固体電解質電池(読み)こたいでんかいしつでんち(英語表記)solid electrolyte battery

日本大百科全書(ニッポニカ) 「固体電解質電池」の意味・わかりやすい解説

固体電解質電池
こたいでんかいしつでんち
solid electrolyte battery
solid electrolyte cell
solid state electrolyte battery

電解質に固体状のイオン導電性材料を用いた電池。電池に使用する無機固体イオン導電性材料のなかでは、電子導電性を示さない固体酸化物イオン導電性電解質と固体プロトン導電性電解質が固体酸化物形燃料電池に、そして固体ナトリウムイオン導電性電解質がナトリウムを負極に用いる蓄電池のナトリウム硫黄(いおう)電池、ナトリウム塩化ニッケル電池などに用いられている。また、固体プロトン導電性高分子電解質が固体高分子形燃料電池に使用されている。さらに、リチウムイオン導電性を示す固体の無機および高分子電解質がリチウム一次電池とリチウム二次電池(蓄電池)に用いられており、銀イオン導電性無機固体電解質が銀ヨウ素電池に利用されている。これらの固体電解質を用いることにより全固体形電池を構成することができる。

[浅野 満]

一次電池


 リチウムイオン導電性の無機固体電解質を用いたヨウ素リチウム一次電池が1974年にアメリカのキャタリスト・リサーチにより開発された。負極にリチウムLi金属、正極にヨウ素I2と高分子化合物のポリ(2‐ビニルピリジン)との電荷移動錯体であるポリ(2‐ビニルピリジン)nI2を用いたもので、負極と正極との反応生成物のヨウ化リチウム(LiI)が無機固体リチウムイオン導電性電解質として機能している。LiIの室温におけるLi+イオン導電率は10-7S/cmと低いが、全固体形であり、長期安定性、信頼性が高く、低率放電でよい人工心臓のペースメーカーなどの生体埋め込み医療機器用電源に用いられている。

[浅野 満]

二次電池

リチウム二次電池

有機電解液を用いるリチウム二次電池における液漏れや発熱、発火、変形などを防止するため、固体リチウムイオン導電性電解質が用いられている。それらには擬固体状のゲル高分子電解質や固体高分子電解質、ガラス状電解質などがあり、全固体形のリチウム二次電池の製作に用いられている。

[浅野 満]

ゲル高分子電解質を用いるリチウムイオン二次電池

ゲル高分子電解質は高分子材料とリチウム電解質塩との錯体に可塑剤として有機溶媒を添加したものである。高分子材料にはポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリルPAN)、PVdF‐ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)共重合体などが用いられ、リチウム電解質塩には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)やトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)などが、そして可塑剤にはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)またはエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒などが用いられている。Li+イオン導電率は室温で約10-3S/cmであって、有機電解液の5×10-3S/cmに近い。

 正負両活物質には通常のリチウムイオン二次電池に用いられているものと同じものを使用できるので、同等の電池特性が得られている。たとえば黒鉛負極|ゲル高分子電解質|コバルト酸リチウムLiCoO2正極構成のものでは、3.6~3.7ボルトの放電電圧が得られ、ノートパソコンや携帯電話などに利用されている。

[浅野 満]

固体高分子電解質を用いるリチウム二次電池

ゲル高分子電解質と異なり、高分子材料とリチウム電解質塩との錯体である真性の固体高分子電解質を用いるリチウム二次電池である。可塑剤の有機溶媒を含んでいないため、室温では十分なLi+イオン導電率が得られないので、60℃以上の温度で作動させる必要がある。

 1998年(平成10)横浜国立大学工学部では、ポリエチレンオキシド(PEO)とオリゴエーテル側鎖のある2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルグリシディルエーテル(MEEGE)との共重合体を電解質塩のイミドリチウムLiN(CF3SO2)2で錯体化した固体高分子電解質が80℃で1.4×10-3S/cmのLi+イオン導電率を示すことを明らかにしている。そしてこの電解質とリチウム金属負極および酸化バナジウムVOx正極を用いてリチウム二次電池を作製し、60℃で放電電圧2.5~2.3ボルト、出力密度400W/kg以上、エネルギー密度300Wh/kg以上を得ている。また、ローマ大学では1995年以降、PEOとリチウム電解質塩からなる固体高分子電解質をナノセラミックス粒子で複合化することにより、Li+イオンの輸送特性を改善し、リチウム金属負極との界面に生成する不動態膜の生成を防止して、全固体形リチウム二次電池の高出力化とサイクル特性の向上を図り、電気自動車用電源への応用を進めている。2001年にはPEO-LiCF3SO3マトリックスにナノAl2O3粒子を添加した固体高分子電解質薄膜を用い、Li金属負極とLiFePO4正極で挟んだ構造のリチウム二次電池を作製し、3.5ボルトのきわめて平坦(へいたん)な放電電圧と250回以上の優れたサイクル特性、さらにエネルギー密度として従来値より大きい477Wh/kgを得ている。

[浅野 満]

薄膜形固体リチウム二次電池

1993年アメリカのオークリッジ国立研究所とケンタッキー大学で固体電解質とセパレーターを兼ねてリチウムリンオキシ窒化物(LixPO4-yNy)を用い、リチウムバナジウム酸化物(LixV2O5)正極、固体電解質、リチウム金属負極の各薄膜を順次析出させて作製した、厚さ数マイクロメートル(μm)の薄膜形固体リチウム二次電池が開発された。また2001年東京都立大学(現首都大学東京)大学院工学研究科ではLi4/3Ti5/3O4負極|Li0.35La0.55TiO3固体電解質|LiCoO2(またはLiNiO2)正極構成の薄膜形を研究している。

 なお、室温におけるヨウ化リチウムLiI固体電解質のLi+イオン導電率を高めるため、LiIを含むガラス状の薄膜電解質(導電率は約10-4S/cm)が研究されている。そして1988年にはアメリカのエバレディーバッテリー社でLi金属負極|0.455LiI・0.341Li2S・0.023Li2O・0.182P2O5ガラス状電解質|TiS2正極構成のものを開発した。

[浅野 満]

ナトリウム硫黄電池

ナトリウム硫黄電池は1967年にフォード社によって発表されたもので、負極活物質には金属ナトリウム、正極活物質には硫黄、ナトリウムイオン導電性の固体電解質にはβ(ベータ)またはβ"‐アルミナを用いた高温作動形の蓄電池で、固体電解質がセパレーターを兼ねている。NAS電池ともよばれる。ここでβ‐アルミナの化学組成はNa1+xAl11O17+2/x(0.15<x<0.3)で示され、六方晶である。300℃におけるNa+イオン導電率は約5.0×10-2S/cmである。またNa2O成分が多いβ"‐アルミナはNa2O・5~7Al2O3であって、300℃における導電率は約2.4×10-1S/cmで、β‐アルミナよりも高いため、現在では主としてβ"形が用いられている。

 このナトリウム硫黄電池の作動温度は300~350℃であり、両極活物質は溶融状態にある。放電反応は
 (負極)
  Na―→Na++e-
 (正極)
  xS+2Na++2e-―→Na2Sx
 (全体)
  2Na+xS―→Na2Sx
で、充電反応はこの逆である。多硫化ナトリウム(Na2Sx)にはいくつかの化合物があるが、Na2S5までの放電では硫黄との二相共存領域であり、起電力は2.08ボルトである。Na2S3までの放電の理論エネルギー密度は760Wh/kgで、鉛蓄電池ニッケル水素蓄電池に比べて際だって大きい。

 ナトリウム硫黄電池は両極活物質が大気中で容易に酸化するため密閉構造とする。また放電が発熱反応であるので温度管理が必要である。しかし自己放電が少なく、充放電時に副反応がないため充放電効率がよく、濃度分極が小さいので負荷率による容量変化が少ないこと、長寿命で保守、取扱いが容易なこと、環境問題が少なく、原料資源が豊富なことなどの特徴がある。そこでわが国では工業技術院(現産業技術総合研究所)の大型プロジェクト(1971~76年度)により電気自動車用電池の開発が行われ、1977年にはナトリウム硫黄電池を搭載した電気自動車の実車走行テストが行われたが、1995年ごろ開発は中断された。一方、ムーンライト計画(1978年発足)により1メガワット級の負荷平準化用電力貯蔵システムの研究開発が行われ、98年には6メガワット級のシステムが設置されて、実用に近い段階になっている。

[浅野 満]

ナトリウム塩化ニッケル電池

ナトリウム塩化ニッケル電池は、負極活物質に金属ナトリウム、正極活物質に塩化ニッケルNiCl2、ナトリウムイオン導電性固体電解質にβ"‐アルミナを用い、さらにβ"‐アルミナ固体電解質からNa+イオンをスムーズにNiCl2固体正極へ移行させるためにナトリウムテトラクロロアルミニウムNaAlCl4溶融電解質(融点157℃)を用いた、Na|β"‐Al2O3(Na2O)‖NaAlCl4|NiCl2構成の270~350℃で作動される高温形蓄電池である。

 1990年代に南アフリカ共和国系のアングロ・アメリカン社で研究され、その後電気自動車用の電源としてイギリスのハーウェル社やベータリサーチ・アンド・デベロップメント社により研究が続けられた。その後、ドイツのダイムラー・クライスラー・グループがアングロ・アメリカン社と設立したジョイントベンチャーのAEGアングロバッテリーズ社によって、市販に向けた開発が行われている。ゼブラ電池ともよばれる。放電反応は
  2Na+NiCl2―→2NaCl+Ni
で、起電力は2.59ボルトと高い。また出力密度は150W/kg、エネルギー密度は90Wh/kgである。腐食が少ないため寿命が長く、1500回以上の充放電サイクルが可能で、信頼性が高い。そしてこの蓄電池を搭載した電気自動車の走行テスト距離は2×106km以上に達する。万一衝突事故を起こしたとしても、搭乗者や通行人にはこの蓄電池が原因となる重大な障害を与えることはないといわれる。当面の課題は容量の増加と製造コストのいっそうの削減である。

[浅野 満]

銀ヨウ素電池

ヨウ化銀AgIをベースとするAg+イオン導電性固体電解質の導電率を高めるため、I-イオンの一部をWO42-、VO3-、S2-などのアニオン(陰イオン)で置換したり、またAg+イオンの一部をルビジウムRb+、NH4+、第4級アンモニウムイオンなどで置き換える方法が研究されている。そしてRbAg4I5固体電解質では室温で2.7×10-1S/cmのAg+イオン導電率が得られている。1983年にはアメリカのメトドロニクス社でAg|RbAg4I5|I2固体銀ヨウ素電池が開発された。放電電圧は約0.5ボルトである。

 AgIを含むAg+イオン導電性固体電解質にはガラス状のAgI-Ag2O-P2O5、AgI-Ag2O-B2O3、AgI-Ag2O-MnO2系などが研究されているが、RbAg4I5より大きいAg+イオン導電率を与える固体電解質は知られていない。

[浅野 満]

燃料電池

固体酸化物形燃料電池

高温の酸化還元雰囲気中で安定で、純粋に酸化物イオン導電性を示す無機固体電解質としてイットリアY2O3を添加した立方晶ジルコニアZrO2の0.1~0.08Y2O3・0.9~0.92ZrO2(YSZ)が有名で、1000℃で約0.1S/cmの酸化物イオン導電率を示す。このYSZは固体酸化物形燃料電池に広く用いられている。そして負極にはニッケル‐YSZサーメットが、正極にはストロンチウムドープのランタンマンガン酸化物Li1-xSrxMnO3(x=0.1~0.2)が、インタコネクタにはアルカリ土類金属ドープのランタンクロム酸化物のLa0.9Sr0.1CrO3やLaCr0.9Mg0.1O3などのような緻密(ちみつ)な焼結体などが用いられている。全固体形で液体電解質のような蒸発や漏液がなく、800~1000℃で作動されている。

 ジルコニア系の酸化物イオン導電性電解質ではZr4+とほぼ同じイオン半径のSc3+を添加した(ZrO2)1-x(Sc2O3)x系がもっとも導電率が高く、x=0.11では1000℃で0.3S/cmを示す。ジルコニア系以外では希土類ドープセリア、希土類ドープ酸化ビスマス、ランタンガドリニウム酸化物、バリウムインジウム酸化物、ランタンモリブデン酸化物などが研究されている。

 固体酸化物形燃料電池の運転コストを削減するため、作動温度を約1000℃から400~600℃に下げる努力が精力的になされている。1999年にアメリカのアルゴンヌ国立研究所ではガドリアドープセリアのGd00.2Ce00.8, O1.9(GDC)電解質薄膜とNi‐GDCサーメット負極および同研究所で開発した正極とを用いて、H2/空気を使用し、500℃で作動させて140mW/cm2の最大出力密度を得ている。また2000年にアメリカのジョージア工科大学ではサマリアドープセリアのSm0.2Ce0.8O1.9(SDC)電解質とNi‐SDCサーメット負極およびSm0.5Sr0.5CoO3‐SDC複合材料正極を組み合わせ、3%湿潤H2/空気を用いて450℃で128mW/cm2の出力密度を得ている。メタンを用いても500℃で78mW/cm2が得られるとしている。さらに同年、産業技術総合研究所中部センターと名古屋大学大学院人間情報学研究科では電解質にSDCを、負極にはNi‐SDCサーメットを、正極にはSm0.5Sr0.5CoO3を使用した単室構造の固体酸化物形燃料電池を作製し、エタン/空気またはプロパン/空気混合ガスを導入して、出力密度として500℃で403mW/cm2、350℃でも101mW/cm2を得ている。

 また、高温の水素や水蒸気の存在下でプロトン導電性を示すペロブスカイト構造の酸化物がある。ストロンチウムセリウム酸化物やバリウムセリウム酸化物を母体とするもので、セリウムの一部を他の希土類で置換した、たとえばBaCe0.85Sm0.15O3-δは400~1000℃で10-3~10-2S/cmのプロトン導電率がある。これは固体酸化物形燃料電池に用いられており、700℃以上で使用できる。

 プロトン導電性のあるその他の固体酸化物には、K2TiO3、CaZrO3、SrZrO3、BaZrO3などを母体とするもの、Y2O3、Sr2(Ti0.9Zr0.1)0.97In0.03O4-δなどが知られている。また、金属酸化物水和物の酸化ジルコニウム水和物ZrO2・nH2Oや酸化スズ水和物SnO2・nH2Oなどは150℃の飽和水蒸気中で約10-2S/cmのプロトン導電率がある。

[浅野 満]

固体高分子形燃料電池

ペルフルオロアルキルスルホン酸系プロトン導電膜を固体電解質として用い、この両面にガス拡散電極を接合し、集電体を圧着した構造の固体高分子形燃料電池が作製されている。このプロトン導電膜の導電率は50℃で3.0×10-2S/cmであり、使用温度は100℃以下に限られる。

 改質ガスを燃料に用いる場合には、一酸化炭素による貴金属触媒の被毒を少なくするために、より高温での作動が好ましい。また負極にメタノールを直接導入する方式の直接メタノール燃料電池では、ペルフルオロアルキルスルホン酸系の電解質はメタノール透過率が高いため、その値の小さい電解質が求められている。これらの理由からより高温で使用でき、メタノール透過率の低い炭化水素系のプロトン導電性高分子電解質の研究が1998年(平成10)ごろから上智大学理工学部で進められている。それらには、ポリ(オキシ‐1, 4‐フェニレン‐オキシ‐1, 4‐フェニレン‐カーボニル‐1, 4‐フェニレン)や、ポリ(4‐フェノキシベンゾイル‐1, 4‐フェニレン)をスルホン化したもの、ポリベンズイミダゾールをスルホン化したもの、ポリベンズイミダゾールを強酸(リン酸、塩酸)で処理したもの、およびポリシラミン‐リン酸錯体などがある。ペルフルオロアルキルスルホン酸系のものと比べるとプロトン導電性や化学的機械的強度はやや劣るが、約200℃の高温で使用できる。

[浅野 満]

『日本電池株式会社編『最新実用二次電池 その選び方と使い方』(1999・日刊工業新聞社)』『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』『小久見善八・池田宏之助編著『はじめての二次電池技術』(2001・工業調査会)』

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