ペースメーカー(読み)ぺーすめーかー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペースメーカー」の意味・わかりやすい解説

ペースメーカー(スポーツ)
ぺーすめーかー
pacemaker

陸上競技の中・長距離競走マラソン競輪などの自転車競技で、スタートから先頭にたってレースをリードし、優れた記録が達成されるようにペースをつくる走者。ペースリーダー、ペースセッターともいう。ラビットという異称もあり、これはドッグレースで犬を勢いづけるために使うウサギ模型に由来している。ペースメーカーのリードによってレースが高い水準で競われ、好記録が出ることは、競技会の興行的な成功にもつながる。そのため、主催者側が特定の選手とペースメーカーとしての契約を交わし、特別の出場者として競技に参加させる場合が多い。参加したペースメーカーは、コースの2分の1から3分の2程度を先導して走った後、棄権することが一般的である。高い水準の選手が参加するレースでは、国際大会の上位入賞経験者などの高い能力をもつ選手がペースメーカーを担当しており、過去にはそのまま走りきって優勝するという珍事が起こったこともある。一方、公式な競技大会で正規に出場する選手が、個人のペース配分のために専属のペースメーカーを走らせることは、競技規則で禁じられている。日本陸上競技連盟競技規則第144条の「助力」の項には、同一レースに参加していない者によってペースを得ること、周回遅れか周回遅れになりそうな競技者がペースメーカーとして競技すること、あるいはあらゆる種類の技術的な装置によってペースを得ることは、参加選手に対する助力にあたるとして、このような行為の一切を禁じている。

 海外のマラソン競技大会などでは、1980年代からペースメーカーが起用されるようになり、日本では2003(平成15)年の福岡国際マラソンが、ペースメーカーの参加が公表された国内初の競技大会であったとされる。その後、世界選手権やオリンピックではペースメーカーの採用は認められていないものの、主要な国際マラソン大会などでは、事前に公表したうえで見た目でわかるゼッケンなどを付けることを条件として、記録に挑戦する選手の協力者として参加を公認する見解が定着している。一方、ペースメーカーを前提に好記録重視で行われる大会運営に対する異議も少なくない。オリンピック以外では世界最古のマラソン大会であるボストンマラソン(1897年創始)では、ペースメーカーは一度も起用されていない。また、ニューヨークシティマラソンでは2007年の大会より、ペースメーカーの起用を中止した。

[編集部]


ペースメーカー(医療)
ぺーすめーかー

心臓ペースメーカー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペースメーカー」の意味・わかりやすい解説

ペースメーカー
pacemaker

心臓の拍動の頻度を調節する歩調とり (ペースメーカー) は右心房の洞房結節にあり,ここで発生した興奮が心臓の刺激伝導系を伝わって心室筋を刺激して,心臓が収縮をする。この刺激伝導系の障害などのために心拍数が病的に少くなった場合には,人工的に電気刺激して,適当な回数で心臓を拍動させる必要がある。そのための電子装置をペースメーカー,正確には心臓用人工ペースメーカーという。電気パルスを発生する電子回路,電源電池,刺激を心臓に伝えるリード線と電極などから成る。電極は,心筋に直接縫いつけるもの (心筋電極) と,血管を通して心腔内に挿入するもの (カテーテル電極) とがある。緊急時や短期間の場合は装置は体外に置くが,普通は体内に埋込む。最近は長寿命電池 (リチウム電池) ,小型高信頼性回路 (IC,LSI) などの発達に伴ってすぐれたペースメーカーが実用化している。また生体の需要に応じてレートが自動的に変るレート応答型ペースメーカーも開発されている。ペースメーカーの定期的チェックのため,電話回線を利用して心電図を家庭や診療所から遠隔の中央病院に伝送する電話伝送も実用化している。これは一種の遠隔医療である。

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