翻訳|pacemaker
スポーツ用語としてのペースメーカーは,陸上競技の中距離以上の競走や自転車競走などにおいて,先頭を走って,他の選手を引っぱり,他の選手にとって記録をつくる目安になる人をいうが,ここでは心臓ペースメーカーについて述べる。すなわち,心臓の動きには一定の調律(リズム)があり,この調律の異常のために生命あるいは日常生活に支障をきたす場合には電流で心筋を刺激して調律を整えてやる必要があるが,この電流による心筋刺激装置をペースメーカーという(なお正常のヒト心臓では洞房結節がペースメーカーとなって心臓の調律を支配しているので,この人工臓器の名称は厳密にいえば人工ペースメーカーである)。ペースメーカーは古くは1932年ハイマンHyman(アメリカ)によって試みられており,短期体外式心筋ペースメーカーは57年ワイリッチWeirich(アメリカ)によって,また長期体内植込み式ペースメーカーは60年チャーダックChardack(アメリカ)によって人体に使用され,以後はペースメーカー各部に改良が加えられて今日に至っている。現在は全世界で100万人以上の人々がペースメーカーを用いて生活していると考えられる。ペースメーカーを必要とする人は,心房と心室をつなぐ刺激伝導路が切れて,心室が独自の遅い調律で拍動している完全房室ブロック,心臓収縮のもとになる刺激の起点である洞房結節の機能不全例が多い。
ペースメーカーは電池と,電流を心臓に伝える電極からできている。電極には,心筋に直接固定する心筋電極と,末梢静脈からカテーテルといわれる細い索状の導線を挿入し,静脈の流れに沿って右心房あるいは右心室へ入れて固定するカテーテル電極がある。心筋電極は胸部を切開して心筋を露出したうえで縫いつけるもので,心臓手術時にしばしば用いられ,カテーテル電極は末梢静脈を局所麻酔で小さく切開するだけですむため,生体に与える影響は小さい。電極は心房,心室,あるいはその両方に固定することができる。体内式ペースメーカーの電池は胸壁あるいは腹壁の皮下に植え込まれ,かつては水銀電池が使用されたが今日ではリチウム電池が用いられ,大きさは小さなマッチ箱より小さく,その寿命は約10~12年であり,電池が消耗したときは容易に交換できる。
ペースメーカー本体の刺激様式にはさまざまの方式が用いられている。レート(刺激回数)固定型では,あらかじめ設定したレート(たとえば1分間70回)で心臓を刺激する。構造は簡単であるが,患者の心臓のリズムとペースメーカーの刺激が競合して危険な不整脈を誘発することがあるため,近年はディマンド型が多用されている。これは必要に応じて作動するもので,たとえばレートを1分間70回にセットしておくと,患者の心拍数が1分間70回以下に下がったときは不足分だけ刺激し,70回以上あれば刺激が出ず,競合をさけるように作られている。また心房同期型では,患者の心房刺激を感知し,それに応じて心室へ刺激を送るもので,生理的には最も優れたものであり,若い活動家に向いている。ただ構造が複雑なために故障が多く,心房細動,洞性徐脈の人などには使えない。心房-心室連動式ディマンド型は,心房と心室をある時間差をおいて刺激するもので,心房と心室の収縮が同期するため心拍出によい影響を与えることができる。ペースメーカーを適切に作動させるためには機械の条件を時と場合によっていろいろ変える必要があり(心拍数,心筋を刺激する電流の強さ等),今日では体内に植え込まれた電池に対して体外からの遠隔操作でそれらの条件を自由に変更できるmulti-programmableなものが汎用されている。
近年は,心室細動という事実上心停止に等しい不整脈(虚血性心疾患で起こりやすい)の見られる症例では,自動的に細動が除去される除細動機構付きペースメーカー(automatic implantable cardiac defibrillator)も使用されている。こうして今やペースメーカーとともに活動できる人が年々増加しているが,ペースメーカー自体人工的な精密な機械であり,また心臓の状態も時間の経過とともに変化するものであるから,ペースメーカーを使用中の人は定期的に専門医の検診を受け,不測の事態の発生を未然に防ぐことが必要である。
→刺激伝導系
執筆者:長谷川 嗣夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ペースメーカーは、電池・心拍の感知部品・電気刺激生成部品からなる本体と、心臓と本体を結びつける電線部分(リード)とから構成されます。徐脈が現れた時のみ心臓を刺激することによって心拍数を適正化し、高度徐脈による症状の出現を予防します。
適応(選択)
ペースメーカー植え込みの医学的適応決定に際しては、症状の強さおよび徐脈との因果関係を考慮します。
植え込みの適応については、2001年に日本循環器学会が作成したガイドラインのクラスⅠ‥「有益であるという根拠があり、一般に同意されている」を、引用します。
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このほかに、徐脈性
種類
心臓のどこを刺激するかによって、すなわちペーシング用リードを心臓のどこに入れるか(右心房、右心室、右心房と右心室、冠静脈洞)によってペースメーカーの種類が異なります。
また、ペースメーカーからの刺激が出始める設定最低心拍数を60/分などに固定するタイプや、人の活動を感知して、体の動きに応じて刺激心拍設定数が自動的に上昇するようなレート応答型のタイプもあります。
方法
X線装置が備わった手術室(あるいは心臓カテーテル検査室)において、鎖骨の下方にある静脈にリードを挿入します。先端部を右心房や右心室の壁に留置固定し、リードの他の端を本体に接続し、本体を胸壁の皮下に作成したポケット部に収めて終了です。
植え込み後
植え込んだ後は、6~12カ月の間隔で外来でペースメーカーの機能に不調がないか、電池の残量は十分かなどについてチェックします。電池の寿命が尽きかけたら入院のうえ、ペースメーカー本体のみ交換を行います。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
陸上競技の中・長距離競走やマラソン、競輪などの自転車競技で、スタートから先頭にたってレースをリードし、優れた記録が達成されるようにペースをつくる走者。ペースリーダー、ペースセッターともいう。ラビットという異称もあり、これはドッグレースで犬を勢いづけるために使うウサギの模型に由来している。ペースメーカーのリードによってレースが高い水準で競われ、好記録が出ることは、競技会の興行的な成功にもつながる。そのため、主催者側が特定の選手とペースメーカーとしての契約を交わし、特別の出場者として競技に参加させる場合が多い。参加したペースメーカーは、コースの2分の1から3分の2程度を先導して走った後、棄権することが一般的である。高い水準の選手が参加するレースでは、国際大会の上位入賞経験者などの高い能力をもつ選手がペースメーカーを担当しており、過去にはそのまま走りきって優勝するという珍事が起こったこともある。一方、公式な競技大会で正規に出場する選手が、個人のペース配分のために専属のペースメーカーを走らせることは、競技規則で禁じられている。日本陸上競技連盟競技規則第144条の「助力」の項には、同一レースに参加していない者によってペースを得ること、周回遅れか周回遅れになりそうな競技者がペースメーカーとして競技すること、あるいはあらゆる種類の技術的な装置によってペースを得ることは、参加選手に対する助力にあたるとして、このような行為の一切を禁じている。
海外のマラソン競技大会などでは、1980年代からペースメーカーが起用されるようになり、日本では2003(平成15)年の福岡国際マラソンが、ペースメーカーの参加が公表された国内初の競技大会であったとされる。その後、世界選手権やオリンピックではペースメーカーの採用は認められていないものの、主要な国際マラソン大会などでは、事前に公表したうえで見た目でわかるゼッケンなどを付けることを条件として、記録に挑戦する選手の協力者として参加を公認する見解が定着している。一方、ペースメーカーを前提に好記録重視で行われる大会運営に対する異議も少なくない。オリンピック以外では世界最古のマラソン大会であるボストンマラソン(1897年創始)では、ペースメーカーは一度も起用されていない。また、ニューヨークシティマラソンでは2007年の大会より、ペースメーカーの起用を中止した。
[編集部]
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(小森貞子 スポーツライター / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…この律動の規則性は,右心房内大静脈開口部に存在するわずか1.5mm×0.5mmの心筋細胞の塊(洞房結節または洞結節という)の反復興奮のリズムにより調律されている。このように洞房結節は心臓の収縮,弛緩のリズム全体を決定しているので,歩調とりまたはペースメーカーpacemakerといわれる。洞房結節の細胞群はイギリスのキースArthur Keith(1862‐1956)とフラックMartin Flack(1882‐1931)により1907年に発見されたもので(それでキース=フラック結節ともいう),他の心房,心室の壁を構成する心筋細胞より小さい。…
…治療としては,発作中には,胸部の叩打や人工呼吸をはじめとする心肺蘇生術を行う。不整脈の治療が必要で,心ブロックのある場合はペースメーカーの植えこみ,心室頻拍・細動には抗不整脈薬や植えこみ型除細動器の使用がおもな治療法となる。基礎疾患の重症度にもよるが,明らかな原因のない心ブロックなどでは,ペースメーカーによって予後は非常によくなる。…
…この律動の規則性は,右心房内大静脈開口部に存在するわずか1.5mm×0.5mmの心筋細胞の塊(洞房結節または洞結節という)の反復興奮のリズムにより調律されている。このように洞房結節は心臓の収縮,弛緩のリズム全体を決定しているので,歩調とりまたはペースメーカーpacemakerといわれる。洞房結節の細胞群はイギリスのキースArthur Keith(1862‐1956)とフラックMartin Flack(1882‐1931)により1907年に発見されたもので(それでキース=フラック結節ともいう),他の心房,心室の壁を構成する心筋細胞より小さい。…
※「ペースメーカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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