日本大百科全書(ニッポニカ) 「土壌線虫」の意味・わかりやすい解説
土壌線虫
どじょうせんちゅう
袋形(たいけい)動物門線虫綱Nematodaのうち、土壌にすむ種類の総称。線虫類の学術名であるネマトーダともよばれる。生活圏が広く、数千種が海水、土壌など地球上至る所に生息し、土壌中の細菌、カビ、微小動物、腐敗有機物などを食べて生きる「自由生活」の種類と、動物や植物の体内でその栄養を奪って生きる「寄生生活」の種類がある。つまり、前者は広義の土壌微生物の一員として、自然界の物質循環や肥沃(ひよく)な土づくりにあずかる有益な線虫であり、反対に後者はヒトや哺乳(ほにゅう)動物の寄生虫として回虫、蟯虫(ぎょうちゅう)、鞭虫(べんちゅう)、旋毛虫、フィラリア(糸状虫)、腎虫(じんちゅう)、肺虫、十二指腸虫などのように疾病をもたらしたり、あるいは高等植物の根、茎、葉の組織に侵入してさまざまな病気をおこさせるネコブセンチュウ(根瘤線虫)、シストセンチュウ(被嚢線虫)、ネグサレセンチュウ(根腐線虫)、マツノザイセンチュウ(松の材線虫)など、いずれも医学、獣医学、植物病理学、応用動物学など広い学問分野にかかわり、とくに農業上、家畜や作物に大きな被害を及ぼす重要種が多い。
一方、バッタやクモなど節足動物の体内に寄生して宿主を倒す体長約10センチメートルの糸片虫(しへんちゅう)や、またカやヨトウムシなどの害虫に寄生させ、駆除に利用できる有用な天敵としての線虫もある。土壌線虫は標高5000メートルのヒマラヤの氷河や南極大陸からも発見され、あるいは酢に好んですみつくスセンチュウ(酢線虫)や40℃以上の温泉にいる線虫など変わった種類もある。線虫は、体長30センチメートルほどもある回虫など一部の大形動物寄生虫を除くと、体長は平均1ミリメートル内外で細長く、それを土から採集するには、水を入れた深めの容器に土を沈めながらかき混ぜ、水中に漂う線虫を絹のような細かな目のふるいで集め、詳しい観察に光学顕微鏡を用いる。線虫の体の構造は、キチン質の、やや厚く固い皮膚が、一つの細長い袋状になっていて、その中に筋肉や血液、消化、生殖、神経、排出の各器官が詰まった状態である。種類数は、植物寄生種だけでも2000種を超え、自由生活種にいたっては実在のまだ10分の1もわかっていないといわれている。
[一戸 稔]