中央公論社)』
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